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Love yearns(米→→→英から始まる英米)

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Love yearns act8


(今週は妙に忙しかったな・・・)
夜の帳に包まれたロンドン郊外の道をゆっくりと歩きながらイギリスは息をついた。
この道を歩くのは一週間ぶりで、さらに言うならばナンバー10から
外に出たのも一週間ぶりだった。
近年稀にみる忙しさでイギリスは本邸に戻ることはおろか、仮眠室での僅かな睡眠だけを糧にこの一週間を戦い抜いてきた。
戦いというのは決して誇大表現ではなく、戦時さながらの剣幕で仕事は舞い込み続けた。
今回の仕事は「イギリス」でなければ意味のないものが多く、なおかつ骨の折れる
面倒な仕事ばかりであったため、ナンバー10に籠りっきりの日々となった。
当然のごとく、プライベートの携帯は電源を切ったままでそのまま充電も
切れてしまったためメールが着ているかどうかすらわからない。
(ま、どうせほとんど使わないしな。構わねぇな)
イギリスにメールを寄こす物好きなどフランスか日本、あとはたまにカナダ。
それくらいしかいない。
(別にメールなんざこなくたって・・・返すのもめんどうだし)
言い聞かせるようにイギリスは心の中で呟いた。
メールなんてこなくても平気だ。だいたい用があるならば電話で話せばいい。
そのための携帯だ。
けれど、そのイギリスの持論が崩す者がこの世界にたった一人だけいる。
(アメリカ、元気にしてっかな・・・)
あまりにも長い間、英国にいたアメリカは上司にきつく叱られたうえ、強制送還。
おまけに現在はホワイトハウスに籠りきりで仕事をこなしているらしい。
イギリスがそのことを聞いたのは三日前で、久しぶりにロンドンを訪れた
カナダからの情報だった。

「だいぶ、根を詰めていましたよ。少し痩せたかもしれません」
そりゃあよかった。少しはあいつのメタボも解消されたんじゃないかと
皮肉ることができなかったのは思いのほか、カナダが真剣な面持ちで
話したからであった。
普段のカナダがアメリカのことを話すときはほのかに苦笑いを
浮かべながらのことが多い。
けれどもそれは負の感情からではなく、仕方ないなあとまるでやんちゃな弟を見守る
兄のような口調で話すことが多かった。
イギリスはカナダに悪いと思いながらも、いつも微笑ましい気持ちで
カナダの愚痴を聞いていたのだ。
だが今回はいつもの苦笑は無く、滅多に見られない真剣な切羽詰まったような面持ちで
カナダはアメリカの話をしたのだ。
彼によく似た面差しを強張らせてカナダは語った。
その面差しを視界に入れた瞬間、イギリスは息が詰まりそうになった。
今でも忘れていない、忘れることのできないあのとき。

『お前も、行けばいいじゃねぇか』
『僕は傍に居ますよ。イギリスさんの傍に居ます』
『アメリカは裏切った!あいつ、俺が嫌いなんだ・・・!』
『違いますイギリスさん!アメリカは・・・」
『アメリカ、アメリカ・・・・・・うっ』
『・・・・・・イギリスさん泣かないでください。貴方に泣かれると僕は』

あのときもカナダはアメリカによく似た面差しを真剣な色に染めていた。
今も同じだ。
いつだってカナダがイギリスにその表情を向けるときにはアメリカが着いて回る。

ふ、と短い回想から意識を戻したイギリスは息をついた。
気がつけば一週間ぶりの我が家は目と鼻の先だ。
明かりの灯っていない家はずいぶんと寂しげに見える。
明かりがついていないことなどイギリス以外が住まわないこの家では当たり前の
ことだというのに妙にさみしく思ってしまうのはアメリカの居た名残だろう。
アメリカがこの家に滞在している間は常に明かりが灯っていて、疲れ切ったイギリスを
アメリカが暖かく迎え入れてくれた。
あのときの胸に溢れる温かい気持ちは筆舌に尽くしがたい。
だが、その時間を作るためにアメリカは随分と無理をしていたらしい。
その結果がホワイトハウスに籠りきっての仕事だというのならば
イギリスも悪いのかもしれない。
とはいえ、イギリスに何もお咎めがなかったというわけではなかった。
いくら長休の最中とはいえ、他国を一カ月以上も引きとめていたことに対して
じつにイギリス人らしく皮肉を交えたお叱りを受けた。
それだけならまだしも優雅に微笑む女王陛下にも言葉を賜ったのだ。
詰め込みの仕事より、上司の皮肉よりも何よりもあれは効いた。
出来れば今後一世紀は言われたくない。
はあ、と躊躇いも無くため息を撒き散らしイギリスは一カ月ぶりの我が家の門を
押し開けた。

一週間、主の居ない屋敷を守っていてくれた妖精にお礼のミルクと砂糖菓子を用意し
ジャケットをハンガーに吊るし、ネクタイを指一本分緩めて、ようやくイギリスは
一息つけた。
普段ならば、紅茶を淹れて飲みながら一息つくのだが纏わりつく疲労感のせいで
紅茶を淹れる余裕すらない。
代わりにと持ちだしたエールの間を片手に軽く座っていたソファーに深く身を預けると
甘い匂いが立ち上った。
キャンディとガムと少しだけ香るハンバーガーの匂い。
(アメリカの匂いだ)
イギリスがアメリカに関することで間違うことは無い。
それにこのソファーは彼が滞在中に根城にしていたソファーだ。
一カ月以上も居たのだから匂いが染みついていたとしても何らおかしいことは無い。
甘いお菓子の匂いとハンバーガーの匂いばかりするのはアメリカが香水を
持ってこなかったからだろう。
アメリカはイギリスの屋敷に身一つでやってきた。
大好きなゲームも漫画も持っていないその姿にイギリスは驚いた。
驚いているイギリスに「だってキミと過ごすのにそんなもの必要ないじゃないか」と
アメリカは告げたがイギリスは言葉通りの意味を受け取ることが出来なかった。
だがすぐにその驚きは別の驚きにとってかわった。
アメリカは言葉通り本を読むイギリスの隣でうたた寝をしたり、スコーンを作る
イギリスをリビングから引っ張ってきた椅子に腰かけて眺めたりと
ゆったりとした時間を過ごしたのだ。
普段は爺臭いだの根暗だの揶揄するガーデニングにもイギリスと並んで
雑草を引き抜いたり、時折ふざけながらも水巻きをしたりとまるでイギリスに
寄り添うようにして、アメリカはイギリスの屋敷での時間を過ごした。
その姿はイギリスの理想のアメリカの姿だった。
幼い頃のアメリカがそのまま大きくなったような、そんなアメリカ。
理想のアメリカが傍に居る日々にイギリスはもっと喜ぶべきであった。
普段あれほど昔のお前は可愛かったと愚痴を零すくらいなのだから。
だが実際にそのアメリカが現れてからの自分はどうだ。
確かに幸せだ。イギリスにべったりとくっついて甘えるアメリカは可愛らしい。
けれど物足りなさも感じる。
イギリスに対しては悪口しか言わないけれど溌剌とした良く回る口。
キラキラと光るオーシャンブルーの眼差し。
我儘で自分勝手な、けれど根は優しいアメリカ。
そのアメリカもイギリスの愛したアメリカだ。
(いくら俺が今のアメリカも愛していると言ってもフランスの言う通りなら
アメリカに今の自分を捨てさせたのは俺だ)
もう認めるしかなかった。