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銀の弾丸などはない

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 ロイはあまり結果については信じていないような、けれどもどことなく楽しそうな表情でひっそりと口にした。


 さて、心配と期待を等分に集めるエドワードが実際にどこへいったかといえば、意外でもあり意外でもない相手のいる場所だった。
「兄さん」
 待ち合わせに指定した場所には、相手が既に来ていた。エドワードは歩く速度を上げてそのテーブルに近づく。
 やわらかな笑みを浮かべてこちらを見上げているのは、この世にたった一人の弟だ。
 …今はもう、生身の。そのままの姿の。
「わりぃ、待たせたか」
「ううん、ちょうど前の講義のキリがいいところで上がったら、ちょっと早かったっていうだけ」
 アルフォンスの前には紅茶があった。
「オレもお茶頼もうかな」
「はい」
「ん」
 気の利く弟が差し出したメニューを開きながら、エドワードはいささか行儀悪く足を組む。そうして肘をついて、さてどれにしたものか、と視線を走らせ、無意識のように長い金髪をかきあげる。それらの一連のしぐさは妙に絵になっていて店内の視線を集めていたが、当の本人は一向に気にしていなかった。
 もったいないというか、らしい、というか。
 アルフォンスは苦笑まじりこそりと息を吐いた。
「あーオレ、コーヒーにしよう」
「了解」
 メニューから顔を上げない兄にかわり、アルフォンスはウェイターに声をかけた。
「他には何かいるの?」
 じっとメニューを見ている兄に声をかけたら、いや、いらない、という答え。ただ見ているだけらしい。これには特に相槌を打たず、コーヒーをひとつ、とアルフォンスはオーダーを入れる。
「兄さん、お昼は食べたんだ?」
 何しろ実の兄だ。放っておけば簡単に寝食を忘れる人だということは、たぶん誰より身に染みて知っているはずである。まったく、ボクはお母さんでもお嫁さんでもないんだよ、なんてことは思わず、既に習慣になってしまったまめさでもってアルフォンスは問いかけた。それには、うん、という短い答え。
 ということはつまり、今は何かにそこまで夢中になっているわけでもない、ということだろうか。
「あのひとが面倒みてくれてるの?」
 とりあえず外であることを慮って、アルフォンスはロイの名前を出すことを控えた。
 兄がこちらではロイの家に滞在していることは、その前にアルフォンスの下宿に泊まろうとしていたくだりもあって存じていた。だから、もしエドワードが多少なりとも規則正しい生活をしているとしたら、それはひとえにロイの手腕によるものだろう。しっかり者の弟はそのように考えていた。
「ばーか。オレだって飯くらい食える」
 しかし、激しく負けず嫌いの兄には聞き捨てならなかったらしく、そこでようやくメニューから顔をあげた。おかしくなってしまって、アルフォンスはくすりと笑う。
「何笑ってんだ」
「別に? それより、ボクに用事ってなに?」
 きれいに話をそらして問う弟に、破天荒な自覚が最近少しは出てきた兄が負け惜しみに小さな舌うち一つ。けれどもすぐに頭を切り替えて、本来の用事について口を開いた。
「おまえさ、サックスグループってわかるか」
 アルフォンスはぱちりと瞬きした後、不思議そうに首を傾げた。
「そりゃあ知ってるけど…どうかしたの?」
 彼は今、セントラルにて医者の勉強中だ。ゆくゆくは医師免許だけでなく機械鎧についても学んで、故郷に帰るつもりだと聞いたことがある。それ以上については、エドワードは聞いていない。アルフォンスが自分で話すまでは、問い質すつもりはないのだ。何しろ、自分自身がしっかりとした生活をしているとは言い難いので、弟とはいえ自分が口出しできることなどないと彼は思っていたから。それにアルフォンスは、現実的なことにおいてはエドワードよりよほどにしっかりしている。
「どうかした、っていうか。…いや、噂とかさ、なんかないかなってさ?」
 アルフォンスの表情が真面目なものになった。しかし彼はすぐには口を開かず、まず、紅茶を一口飲んで間をおいた。そうしている間に、兄の前にコーヒーが出される。
 ウェイターが去ってから、アルフォンスはおもむろに口を開いた。慎重な様子だった。
「そりゃあ、医者の卵だからね。サックスについては、一般的なことは大体知ってると思う。でも、兄さんが聞いてくるってことは、そういうことじゃないんだろ」
 アルフォンスは、今も昔も数少ないエドワードの理解者だ。当然、今エドワードがどういう身分で、どういう風に生きているかを最もよくわかっているのも恐らくは彼だろう。なぜそんな風にしているか、ということまで含めて。
「…おまえに隠し事してもしょうがないか」
 エドワードは苦笑して肩をすくめた。
「そうだね。そんなことしたら、顔の形が変わるくらい殴るよ。手加減なしで」
 にこりと応じるアルフォンスに、おっかねぇ、そんな風に笑ってから、エドワードも表情を真面目なものに切り替えた。いや、真面目というのも少し違ったかもしれない。どこかに迷いが残っていたからだ。
「…おかしい、かもしれないんだ」
「確証はないんだ?」
 エドワードは黙って頷いて、自分の胸をとん、と指さした。
「でも、なんか引っかかるんだ」
「…それって、ボク的には八割確証あり、って感じがするけど」
 冗談めかしてアルフォンスは答えた。兄の勘は昔から鋭いのだ。
「…。今日の、昼前。ガキをひとり助けた」
「子供?」
「見るからに怪しい連中に連れてかれそうだったんだ、迷う必要なんてねぇじゃねーか」
「それはそうだろうね。…で、建物とかは壊さなかった?」
 エドワードは渋い顔で首を振った。
「おまえまでそういうこと言うかな。壊してねえよ、怪しい連中のあばらくらいは折ったかもしれないけど」
「あ、そう。人的被害の方ね…」
 アルフォンスはカップを持ち上げ、揺らしながら聞く。
「そうともいうな。ま、運が悪かったんだろ、オレの前で悪さしてたのが運のつきってやつだな」
 面白くもなさそうに言って片づけて、エドワードはコーヒーをひとくち啜った。あち、と言ってすぐにカップを置いて、そうして話を続ける。
「で、助けたはいいんだけど、オレが連れててもわけわかんないからさ、あいつんとこ連れてったわけだ」
「ああ…まあある意味適切な判断だったね。兄さんにしては」
「おまえ、一言余計だ。で、まあ、行ったらさ、今度は先回りしてるやつがいたわけだ。たぶんお仲間なんだろな、ってやつが」
 アルフォンスは眉をひそめた。もうその時点でトラブル決定だ。どうしてこの人はトラブルを拾うことに関しても天才的なんだろうか。天が二物も三物も与えたようなエドワードだが、その中にはどう考えても必要ではないものも多く含まれているらしい、とアルフォンスは常々そう思っていた。
「そしたらそいつが言うわけ。オレが、自分の娘を誘拐したって」
「兄さん…錬金術の次はロリ、」
「おまえはったおすぞ」
「冗談に決まってるじゃないの。それで?」
「まあ、そこはオレのエリートぶりっことあいつの口八丁でお引き取り願ったわけなんだけど」
「…ぶりっこじゃなくて、それが地だったらねぇ…兄さんて色々もったいないよねぇ…」
作品名:銀の弾丸などはない 作家名:スサ