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Love yearns(米→→→英から始まる英米)

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Love yearns act6 UK side


静まり返った部屋に木霊する寝息が一つ止まる。
完全に寝入っていたはずのイギリスはゆっくりと瞼を持ち上げ、腕の中のアメリカの
様子を窺った。
透き通る青の瞳は瞼に覆われており、よく回る口も今は閉ざされている。
よく寝入っているのを確認すると、そうっと腕をアメリカの下から抜き取った。
「ん・・・」
出来る限り衝撃を与えないように抜いたつもりだったが、アメリカは眉を寄せて
むずがる。
だが起きる気配は無く、ほっとしてイギリスは眉間のしわを解くように
額にキスを落とす。
何度か啄ばむようにキスをして、アメリカの寝顔が穏やかになった頃、起こさないように
ゆっくりと身を起こし、ベッドを抜け出した。

「どうしたんだよアイツ・・・・・・」
ベッドを抜け出したイギリスは窓の傍に置いてある藤で編んだロッキングチェアに
深く身を預けため息をついた。
このところ、アメリカはまるで幼い頃に戻ったかのようにイギリスに甘え、懐いている。
公式の場や親しくない者の前を除けば、驚くほどアメリカはイギリスにべったりと
ひっついていた。
会議のときであっても休憩時間は人目のつかないところに連れて行かれ
会議中、甘えられなかった鬱憤を晴らすがごとくアメリカは抱きついてくる。
そのたびにイギリスは込み上げてくる衝動を押し殺すために理性を総動員しなければ
ならなかった。
「どうしたのイギリス」
と穢れを知らない無邪気な瞳で見上げてくるたびにぐちゃぐちゃにしてやりたくなる。
赤子のように柔らかい、しかし青年の張りも併せ持つ肌を汚してやりたくなる。
―――――イギリスはアメリカを愛していた。
それは弟に対する愛ではなく、一人の男として、ただのイギリスとして
アメリカを愛していた。
きっかけは何だったかわからない。
少なくとも、彼を弟とした当初はそのような欲望など抱いていなかった。
だが彼が独立する10年ほど前にアメリカを訪ねたとき、急激に成長した彼を見て
「汚してやりたい」と感じた。
身体ばかりが大きくなって、純粋な心を持ち続けるアメリカを自分の下で泣かせたい。
その欲望に気づいたとき、イギリスは吐き気すら催した。
我が弟と可愛がる愛し子に一瞬でもそのような穢わらしい欲望を抱いたことに絶望した。
汚してしまったことに涙した。
それからイギリスはその気持ちを押し殺してアメリカに接した。
だが、自覚してしまった感情は殺しきれず、彼の髪に触れるたび、その肌に触れるたび
どうしようもなく膨らんで、弾けそうになって、何度も苦しんだ。
それでも、初めて人を愛した感情はイギリスを幸福に溺れさせた。
欲望を抑え込む辛ささえなければ、毎日が輝くように幸せだった。
どんなに辛い時でもアメリカの顔を思い出せば心が休まり、次へ取り組む力が湧いた。
そうやって過ごしているうちに抱いていた欲望との折り合いもだんだんつくようになり
ようやく穏やかな日々を過ごせるようになったそのとき。
アメリカはイギリスから独立を果たした。

独立した時のことを思い出すと胸が張り裂けそうになる。
けれど、同時に仕方ないという思いもある。
アメリカは勘が鋭い聡明な子だ。
イギリスの汚い思いに気づいて嫌ったのだろう。
イギリスとて、アメリカ以外の男に思いを寄せられていると知ったらぞっとする。
アメリカだから好きになったのだ。
けれど、アメリカはイギリスのことを好きになることは無い。
彼がストレートだからというのも理由の一つであるが、最大の理由はイギリスの
欲望に晒されていたからだ。
手を出すことは全理性を持ってさせなかったが、気取られる程度には漏れていたと思う。
以前、フランスに「お前、あんま変な目でアメリカ見ない方がいいと思うよ」と
釘を刺されたこともあるほどだ。
フランスでさえ気づいた薄汚い欲望にあの聡いアメリカが気づかないわけがない。
実際、独立してからのアメリカは過去を全て忘れたかのようにイギリスに冷たかった。
口を開けばこちらを嘲笑うような言葉しか吐かず、冷たい視線に涙した日も
両手から溢れるほどあった。
だが、それでもアメリカはイギリスの愛しい子でしかなかった。
周囲に示しをつけるために「合衆国」と呼び、冷徹とも受け取れる態度で接しはした。
持ち前の二重舌外交といわれる外交技術で平面上は何でもないように装っていたものの
アメリカの悲しげな顔を見るたびに抱きしめて大丈夫なのだと頭を撫でてしまいたくなり
そのストレスとジレンマ解消によくフランスをぶちのめしたのも今となっては
懐かしい思い出だ。
ふ、と息をついてベッドを見やる。
丸まって寝ているアメリカは本当によく眠っていて起きる様子は無い。
もう少し時間を潰してからベッドに戻ったとしても気づくことは無いだろう。
またため息をついたイギリスは立ち上がってキャビネットの扉を開いて酒を取りだした。
傍にある小さなグラスも手に取り、出窓の張り出した棚に置く。
コルク栓を外し、置いたグラスの淵ギリギリまで注いで一気に煽った。
今年一番の出来だと言われる酒はやはり香りも味も良い。
もう一杯注いで飲み干し、少し気分がほぐれてきたところでイギリスは
アメリカの変化に思考を飛ばした。

思い返せば、春先の会議の頃から様子がおかしかったように思える。
春先の日本で行われた世界会議の途中。
突然怒り出したアメリカは会議室を飛び出し、追いかけて行ったイギリスに
いつもの憎まれ口を叩いたのだ。
反射的に涙が滲んだが、それ以上に様子のおかしいアメリカが気になり
喚き立てながらも注意深くアメリカの様子を窺った。
そして騒いでいるうちにフランスが乱入し、場を収めようとして。
―――――アメリカが泣いた。
人に弱みを見せることを嫌がる男がよりによってイギリスの前で泣いたのだ。
独立して以来、初めてアメリカが見せた涙に激しくイギリスの心は軋み
知らずのうちに泣かせるほど追いつめていた自分を罵りたかった。
もしもイギリスがアメリカに恋愛感情を持っていなかったとしても
彼の涙を見てしまったら、アメリカが圧倒的に悪かったとしても
その相手を責めずにはいられないだろう。
それが他ならぬイギリス自身だとしたら尚更だ。
尚更、許せない。
ならばせめて宥めようと伸ばした手は振り払われ、アメリカは涙に濡れた声で
イギリスの心を砕くような言葉を投げつけた。

「触らないでくれ。キミの顔、これ以上見たくないんだ」

その場で泣きじゃくらなかったことが不思議だったほど、否、泣くこともできないほど
心を打ち砕かれ、たまらずイギリスはその場を立ち去った。