Love yearns(米→→→英から始まる英米)
この発言といい、アメリカの最近の態度からもフランスの言うとおり
アメリカはイギリスの為に幼児返りを起こしているのだと。
釈然としない部分は多々ある。しかし現状から考察するにそうとしかいえない
部分が多すぎる。
そう、釈然としないと言えば。
「そういやあいつ、好きな奴いるんだよな・・・・・・」
思わず零してしまった言葉に地味にショックを受けたイギリスは握りしめていた
エールの缶を握りつぶす。
べこっと限りなく薄くなった缶をテーブルに投げ、一緒に持ってきていた
ウィスキーの瓶を開け、直に煽る。
アメリカに好きな人が居るだなんて、呑まなければやっていられない。
どこの×××だこんちくしょう。
イギリスの海賊時代を知っている人間すら引きそうなスラングを吐き捨てて
可愛いアメリカを誘惑したどこぞの女を呪う。
アメリカがあんなに本気になるなんてどこの女なのだろう。
ぐいぐいと水のようにウイスキーを煽りながらイギリスは考える。
アメリカの好みは溌剌とした健康的な美を持つ女だが、あの口調からすると
どうも違うような気がする。
そもそも「人」ですらないような気がするのだ。
イギリスに好きな人が居ると聞かれた時のアメリカの狼狽の仕方。
あれはイギリスの知っている人を好きだからなのではないだろうか。
故にイギリスはアメリカの好きな女は「人」ではないと考えた。
アメリカやイギリスと同じ「国」なのだと。
理由などない。
けれどイギリスは確信していた。
しかし釈然としない部分もある。
フランスはアメリカの想い人を「あんな奴を」だと口にしていた。
フランスは女性をあんなふうに貶めるような言い方はしない。
女性は皆美しい花なんだよと抜かす男だ。間違っても、あのような物言いはしない。
だがイギリスはしかと聞いた。
あんな奴とフランスが口にしたのを。
移ろいがちになる思考をぎゅっとまとめる。
フランスの言葉など些細なことだ。大事なのはアメリカのことをあんなにも
惹かれさせたのはどこの女かということ。それだけのはず。
空にほぼ近いグラスを一気に煽り、残りの酒をグラスに注ぐ。
絶対にアメリカのことを好きにならない女性。
その線から辿ると一番最初に思いついたのはハンガリーだった。
彼女には昔からの想い人が居て、その想い人も悪からずハンガリーのことを想っている。
そこにアメリカの入り込む余地ははっきり言って無いに等しい。
故にどんなに好きでも叶わない恋だというアメリカの台詞は当てはまる。
だが、フランスがハンガリーをあんな奴と表現するとはとても思えなかった。
「だとすれば」
酒がなみなみと注がれたグラスを煽る合間にイギリスはぽつりと呟く。
酒が回ってきたせいか急激に視界がぐらぐらと揺れ出した。
しかし思考はいやにすっきりとしている。
そのすっきりした思考をフル回転させて、イギリスはアメリカの想い人を
明らかにせんと考えを巡らせる。
「ハンガリーじゃないとするとセーシェル?あいつら、けっこう仲良いしな」
昨年の夏は海で一緒に泳いでいたのをプロイセンのブログで見た。
それにセーシェルはアメリカの好みに割合近いように思える。
だとすれば、セーシェルなのか。
「いや、それもありえねぇな」
フランスはセーシェルのことを少なからず可愛がっていた。
その少女を「あんな奴」と称するわけがない。
それに反対するならば、あのような言い方をしなくても良いだろう。
うう、と唸ってイギリスは額を抑えた。
もう「国」の中でアメリカが惚れそうな女性が居ないような気がする。
ならば、最初から除外していたのだが「人」なのだろうか。
イギリスと恐らくはフランスも知りえる女性。
三人共に知っているのは一般人よりも政府高官や直属の部下が多い。
その中にいるというのか。アメリカの想い人が。
「まじかよ・・・」
額を抑えてイギリスはぼやく。
三人と面識のある女性というとじつはそれほど多くない。
その中でもアメリカが好きになりそうな女性というと両手で足りるほどしかいない。
独身でアメリカと仲の良い彼の直属の部下の名前を思い出しかけて
イギリスは緩く首を振った。
可能性を狭めてはいけない。
何も好みの女性を好きになるとは限らない。
それに関してはイギリスがいい例だ。
アメリカ以外の男になど冗談でも欲を抱くわけがない。
アメリカだからこそ、キスをしたいし、それ以上のことだって望むのだ。
「・・・・・・好みからは外れる女性」
ぽつりと呟いて、イギリスが思い浮かべた女性は二人いた。
ベラルーシとウクライナだ。
彼女たちの兄であり弟であるロシアとアメリカは不倶戴天の仲だ。
今は昔ほどではないにしろ、あまり仲が良いとは言えない。
それにベラルーシに限って言えば、彼女は兄のロシアとの結婚を望んでおり
アメリカに振り向く可能性は零に等しい。
アメリカがベラルーシを好きだというのならば、一生叶わない恋と
評したのにも納得できる。
イギリスの感情を横に置いていくならば、今までの推測の中では
一番納得できそうな人選だ。
「・・・・・・本当にそうなのか?」
空になったグラスをサイドテーブルに置き、ぽつりとイギリスは漏らす。
フランスの言葉など些細なモノだと思っているが、彼はアメリカの想い人を
知っているようであった。
よう、ではない。
フランスはアメリカの想い人を知っている。
知っているからこそ、あんな奴と評した。
だが、まずフランスが女性をあのように言うこと自体がありえない。
男も女性もどちらも好きだと公言しているが、やはり第一は女性だ。
どんなに欠点だらけの女性でもフランスは言葉で飾り立ててしまう。
イタリアとは違った意味でフェミニストのフランスがあんな奴と言うとは
考えてみたが、やはりありえないのではないだろう。
ならば、そもそも女性ではない―――――とか。
「いや、ありえねぇな」
浮かんだ考えを即座にイギリスは取り消した。
アメリカが男を好きになるなんて、あり得ないにもほどがある。
考えてしまったこと自体がアメリカに対する大いなる裏切りだろう。
すまないアメリカと呟いて、イギリスはふらつく身体を支えながら立ち上がった。
自分であれこれ考えるよりも、やはりフランスを締め上げた方が効率が良い。
幸いにもまだユーロスターは動いている。
今日は定刻上りで、その後の用事もないはずなので間違いなく自宅にいるだろう。
「待っていろよフランス」
べははと昔を彷彿させるような笑い声を上げてイギリスは脱いだジャケットを羽織り
財布と携帯だけを手にして、一週間ぶりに帰宅した家を飛び出した。
作品名:Love yearns(米→→→英から始まる英米) 作家名:ぽんたろう