Love yearns(米→→→英から始まる英米)
音の聞こえた方向に顔を向けるとぐっすり眠り込んでいたはずのアメリカが身を起して
こちらを見つめていた。
まだ完全に覚醒していないのか眼はとろんと眠気に蕩けている。
どうしたものかと身動きの取れないイギリスにアメリカは真っ直ぐに両手を伸ばした。
「イギリス」
甘えたねだるような声でアメリカは呼ぶ。
誘うように両手を伸ばしたまま軽く揺らして、じっとイギリスを見つめた。
おそらくは抱っこしてかもしくは抱きしめてのお願いだろう。
しかしイギリスは眉根を寄せて躊躇いを露わにした。
今の自分は酒臭くて、とてもアメリカに触れていいような状態ではない。
幸いにも我を失うほど酔ってはいないがそれでも酒の匂いが嫌いなアメリカにとって
拷問のようなものだろう。
躊躇い続けるイギリスに痺れを切らしたのか、アメリカはベッドから降りて
イギリスに歩み寄った。
そして当たり前のようにイギリスの膝の上に横座わりで座った。
どうしてはみ出してしまう足は手凭れから思い切って伸ばし
両手をイギリスの首に回す。
それから機嫌悪そうに口を開いた。
「イギリス、すごくお酒臭いんだぞ」
「・・・悪い、アメリカ」
ぷりぷりと怒っているアメリカを宥める様に頬にキスを落としイギリスは謝った。
拗ねたように怒るアメリカの口調には昔から弱い。
どんなに理不尽なことで怒られても、この口調で言われてしまえば
するりと謝罪の言葉が出てきてしまう。
しかも今回のことはイギリスが一方的に悪いのだから謝ることに躊躇いは無い。
アメリカのバランスが崩れないようにしっかり腰を支えながらキスを落とし
謝罪の言葉を何度も口にした。
最初は不機嫌そうに眉根を寄せて口を尖らせていたアメリカも繰り返される
謝罪とキスに表情が解けていく。
夜の空気に冷え込んでいたイギリスの身体がアメリカの体温と同じくらいに温まる頃には
すっかりアメリカの機嫌も治っていた。
「・・・・・・俺、お酒臭いイギリスは嫌いなんだぞ」
「うん。本当にごめんなアメリカ」
今の状態のアメリカに嫌い、と言われて少しばかり涙目になったイギリスは
落ち込んだ暗い表情でごめんと呟いた。
普段のアメリカにくたばれやら嫌いと言われるのも落ち込むのだが
昔のようなアメリカに言われると胸がぎゅっと締め付けられる。
嫌われちまったのかなぁと俯くイギリスの頬に柔らかい感触が落とされた。
え、と驚いて顔を上げるとほんのり頬を赤く染めたアメリカがこちらを見つめている。
目を瞬かせたイギリスの頬にもう一度口付けて、アメリカは色付いた口唇を
そっと開いた。
「お酒の匂いがするイギリスはあまり好きじゃないけど、傍にいない方が
もっと嫌なんだ。だからイギリス、傍に居て。俺を一人にしないで」
一人は嫌なんだ。
ぐずぐずと泣きだす寸前の声音でアメリカは告げた。
その告白にイギリスは息をすることすら忘れて、ただ茫然とアメリカの顔を見つめる。
じわじわと腹の底から込み上げてくる感情は歓喜などという生易しいものではない。
込み上げてくる衝動に逆らわずイギリスはアメリカをきつく抱きしめた。
抱き潰してしまいそうなほど力を込めて、肩口に顔を埋める。
縋りつくように服の裾を握っていたアメリカの手が背中に回され
同じように抱き返される。
アメリカの肌はあの頃と変わらず、太陽と幸せの匂いがする。
大好きな、愛しているアメリカの匂い。
肺いっぱいに匂いを吸い込んでイギリスは顔を上げた。
同じように顔を埋めていたアメリカも顔を上げる。
薔薇のように赤く色づいた頬にキスを落とすと同じようにアメリカも返してくる。
スカイブルーの瞳は潤み、熱っぽくイギリスを見つめている。
ごくりと生唾を飲み込んだイギリスは当然のことのように目を伏せ―――――柔らかな口唇に
己の口唇を重ねた。
口唇に口唇を重ねただけの淡いキスはすぐに離れる。
初めて触れたアメリカの口唇は花びらのように柔らかく、しっとりとしていた。
伏せていた目を開けるとアメリカはその綺麗な瞳からはらはらと涙を流していた。
「す、すまんアメリカ!!」
とっさに身を離し、叫んだイギリスをアメリカはしっかりと掴む。
「違う、違うんだイギリス。嫌なんじゃなくて・・・嬉しくて、嬉しくて俺」
それ以上は言葉にならないと言わんばかりに口をつぐみ、アメリカはしゃくりあげた。
イギリスを掴んだ手はまだ離れない。
はっと息をのみ込んだイギリスはその手を離そうとして、諦めた。
離そうとしたその手だけでアメリカを支え、頬に手を滑らせる。
スカイブルーの美しい瞳から零れおちる雫はイギリスの手を濡らし
キラキラと輝きながら床に落ちていく。
アメリカの零す涙は美しかった。
けれど、泣く姿を見ていたいわけではない。
何度も柔らかく背中と頬を擦り、アメリカの感情を落ち着ける。
根気強くイギリスに撫でられてようやく涙を止めたアメリカは淡く微笑んで
今度は自分からイギリスの口唇に己の口唇を重ねた。
花びらのように柔らかな口唇は押し付けるだけですぐに離れていく。
自分からキスを仕掛けたくせにイギリスは信じられないものを見るような眼差しで
一連の動きを見届けた。
「イギリス、大好き」
かつての幼子と同じ声音で囁き、頬だけではなく、顔中、項までも真っ赤に染めた
アメリカは息の触れそうな距離で酷く幸せそうに微笑む。
俺もだよアメリカ。
昔と同じようにイギリスも囁き返す。
すぐに後悔は溢れそうなほど込み上げてきたが、それをのみ込んでイギリスは微笑んだ。
そして目の眩むような幸せの中、イギリスは現実から逃げ出すように目を伏せ
アメリカの体温をただ感じるだけに努めるのであった。
作品名:Love yearns(米→→→英から始まる英米) 作家名:ぽんたろう