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Love yearns(米→→→英から始まる英米)

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会議が終わってすぐに議場を出て行ったイギリスをアメリカは躊躇うことなく
追いかけた。
足早に廊下を歩く彼に追い付いた時にはアメリカでさえ軽く汗をかいたほどだ。
滲む汗を拭うことなく、アメリカはイギリスの背中に向かって声を張り上げる。
「イギリス」
彼は振り向かない。だが、歩む速度を心持落としたような気がして
再度アメリカは呼びかける。
「ねえイギリス」
甘えるように名を呼んでようやくイギリスは足を止めた。
振り向きはしないが足を止めてくれたことに感謝をしてアメリカは距離を詰める。
腕一つ分の距離まで近づき、静かに息を吸う。
緊張にちりちりと胃の淵が焼けそうだ。
胃が痛いなんて日本みたいじゃないかとひっそり自嘲してから口を開いた。
「・・・・・・信じてもらえないだろうけど、俺はキミが嫌いで
 独立したんじゃないんだ」
「今更その話か」
冷たい刃のような言葉に胸を裂かれそうになるがアメリカはうん、と頷いて
言葉を続ける。
痛いのは自分ではない。イギリスなんだと言い聞かせて。
「俺がキミが好きだ。でも、あのとき、俺は国民の意思に逆らえなかった」
「国民を言い訳に使うのか?最低だな」
ようやく振り向いたイギリスははっきりとアメリカを嘲笑った。
見下されていることよりも何よりも滲む憎悪にアメリカの心は痛む。
じわりと涙が滲みそうになるが、息をつめてぐっと堪えた。
泣いては駄目だ。泣いたら彼にうっとおしがられる。
「違う!言い訳に使いたいわけじゃないんだ!俺は・・・」
「合衆国。この話を蒸し返してもお互いに利益はない。例え貴殿の意思が
 そうであったとしても過去は変わらない。・・・急いでいるので失礼する」
「あ・・・・・・」
掴もうとするアメリカの手をするりと抜けてイギリスは歩き始める。
空振った手を握りしめて、頭をフル回転させる。
このままではまたイギリスと話す機会を失ってしまう。
何でもいい。何でもいいから彼の足を止める手立ては・・・・・・
ふ、と思い浮かんだ台詞。
それにアメリカにとってもろ刃の言葉ともいえる台詞。
だけどそれでもいい。
彼をここに引きとめられるならば。

「お兄ちゃん」

けして大きくない声量で吐きだされた呼び名は視界から消えつつあるイギリスの足を
ぴたりと止めた。
そしてゆっくりと振り返るイギリスの顔は驚きに彩られている。
だが驚いたのはイギリスだけではなく、アメリカ自身ですら驚きに目を見張った。
思わずイギリスから顔を逸らして口元を覆う。
いくら彼を引き留めたかったとはいえ、この呼び方は無かった。
イギリスとて今のアメリカに呼ばれたい呼び方はないだろう。
それに彼は兄がとても苦手だったはずだ。
『お兄ちゃん』などと呼ばれて嬉しいはずが無い。
「・・・・・・アメリカ」
ゆっくりと歩み寄ってきたイギリスが口を押さえている手の手首を掴みながら
呼びかけてきた。
まだ振り向けないと視線を逸らしたままでいると今度は直に名前を吹き込まれる。
「アメリカ」
呼ぶ声の艶めかしさにぞくぞくと背筋を何かが走り抜ける。
堪え切れなくなって、ゆるりと視線を向けると感情の見えないエメラルドが
アメリカを見据えていた。
先ほどまで浮かんでいた嘲笑も憎しみも無く、透き通るような眼差しが
真っ直ぐ向けられている。
その眼差しに惹かれて、勝手に言葉が零れ落ちた。

「キミと過ごした日々を忘れたことは無かった」
「・・・・・・」
「俺にとって、あの頃は宝物みたいなものなんだ。忘れたことも無い。
 嫌だったことも無いんだ」
「・・・・・・」

「ごめん、ごめんイギリス」
酷いことを言ってごめん。好きになってごめん。愛してしまってごめん。
それでもキミを好きで愛しているんだ。
言葉には決してできない想いを封じ込めたまま、アメリカは謝罪の言葉を
イギリスに告げた。
外交上で仕方なく謝罪を告げたのを除けば、アメリカがイギリスに謝ったのは
初めてことだった。
独立して以来、アメリカはどんなに己が悪くても謝罪の言葉をイギリスに
告げたことは無かった。
酷い罵りの言葉しか彼にぶつけてこなかった。
自分の気持ちが知られたくないという利己的な理由で彼を傷つけ続けた。
その報いがイギリスのあの言葉だというのならば、アメリカは甘んじて
受け入れなければならない。
それでも。
祈るようにアメリカは願う。
彼の大好きなあの子のようになれば、イギリスは許してくれるのかもしれない。
大きくなってしまった身体はどうしようもないけれど、せめて態度、表情だけでも
あの頃に戻れば。
怒られた時のように緩く頭を下げ、目を瞑る。
よくイギリスに怒られたときに怒るイギリスが怖くて、下を俯いていた。
あのときと同じようにアメリカは俯く。
ふ、と細い息が零れ、アメリカの手を掴んでいない方の手が持ち上げられる気配がした。
そのまま殴られるのか。
覚悟を決めて歯を食いしばったアメリカの頬にその手はそうっと壊れそうなガラス細工を
触るように触れる。
「・・・・・・俺も酷いこと言って、悪かった」
あまりにも思いがけない言葉にアメリカは大きく身体を震わせた。
その震えを宥める様にイギリスは頬を優しく撫でる。
「お前が弟扱いされるのを嫌がっているのは知っている。けどな、俺にとってお前は
 あの頃から変わらず、ずっと可愛い弟なんだよ」
知っているよ。声には出さずアメリカは頷く。
独立戦争を経ても覆せなかった彼の想いだ。
十分すぎるほどアメリカは知っている。
「・・・・・・俺、弟に戻れないよ」
イギリスの可愛い弟に戻るには汚いことを知りすぎてしまったし、何よりもこの身に
抱いている想いが彼の弟に戻るための最大の障害だ。
態度や表情をいくら取り繕ったとしても、それは表面上の物で
彼の愛している英領アメリカにはどうやったって戻れない。
だが今のアメリカは彼の理想の弟にもなれないまがいものだ。
だから捨ててしまおうと決意をした。
少しでも、あの頃のアメリカに近づけるようにと。