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Love yearns(米→→→英から始まる英米)

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Love yearns act5


「おはようイギリス」
「・・・・・・」
会議室に入る前、資料を抱えたイギリスと廊下ですれ違ったので
にこりと笑って挨拶をするとイギリスはこちらにちらりと視線を寄こしただけで
返事を返さず、さっさと歩いて行ってしまった。
それでもアメリカの心に落胆の色はなく、むしろほんのり色づいたほどだ。
春先の会議では視線さえ寄こしてくれなかったのだから確実に進歩している。
ちらりと向けられた視線に何の感情も込められていなかったけれど
拒絶の色も無かった。嬉しい。
嬉しさのあまりくふふと笑みを零すと、前方から同じように資料を抱えて歩いてきた
日本がぴたりと歩みを止めた。
おはよう日本、とイギリスに対するように挨拶をするとおはようございますと
どこか歯に物が挟まったような言い方で返される。
どうしたのだろうと首をかしげて日本を見下ろすが日本からは返事は無い。
いつも通りの無表情に微かに戸惑いのようなものが浮かんでいて
それはアメリカに向けられている。
「ええと何と言っていいのか・・・」
言葉を探し、言い淀んだ日本は視線を斜めに逸らす。
日本?と呼び掛けると彼は逸らした視線を戻さないまま重い口を開く。
「・・・・・・大変失礼なことだと思うのですが、ずいぶんその、可愛らしい感じだと
 思いまして」
向けられた言葉の意味を理解できず、アメリカは目を瞬かせた。
可愛いと言われていたのは英領アメリカの頃で、今となっては可愛いなどと
言われたことはほとんどない。
アメリカ自身だって可愛いと言われて嬉しくないのだから今までのアメリカだったら
憤慨していた。
そう、今までのアメリカならば。
「それは本当かい?」
「あ、申し訳ありません。失礼なことを言ってしまって」
アメリカが怒っていると勘違いした日本はすぐに謝罪の言葉を口にした。
それを受け取らずアメリカは首を振る。
違うんだ。そう呟いてアメリカは問う。
「俺、少しは可愛くなったかい?」
「え・・・・・・?」
「そらもうお兄さんもびっくりするほど可愛くなったと思うよ」
「フランス」
戸惑う日本の代わりに答えたのはフランスだった。
日本の後ろから現れたフランスはやはり会議で使う資料を持っていて
意味ありげな微笑をアメリカに向けた。
普段だったら怒るのであろうがやはりアメリカは怒りもせず
にこりと笑ってフランスを見返す。
フランスに可愛くなったと言われたのならば、アメリカの取っている態度は
間違えなく昔のアメリカに近づいているのだろう。
昔のアメリカに似せることは難しいと思っていたが、余計なプライドを捨ててしまえば
案外簡単なのかもしれない。
にこにこと笑っているアメリカに微かに目を見張ったフランスは資料を持っていない方の手でアメリカの頭を撫でた。
フランスの撫で方は英領アメリカだった頃にイギリスの目を盗んで撫でてくれた時と
同じでとても優しい。
懐かしいなと呟いたアメリカの頭を何度か撫でてからフランスはアメリカに尋ねた。
「どういう心変わり?お前、昔みたいな顔しているじゃない」
「昔って?」
「英領アメリカの頃の顔だよ。すごいそっくり」
「本当かい!?」
ぱあっと輝くような笑顔を浮かべてアメリカは問い返す。
あの頃を知っているフランスにそっくりと言われたのは朗報だ。
自分が思っているよりも着実にあの子に近づいている。
嬉しそうににこにこと笑うアメリカとは対照的にフランスは苦虫を噛んだような表情を
浮かべた。
いつも飄々としている彼にしては珍しい表情に首をかしげる。
何故、そのような表情を浮かべるのだろうか。
アメリカがあの子に近づくということはイギリスの苦しみが減るということなのに。
口ではいろいろと言っているけれども、フランスがイギリスを放っておけないことを
アメリカは十分すぎるほど承知している。
だからフランスの表情を不思議だと思ったのだ。
フランスが喜ばないわけがないと思ったから。
「なあに喜んでいるのさ。過去の自分を重ねられるのは嫌だったんじゃないの?」
「・・・俺、イギリスに『アメリカ』を返そうと思って。その方が良いって
 やっと気づけたんだ」
「はあ?」
わけわかんないよと言ったフランスをアメリカは拗ねる様に睨みつけた。
わからないはずがないだろと意味を込めて。
だがフランスは本気で意味がわからないようで顰め面を解かなかった。
自分よりも蒼が濃い瞳を睨んで頬を膨らませる。
ちらりと日本を見てみたが、彼もわかっていないようで困惑しきった表情を浮かべていた。
どうしてわからないのだろう。
二人ともイギリスと仲が良いのに。
言葉にはせず、アメリカは心の中で呟く。
彼が愛しているのは英領アメリカで今ここにいる「アメリカ」ではない。
だから彼を愛している自分は彼の為にあの子を返そうと思ったのだ。
そうしたら、いらないなどと言われない。大嫌い、とも言われない。
イギリスがあの子を想って苦しむことも無くなる。
「あのね。そんなこと無理に決まっているだろ」
「無理じゃないよフランス。キミだって言ったじゃないか。英領アメリカの頃の
 顔にそっくりだって」
「お前な」
「ヒーローは不可能を可能にするんだ。俺にできないことは無いんだぞ。
 まあさすがに姿を縮めることはヒーローの俺でも無理だけどね」
イギリスの魔術だっけ?あれなら出来るかもしれないねとアメリカは笑いながら言った。
笑いながらでなければ言えない台詞であった。
イギリスの名前を口にすると胸が痛くなる。
痛くなるだけではない。
目じりが熱くなって零れてしまいそうになる。
恋心だって愛情だって完璧に隠さないといけないのに溢れてしまいそうだ。
そうでなくとも、イギリスの理想の英領アメリカは俗世の感情なんて持っていない
清らかな子だというのに。
気持ちが膨らみすぎる前に息を大きく吐いて、落ち着かせる。
この程度で気持ちを乱しているようではまだまだだ。
気持ちを落ち着かせている様子のアメリカをしばし何も言わず見つめていたフランスが
一つだけ言っておくと口を開いた。
「お前が覚悟を決めているなら、お兄さんはこれ以上口を挟む気はないけど
 これだけは言っておく。そんなことしたって、あいつは喜ばないよ」
「そんなことないよ。イギリスは小さい頃の俺が好きなんだから」
「あるの。あんまり気まぐれで振り回さないでおくれ。被害に遭うのは
 お兄さんなんだよ」
「気まぐれじゃないよ。俺は本気だ」
「だったら尚更だ。本気だったらするんじゃない」
最初は穏やかな物言いだったのが、言葉を重ねることにヒートアップしていく。
フランスは譲れないようだったがアメリカもまた譲れなかった。
気まぐれなんかであの頃に戻ろうなんて思えるわけがない。
思考に思考を重ねて出した結論なのだ。
その想いを気まぐれなんて言葉で評するのは許せるはずがない。
張り詰めた空気にそれまで黙っていた日本が何とか和らげようと口を開く前に
野太い怒鳴り声が空気を裂いた。