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Love yearns(米→→→英から始まる英米)

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Love yearns act4


頭が痛くてぼんやりする。
秘書の淹れてくれた珈琲を飲みながらアメリカは額を抑えた。
冷めきった珈琲は苦みが強くて、砂糖とミルクをたくさん入れた甘い珈琲が
好きなアメリカにとってはあまり美味しくない味だけれどせっかく淹れて
くれたのだからと一気に飲み干す。
空になったカップを書類の邪魔にならないところに置いて
額を抑えたまま少し上半身を倒した。
我慢できないほどではないし、ここのところ慢性的に続いているせいもあって
痛みには慣れてしまった。
とはいえ、意識がぼんやりしてくるのはまずい。
ため息をひとつついて引き出しから薬を取り出す。
「国」に人間の薬がどれほど効果があるのかわからないが、気休め程度にはなるだろうと
プチプチと包装から押し出す。
立ちあがって、サイドテーブルに置かれた輪切りの檸檬が入った水差しから
たっぷりと水をグラスに注ぎ、薬と共に一気に飲み干した。
「っげほっ」
一気に大量の水を摂取しようとしたのがまずかったのか、アメリカは勢いよく噎せた。
口を押さえた指の間から水がぼたぼたと零れ落ちる。
身体を折り曲げて何度も咳込んだ後、これ以上零さないように口元を手で押さえたまま
よろよろと備え付けのシンクに歩み寄る。
飲んだ分の珈琲と水を吐きだし、指の色が白く変わるほど強くシンクを掴んで
アメリカは込み上げてくる吐き気に耐えた。
どうせ吐きだすものなど無い。
あの日からほとんど食物を口にしていないのだから。
喉が痛くなるほど咳込んだアメリカはシンクに沿ってずるずると座り込んだ。
汚れた手をおざなりにシャツで拭い前髪をぐしゃりとかき上げる。
ずきずきと痛むのは頭か心か。
わかんないや、と小さく呟いて床を見つめる。
磨き上げられた大理石にぽつぽつと零れている水。
零さないように歩いてきたつもりだったが、やはり多少は零れてしまっていたようだ。
後で拭かないとなと考え、伸ばしていた膝を抱え込み顔を埋めた。

二か月前のあの日からイギリスの態度はがらりと変わった。
まるで独立直後の、いやあのときよりも酷く、アメリカの存在を無いもののように扱い
会議のときにアメリカ合衆国として発言してようやく見てもらえたぐらいで
後は挨拶をしようが話しかけようが全て無視されてしまった。
最初は唐突ともいえるイギリスの態度の変化に憤りもしたが、それは長く続かなかった。
愛する人に嫌われ、存在すら認められないという状況は元々疲弊していたアメリカの心を
さらに疲弊させたからだ。
まず最初に眠れなくなり、次に大好きなジャンクフードが食べられなくなった。
次第に固形物が食べられなくなり、ならばと風邪をひいたときにイギリスが作ってくれた
チキンスープも駄目で、ついには水すら受け付けなくなってしまった。
最近はコップ一杯の水を飲み干すのもやっとのことだった。
国は人の形をしているものの、人ではないので食べず眠らずでも国があれば
生きていけるのだが、宿している心はそうもいかない。
特にアメリカは食べることが大好きであったからハンバーガーはおろかシェイクさえ
飲むことのできない日々にストレスを感じていた。
だがそれも一週間が経ち、二週間が過ぎればどうでもよくなってくる。
ちょっとしたダイエットだと思えば何て事は無い。
それよりも何故、イギリスはいきなりあんなことを言い出したのか
そちらの方が気になった。
思い返してみても、イギリスの逆鱗に触れるような言動をした覚えが無い。
細かいことで何度か怒らせはしたけど、彼の本当に嫌なこと、嫌いなことだけは
しないようにしていたのだ。
ああでも。
イギリスの彼の家に遊びに行くことは許容してくれても、アメリカに遊びに来ることの
無かった彼。
元々、アメリカのことを許してなどなかったのかもしれない。
許していなかったけれど、国際協調を謳うような世の中になってきて
それに合わせてイギリスはアメリカのことを許したように振る舞っていたのだ。
元々、二枚舌とか三枚舌だとか言われていた人物だ。
それぐらいのことはたやすいに違いない。
そこまで考えてアメリカは滲んできた涙を膝で拭う。
最近はどうも涙腺が弱くて仕方ない。
まるであの頃に戻ったみたいだった。
年に片手で数えられるほどしか新大陸に来られなかったイギリス。
せっかく来ても仕事が忙しくて、なかなか相手をしてもらえず、アメリカはいつも
イギリスを恋しがって泣いていた。
あの頃に戻りたいとは思わない。
けれど、あの頃に戻ることでイギリスにいらないと言われないなら、あるいは。
トントン
「祖国。お客様がいらしております」
「客?」
どこまでも落ちていきそうな思考を引き戻したのは聞き慣れた部下の声だった。
来客を告げられ、アメリカはよろよろと立ち上がる。
入っていいよと告げると間を空けずに部下が入ってきた。
入ってきたのは部下一人だけで客人とやらはいない。
もしかして何かの取引や打ち合わせの相手だろうかと脳内でスケジュールを探るが
思い当たる節は無い。
最近、どうもぼんやりしがちだから忘れているのかもしれない。
そうアメリカは考えて部下に問う。
「客?約束していたっけ?」
「いえ、アポイトメントはないのですが」
躊躇いがちに秘書の告げた名はアメリカにとってなじみ深いもので
面会を断る理由など無い。
通すように告げると秘書は畏まりましたと頭を下げ、部屋を出ていく。
ほどなく、良く似た面差しが部屋に入ってきてアメリカは笑った。
「久しぶりだねカナダ」