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Love yearns(米→→→英から始まる英米)

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「俺はイギリスが大事だよ。すごく大事だ。でもイギリスの為に国民のことを
 裏切れない。それは俺が国だからということもあるけど、一番の理由は
 俺が国民を愛しているからなんだ。だからあのときだって俺は銃を手に取った。
 結局、俺も彼を撃つことは出来なかったけどね」
自嘲気味に微笑んだアメリカは顔を上げカナダを見た。
黙って話を聞いていたカナダは考え込むように軽く眉根を寄せてアメリカを見ている。
その顔は鏡にうつしたようにアメリカにそっくりでやはり彼と自分はまぎれもない
兄弟なのだと確信した。
兄弟に元兄への想いを相談する。
何と許し難い罪を犯しているのだろうと思う。
元兄を愛するだけに留まらず、そんな感情を知らなくていい兄弟まで巻き込んでいる。
カナダだけではない、日本やフランスのことも巻き込んでいる。
自分がイギリスのことを愛しているせいで多くの人を傷つけている。
それでもイギリスのことを想うことは止められない。
微笑んでいるアメリカを見つめていたカナダはねぇアメリカと囁く。
なんだい?と応じれば、眉間の皺を和らげてカナダは口を開いた。
「僕にはイギリスさんが何を考えて、今の態度を取っているのか僕にはわからない」
イギリスの名にアメリカはびくりと身体を震わせる。
カナダはアメリカを安心させるように眼差しだけ和らげて話を続けた。
「イギリスさんはキミが独立した後、何十年も荒れていたんだ。周りの人はキミのことを
 憎んで恨んで暴れているんだって言っていた。けどね、僕には違って見えたんだ」
呼吸すら潜めてアメリカはカナダの話を聞いていた。
一言一句漏らさないように聞き耳を立てている。
「イギリスさんは自分を責めていたように見えたんだ。アメリカの育て方を間違ったとか
 そういうのじゃなくて、もっと自分の感情に根差した何かを憎んでいた」
「なんでイギリスが自分を責めるんだい?責めるのは弟じゃなくなった俺のことだろ」
「何故かはわからない。でも、あの頃のイギリスさんの一番近くに居た僕は
 そう思えなかった。あの戦争を経ても、イギリスさんはキミのことを愛していた。
 キミの言う愛とは違うかもしれないけど、まぎれもなくイギリスさんはキミのことを
 愛している。そんなイギリスさんがキミのことを嫌うなんて僕には信じられないよ」
「それはもしかしたら俺が弟として戻ってくるかもしれないと思っていたからだよ」
「アメリカ・・・」
押し殺した声で反論するアメリカにカナダは気遣うように声をかけた。
だが、アメリカは視線を逸らし、淡々とした声を出す。
「独立した後でも、俺が悪かったって、弟に戻りたいって言いだすのを
 彼は待っていたんだよ。だけど俺は弟に戻らず、それどころか幼い頃の思い出なんて
 全部捨ててアメリカ合衆国になった。彼は確かに愛してくれた。その気持ちを
 疑ったことなんてない。でも、彼が愛しているのは英領アメリカなんだ。
 今ここにいる俺じゃないんだよ」
「・・・・・・」
「だから彼が俺のことを憎んだり、嫌ったりするのは当然のことなんだ。
 俺は彼の『アメリカ』を奪った憎き男だからね」
「・・・・・・アメリカ。キミはそんな悲しいことをずっと考えていたの?」
「悲しい、のかな?悲しいのかもしれない。けど、俺なんかよりイギリスの方が
 ずっと悲しくて辛い思いをしているんだぞ」
「馬鹿。アメリカの馬鹿」
そう言ったきり、口を噤んでしまったカナダにアメリカは苦笑した。
悲しいことと言われればそうなのかもしれない。
だけど事実なのだ。
今ここに居るアメリカは彼の可愛い『アメリカ』を奪った憎き存在。
だから、いくら愛しても彼に愛されることは無い。
それどころか溜まりに溜まった憎しみをぶつけられて、嫌いだ、いらないと
言われる有り様。
ふぅと息をついてソファーに全身を預ける。
逸らしていた視線を天井に向け、そうだ、とアメリカは呟いた。
「姿は無理でも態度だけでも英領アメリカに戻ったら、イギリスは俺のことを
 愛してくれるのかな?」
「アメリカ・・・?」
何を言っているのキミは?と続けそうな声でカナダは名を呼ぶ。
ううんと唸ったアメリカはカナダの戸惑いに気づかず、軽く頷いた。
「わかっているよ。俺の姿は彼の天使からはかけ離れているからね。
 無理だってことはわかっている」
「そういうことじゃないんだよ!アメリカ、キミはッ」
「・・・・・・俺は彼に『アメリカ』を返してあげることはできないんだね」
「アメリカ!!」
がっちり肩を掴まれて、ようやくアメリカはカナダに視線を向ける。
同じ顔をした兄弟は何故か泣きそうな顔をしていて、目には薄く水の膜が張っていた。
どうしたのだろうと思った。
いつものように空気を読まないでそう思うのではなく、読んだ上でどうしたのだろうと
純粋に思った。
カナダが泣くような話をしていない。
ただ自分はイギリスにイギリスの大好きなアメリカを返してあげることが
出来ないという話をしただけだ。
ああ。だとしたら、イギリスが可哀想で泣いているのかもしれない。
カナダはとても優しいから、自分の痛みのように感じてしまったのだろう。
ごめんねカナダと言うとついに耐えきれなくなったのかカナダはポロポロと
涙を零し始めてしまった。
(ヒーロー、失格なんだぞ)
しゃくりあげるカナダの背中を優しく撫でながらアメリカは心の中で呟く。
この前は日本を泣かせて、ついにはカナダまで泣かせてしまった。
ヒーローにあるまじき大失態だ。
だが、これだけの大失態を犯したというのに、まだ彼への想いは揺るがない。
性質の悪い愛情だ。
カナダの視線がこちらに向いていないのをいいことにひっそりと自嘲を浮かべる。
彼のことを懐古主義だのねちっこいだの散々からかってきたけれども
考えてみれば、余程自分の方が懐古主義でねちっこいではないか。
思わず、ふふっと笑いを零すとようやく涙の止まったカナダが「アメリカ?」と
不思議そうにこちらを見る。
何でも無いよと答えアメリカは口唇を引き結ぶ。
もう一度、イギリスに謝ろうと思った。
許してもらえるとは思えないけれど、カナダや日本の涙を無駄にはできない。
それに想いが成就するのは諦めているけど、仲良くすることまで諦めたわけではない。
大丈夫。
また一つ一つ頑張っていけばいい。
それに自分はヒーローなのだ。出来ないことは無い。
「・・・・・・アメリカ。キミは」
「大丈夫なんだぞ。キミも知っているだろ。俺はヒーローなんだ」
明るく、明るく笑う。
全ての不安を吹き飛ばして。
恋心だって、愛情だって完璧に隠してみせる。
彼の可愛い弟に今のアメリカの心はいらない。
見てくれはどうしようもなくとも、振る舞いだけはあの頃のように。
大丈夫だ。
彼の望む弟のように振る舞えば、いつかはきっと。
だから。
「心配しないでくれよ。ヒーローはハッピーエンドしか訪れないからね」
今のいらない俺は深く、深く、沈めてしまえば良い。
ふわりと笑ったアメリカの表情はカナダが目を見張るほどあの頃の笑顔に酷似していた。