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Love yearns(米→→→英から始まる英米)

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広々としたリムジンの後部座席。
寄り添って座る二人の間には少しばかり息苦しい沈黙が漂っている。
その沈黙が先ほどの会話にあることに気づいているイギリスはひそかにため息をついた。
(最善の言葉だと思ったのだが)
どうにもこうにもアメリカのことになると上手くいかない。
彼の為をと思った言葉は空回りをし、取った行動は怒らせてばかりだ。
いっそのこと、何も考えないで動いた方が余程アメリカの為になるのではないかと思うが
思うくらいではイギリスの身体に染みついた習性を無くすことなどできない。
困ったものだ。
そう胸の中で呟いて、密やかなため息をつきそうになったイギリスの耳に
黙り込んでいたはずのアメリカの小さな声が届いた。
「・・・ねえ。イギリスは好きな人、いる?」
「は・・・?」
間抜けな声を漏らしてイギリスは正面に向けていた視線をアメリカに向けた。
まだ表情の硬いアメリカは膝のあたりに視線を落として口唇を噛みしめている。
投げ出されている左手の甲に手を重ねるとびくりと身体を震わせた。
それでも視線は動かない。

「・・・・・・お前だよ、アメリカ」

喉に張り付きそうな声を絞り出してイギリスは答えた。
仮に恋人がいたとしても、世界で一番好きな人と問われたらアメリカしかありえない。
それはイギリスがイギリスであるかぎり、未来永劫変わらない事実だ。
アメリカ以上に愛しく、この身を惹きつける存在などこの世に存在しえない。
だがアメリカは信じられないと言わんばかりに緩く首を振った。
そして違うよ、と呟く。
「そうじゃなくて一番好きな人だよ。世界で一番好きな人」
何を言っているのだろう。
呆れたような気持ちになってイギリスはアメリカの横顔を見つめた。
一番好きな人。世界で一番好きな人。
それならばアメリカしかいない。
それ以外に何と答えればいいのだろうか。
「お前しかいねぇよ。アメリカ。お前が一番好きだ」
「ホントに?」
ようやく顔を上げたアメリカの顔は不安に彩られていた。
柔らかく微笑んだイギリスはちゅっ、と啄ばむようにアメリカの瞼にキスを落とす。
それから頬、鼻にも軽くキスをすると不安に彩られていたアメリカの表情が
徐々に柔らかくなっていった。
「俺が嘘をついたことがあったか?」
「だってフランスはキミの舌は百枚でも足りないって言っていたんだぞ」
「クソ髭・・・」
無邪気なアメリカの回答にイギリスは眦を吊り上げた。
やはり逃すなど自分らしくなかった。
エッフェル塔から逆さ吊りにしてやればよかった。
いやそれでは生ぬるいか。
ぼこぼこにぶちのめした後、逃げられないように鎖でぐるぐるに巻き
重しに鉄球をつけた後でドーヴァー海峡に投げ捨てればよかった。
それならば以下にしぶといフランスでも仕留めることが出来るだろう。
ぐるぐると渦巻く復讐に気を取られているイギリスを引き戻したのは
頬に触れたアメリカの口唇だった。
目を潤ませて、口唇を尖らせてこちらを軽く睨んでくる様はまるで自分以外のことを
考えないでと言われているようで心地良くて勘違いしそうになる。
そうではないとわかってはいる。
子供がえりをしているアメリカはあの頃のようにイギリスに懐いているだけだ。
元に戻ってしまえば、すぐにイギリスへの興味など無くしてしまう。
けれど、あまりにもアメリカが健気で幼気でイギリスの心を掴んで離さないから
困ってしまう。
この前、ついうっかりキスをしてしまった時もそうだった。
あんな可愛らしく頬を染めて「俺もイギリスが大好き」だなんて言うから
そう堅くない理性がうっかり崩壊しそうになってしまった。
いけない。気をつけなくては。
そう気を引き締めようとするイギリスにアメリカは容赦なく爆弾を投げつける。

「・・・・・・俺もかな。俺もイギリスが大好き」

爆弾を投げつけたテロリストはそう言って、くふふと笑った。
蕩けるような柔らかい笑み。
薔薇のように赤く上気した頬。
夢のような光景に最早イギリスは言葉を失うしかなかった。
(何がしたいんだ。俺の理性でも試しているのか?)
そう叫ばなかったことを褒めてほしいとイギリスは心の底から思った。
本当は世界で一番好きな奴が居るのにイギリスのことを大好きだと言うアメリカ。
幸せそうに緩む表情を泣かせたいと思ってしまう。
泣かせて、泣かせて、自分の物だけになってしまえば―――――
「いや、それは駄目だろ」
「イギリス?」
思わず零れた言葉にアメリカは不思議そうにこてんと首をかしげた。
その仕草すら可愛い。
何でもないよと首を振ったイギリスにアメリカはさらにすり寄り二人の間の
距離を詰めた。
もう二人の間に隙間はない。
ゼロセンチの距離で二人は触れ合っている。

「俺、イギリスより好きな人なんていないよ」
「―――――っ」
「昔からずっとイギリスが一番なんだ」

真っ赤な顔で、幸福と愛情だけを込めてアメリカは甘い告白をした。
その告白はイギリスを幸せにすると同時に不幸のどん底へ陥れる。
アメリカの言っている一番好きは家族としての愛情が一番という意味だからだ。
どう足掻いても愛情の、欲を伴った一番にはなれない。
かつてのアメリカを愛する前のイギリスならば喜んだのかもしれないが
今のイギリスにとっては一種の死刑宣告に等しい。
込み上げてくる苦くてドロドロしたものを無理やり嚥下してイギリスは
繋がれていない方の手をアメリカの頬に伸ばした。
アメリカは幸せそうに笑いながら掌に頬をすり寄せる。
何度か摩ってからぴたりと動きを止めるとアメリカはゆっくりと瞼を下した。
吸い寄せられるようにイギリスは柔らかな朱に触れる。
軽く、啄ばむだけの触れあい。
口唇が完全に離れてからゆるりと瞼を持ち上げたアメリカはふふ、と微笑を零した。
そして凭れかかるように身体を少し折り曲げて頭を肩に乗せる。
完全に甘え切った仕草でアメリカは再び目を伏せた。
議場からイギリスの家まで少し距離があるから眠るつもりらしい。
程なく健やかな寝息が薄く空いた口唇から漏れ出し、アメリカはつかの間の
眠りに着いた。
(お前、そんな簡単に俺に口唇を許すなよ)
愛情の一番ではない癖に簡単に口唇へのキスを許すアメリカが少しだけ憎い。
けれど、口唇へのキスを許されるほど心許されていることが嬉しい。
たとえ一時的なものだとしても、いつか目覚めるものなのだとしても幸せだ。
おそらく自分はこのひと時を一生忘れないのだと思う。
スーツ越しに感じる温かな体温に引きずられ、イギリスもまた目を伏せる。

(―――――お前が他の誰を愛していたとしても、俺の気持ちは変わらないから)

だから、好きでいることを、愛していることを許してほしい。
そう嘆願してイギリスは繋いでいる手に力を込めた。
この手を離すときが二度と訪れないようにと。