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Love yearns(米→→→英から始まる英米)

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待ってくれよと言わんばかりに差し出された手を振り払ってイギリスは踵を返す。
これ以上この場に留まってしまえば、自分が何を言い出すのかわからなかった。
決して触れてはいけない独立の話を持ち出され、イギリスの心は乱れに乱れ切っていた。
アメリカはイギリスが嫌いであのように独立したのではないと言う。
ならば何故、あんなふうに独立をしたのか。
嫌いではないなんて嘘だ。
結局アメリカはイギリスのことなど嫌いなのだ。
そうして耳も心も閉ざして歩き出そうとしたイギリスに小さな呼び掛けが
投げかけられた。

「お兄ちゃん」

耳を疑った。
舌っ足らずの甘えたような口調。
もう何百年も前に失われたはずの幼子の声。
驚きのままに振り返れば、アメリカはイギリスから顔を抑えて口元を押さえていた。
戸惑いに揺れる瞳。
本当は言うつもりが無かったのかもしれない。
だが、その言葉を聞いてイギリスがアメリカを離せるわけがなかった。

「・・・・・・アメリカ」

ゆっくりと歩み寄り、口を押さえている手の手首を掴み、囁く。
びくりと震える決して華奢ではない身体。
それでも抱きしめたくなる。
抱きしめて、口付けて、お前が好きなのだと囁きたくなる。
お前が怖がる全てから守ってやるから俺の物になってくれと言いたくなる。
それらの欲を抑え込むのは難しい。
今にもイギリスを食い破って表に出てきそうになる。
それらの獰猛な欲を抑え込むためにもう一度名を呼んだ。
アメリカ。
俺の愛しい子。

「キミと過ごした日々を忘れたことは無かった」

その言葉から始まった独白はイギリスの心を深く抉った。
語られた心境は言葉少なだったけれども、泣きだしそうに寄せられた眉や
縋りつくように掴まれた手の震えを見ていればわかる。
寂しかったのかもしれない。
独立して、一人で頑張ってきて。
いまや超大国ともてはやされ、不満を言うことも挫けることも甘えることもできない。
背負わされた責任は果てしないほど大きいのにその責任から逃げ出すことは許されない。
そのアメリカを子供だ餓鬼だと散々イギリスは揶揄してきた。
イギリスだけではない。
多くの国々が歴史の浅い、子供なのだと揶揄している。
しかしその子供は逃げ出すことも許さない重責を一身に背負わされ、弱音を許されず
常に正しく強くあるように、彼の望むヒーローであることを強いられてきた。

「ごめん、ごめんイギリス」

独白を終えたイギリスが謝罪の言葉を口にして項垂れる。
その姿に悪戯をして怒られた幼子の姿が重なる。
僅かなブレも無くぴったりと重なる姿。
姿だけが大きくなった愛しい子。
ふ、と息をついて彼の片頬をそっと掌で包み込む。
少しかさついてはいるものの変わらぬ柔らかさを誇る肌はイギリスの手に
すんなり馴染んだ。
ああ。
ようやくイギリスは悟ることができた。
目の前に居る子は独立したあの日を境にいなくなってしまったと思い込んでいた。
あの雨の降りしきる中、全てを捨ててしまったのだと思っていた。
だがそれはイギリスの思い込みだったのだ。
アメリカは何も変わっていない。
むしろ変わったのはイギリスだ。
思いを悟られないようにすることに必死過ぎて、アメリカの声に気付けなかった。
気づかないイギリスにアメリカは失望したのだろう。
だからあんなにも態度が冷たくなった。
ぎゅうと固く噛み締めていた口唇を開き、イギリスもまた想いを口にする。
悪かった。弟扱いをされるのを嫌がっているのは知っているけれど
それでも弟だと、大事な家族だと思っていると。
アメリカはそれをいつものようにふざけるわけでもなく、神妙な面持ちで聞いていた。
そして「俺のこと、本当はどう思っているんだ?」と尋ねたイギリスにアメリカは
嫌いじゃないと答えてくれた。
それからアメリカははにかんで笑ってくれたのだ。
まるで昔のあの子のように。

「―――――ん?」
微かな違和感にイギリスは思わず声を上げた。
そうだ。あのときのアメリカは溌剌とした眩しい笑顔ではなく
はにかんだ柔らかな笑みを浮かべていた。
あの時はあまりにも幸せで嬉しくて気づかなかったが、あれは新大陸時代
イギリスの手伝いをしてくれたアメリカを褒めたときによく見せた表情ではなかったか。
ゆっくりと記憶を巻き戻しながら表情を重ね合わせる。
今のアメリカの方が多少は大人びて見えるものの確かにあのときの笑顔に似ている。
そして、よくよく考えれば、あの日からアメリカはイギリスにべったりと懐いている。
ということは、あの日に何かがあったということだ。
―――――アメリカはイギリスの為に昔に戻りたいのだとフランスは言っていた。
自分の為にという点は理解できないが、確かにアメリカは子供返りを起こしている。
だからフランスの言葉は間違っていないのだろう。
だがどうにも解せないのが、イギリスの為にという言葉だ。
イギリスは懐古主義と揶揄されるほど昔のアメリカは可愛かったと何度も発言している。
昔のアメリカは可愛かった。素直で俺のことを慕っていてくれたと。
けれど、だからといって今のアメリカが嫌いなわけではなかった。
空気が読めないし、提案はめちゃくちゃでイギリスのことを小馬鹿にしている。
リトアニアや日本に向けるような全開の笑顔を向けられたこともない。
それでも本当にイギリスが苦しいときに一番に気づき、手を差し伸べてくれるのは
アメリカだった。
いつものように「キミは実に馬鹿だな」と言いながらも優しく差し伸べられた手。
その手を取るたびにイギリスはアメリカへの想いを深めていった。
昔のアメリカも今のアメリカも、どちらかを選ぶことが出来ないほど
イギリスはアメリカの全てを愛していた。
だから子供返りすることがイギリスの為だと言われても困るのだ。
イギリスにとって、昔のアメリカも今のアメリカも等しく愛おしいものなのだから。
それに腑に落ちないのは、イギリスの為にというフランスの言葉だ。
普段のイギリスの言動から昔の方が好かれていたとアメリカが感じたとしても
だからといって、イギリスの為に子供返りしようなどと考えるわけがない。
「フランスの野郎を締め上げるか・・・」
最早そうするしかないように思えて、イギリスは呟いた。
先日はドイツに邪魔をされて聞くことが出来なかったが、次の世界会議はロンドンで
行われるのだから、ゆっくりと問いただすことが出来る。
どのように聞き出すか算段を始めたイギリスの耳に微かに布擦れの音が届いた。