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銀の弾丸などはない

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「だから、おまえなあ。聞くのか聞かないのかどっちなんだよ」
「聞いてるじゃないの、ほら、怒らない怒らない」
 釈然としない顔でじっとり見てくる兄ににこりと笑って、アルフォンスは続きを促した。
「…。それでな。その、やってきたやつが、サックスの人間なんだと。大佐が言うには」
「今は大佐じゃないでしょ」
「まあそうだけど、いいじゃねぇか。一番馴染みがあるんだよ」
 軽く言って、エドワードは再びコーヒーに口をつける。今度はさきほどよりは冷めていたのだろう、もう少し長く飲んでいた。
「…父親だっつってたけど、ほんとに父親かどうかわかんねえし、ルーシーは…助けた子供だけどな、ルーシーは、じいさんばあさんと暮らしてるっつってた。つまり父親は生活の中にいなかったわけだ」
「……」
 父親不在。
 その現実は、アルフォンスに不覚にも幼少時を思い起こさせた。エドワードも、もしかしたらそうなのかもしれない。そうだとしたら、余計に、その「父親」とやらに反感をもったかもしれない。そう思った。口には出さなかったが。
「ルーシーは本を持ってた。じいさんに渡されたんだと。絶対誰にも渡すなって言われて。…悪い魔法が書いてあるから、だって」
「…悪い魔法?」
 アルフォンスは眉をひそめた。魔法を信じているからではなく、魔法、そうたとえられる術を身近に知っていたからだ。そして、兄もきっと同じことを考えていると察したから。
「サックスは病院のグループだ。ここ何年かでずいぶんでかくなった。オレは病院にも病院経営にも興味がないからさっぱりわからないけど、普通に良心的にやっててそこまで急に成長するわけがないことはわかる」
 エドワードは皮肉っぽく口を歪めた。
「何かがあるんだ。たぶん。それが…、たとえばただ経営手腕が優れてるとかそいういことだったら、それは企業の論理だから、オレが首突っ込むことじゃねえと思ってる。…でもな、もし、もっと違う何かがあるんだったら」
 エドワードは考え込むように手を組んで、顎を押えた。案外に長い睫毛が伏せられ、その金色の瞳をやわらかく押し隠す。
 ああ、と感動に似たものをアルフォンスが覚えるのはこんな時だった。彼は、兄が思索に耽るその様子を見せる時、常人には考えも及ばないような領域へ易々と踏み込んでいくその瞬間に心が震えるのだ。そうして知るのは、天才を身近にもったという幸福と不幸。
「…それが『悪い魔法』と関係あるんじゃないかってこと?」
 エドワードはこくりと頷いた。
 兄がそう思うというのなら、アルフォンスのすることはひとつだった。きっと昔から、この先もかわらずに。
「サックスのことは、任せて」
「…おまえにこんなこと頼んで、悪い」
「何言ってるの。兄さんに暴走されるよりはよっぽどマシです」
 つん、と澄まして言ってから、いやそうな顔をした兄に笑ってみせる。
「もともと進路関係でも情報がなくもないからね。どこまでわかるかはわからないけど、ちょっと集めてみるよ」
「…ありがとな」
 照れくさそうにはにかむのを見たら、なんだかもうそれだけで許せてしまって、我ながらブラコンも重症だ、なんてこそりと思うのだけれど、今さら治る病でないのは百も承知だ。
 一緒に真理の扉を開けた日から、その前から、きっと。
「じゃあ、ある程度集まったら連絡するよ。兄さんも何か追加があったら連絡くれる?」
「おう」
 アルフォンスは伝票を手に立ち上がった。
「じゃあ、ボクそろそろ行くよ。次の講義があるんだ」
「あっ、こら、待てよ、茶くらい兄貴に出させろ!」
 エドワードはあわてて伝票を取り返そうとするが、弟の身のこなしは鮮やかの一言で、結局は取り返せずに終わった。
 くすりとアルフォンスは笑って、告げる。
「臨時収入があったんだ。これくらい出させてよ。ボクだって、兄さんの顔が見たかったんだ」
「…おまえ、いや、…そういうのは大事にしろよ、臨時収入」
「いいのいいの」
 歌うように言って、アルフォンスはカフェを出ていく。
 その背中を見送って、エドワードは椅子に座りこんだ。
 まったく、弟はいい男に育ちすぎて困る。自分だって負ける気はないのだけれど。
「あ、そうか、オレの教育が良かったってことか」
 はたとひらめいて、エドワードはそれ以上それについて考えることをやめた。彼はとにかく、プラス思考の人だった。


 エドワードは夕刻前に司令部へ戻った。そこで、ロイから改めてルーシーをめぐる情報を聞かされた。
「…ふーん」
 迎えにきたのは叔父、という話に、エドワードはさして大きな反応は示さなかった。そのことに、逆にロイは不安を感じてしまう。エドワードのリアクションがオーバーでなかった時というのは、えてして彼の中で何か壮大な計画が練られている時だったりするので油断がならないのだ。
「ところでさぁ」
「ちなみにルーシーの保護先についてはホークアイ大尉を中心に軍部女子寮で、ということになった」
 どうだ、とばかりロイはエドワードを見た。この青年のことだ、自分が保護すると言い出しかねないと思ったのである。
 …そうしていきつく先は間違いなく市街破壊。
 だが、悔しがるかと思われたエドワードの反応はそんなものではなかった。彼はぱちりと瞬きしたあと不思議そうな顔をして、ああそう、それはある意味この国で一番堅固な場所だよな、とあっさり認めてしまった。…ロイの不安はますます大きくなった。
「君、何か悪いものでも食べたのか、大丈夫か?」
「は? あんた何言ってんの、失礼だな」
 エドワードは眉をひそめた。それでロイも咳払いを一つ、話題を戻す。
「…今のところ、相手の目的が分からないので、おいそれと動くことはないように」
「でも、ルーシーのじいさんは重体なんだろ?」
 そこで初めてエドワードが眉をひそめた。
「そうだ。…だがそれが必ずしもサックスの命令によるものかどうかはわからない。証拠がないし、動機もない」
「…動機ならあるだろ」
「…ルーシーの本か?」
 エドワードは頷いた。ロイもまた真面目な顔になる。
「サックスがどうやって今みたいにのし上がったかはわからない。だけど普通のことをやってたらありえない成功だろ」
「…それはそうだが」
 ロイもまたそれは認めざるをえなかった。確かに、おかしい。
 エドワードは強い目でロイを見据えながら、続けた。
「魔法って、あんたも思っただろ。錬金術じゃないのかって」
「……確かに一般人から見たら大差はない。ないが、」
「命に関することはタブーだ。あんただって疑ったはずだ、襲われたじいさんは錬金術に関わりがなかったか、サックスは本当に関係ないのか」
 ロイは…、ため息をついて、降参だ、と肩を竦めた。
「――まだ君の報告を全部聞き終えていないのに」
 恨み節のような言い方にエドワードは笑ってしまった。この男は本当に、愛すべき人間だ。そう思う。
「全部あんたのためだよ」
 笑って言えば、拗ねたような眼を向けてくる。
「知ってるだろ? 忘れたのか? オレが動くのはあんたのためだ。オレの目はあんたの目で、オレの手はあんたの手だ」
 こんなにもおまえのものなのだ、と言ってやれば、今度は困ったような顔になる。
作品名:銀の弾丸などはない 作家名:スサ