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Love yearns(米→→→英から始まる英米)

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あのとき、何がアメリカを突き動かしたのかフランスにはわからなかった。
確かあの時はいつものように元ヤン眉毛と言い合っていた。
言い争いの原因は覚えていないがそう大したことではない。
そう、大したことではないのだ。
イギリスとの諍いの原因をいちいち覚えていたらフランスの記憶容量は
あっという間にパンクしてしまう。
それほど隣国との諍いは日常的なものでそれをアメリカもよく知っていたはずだった。
けれどあの日はその当たり前が通用せず、アメリカはイギリスを責めて泣いた。
イギリスはアメリカが泣きだした理由がわからず、本気でうろたえていたが
フランスにはその涙の理由が手に取るように理解できた。
アメリカのあの涙はイギリスを愛する気持ちが膨らみ過ぎて零れたもの。
どうしようもない気持ちが涙となって零れ落ちたのだ。

「あのときにお兄さんがうまくアメリカの気持ちを聞いていたら
 こんな風にならなかったんじゃ思わなくもないんだよね」
「フランスさん・・・・・・」

目を伏せてフランスは自嘲するように口元を歪めた。
あのときフランスにはアメリカが限界に近付きつつあることがわかっていた。
わかっていながらもあえて手を出さなかった。
他人の色恋沙汰に、しかもアメリカとイギリスの色恋沙汰に首を突っ込むような
馬鹿ではなかった。
けれど今思えばその馬鹿の方がよかったのかもしれない。
まさかあのときにこれほど事態が螺子曲がるとは思ってもいなかったのだ。
そしてフランスが「アメリカ」ときちんと話せた最期の日が訪れる。
それは二週間ほど前にロンドンで行われた世界会議での出来事であった。

□ ■ □ ■

逆上するイギリスから逃れ、中庭から何とか脱出したフランスはほうほうのていで
廊下を歩いていた。
さほど急いでいないのはイギリスに容赦なく掴み上げられた胸が痛むのと
その痛みを与えた張本人のイギリスは追ってこないだろうという余裕があるからだ。
そうでなければ、フランスはイタリア兄弟のように全力で逃げただろう。
近年、拝んでいなかった大英帝国並みの迫力を浮かべていた表情を思い浮かべて
フランスはぶるりと身を震わせた。
昔からアメリカに関わることには容赦がなかったが(あの断絶のときでさえ)今回は
久しぶりに天国を見そうな勢いの締め上げであった。
(お兄さんは何も悪いことしていないんだけどなー)
掴んだ跡がくっきり残っていそうな胸を摩りながらフランスは胸中でぼやく。
あのときフランスがアメリカと中庭に居たのは、あまりにも顕著な彼の変わりようの
理由を聞くためだった。

「―――――全部ハッピーエンドになるためだよ」

会議室から無理やり引っ張って来て、持参した菓子で餌付けして(珍しいことに
あまり食べなかった)
ようやく聞き出した言葉は何だよそれは、と聞き返したくなるような言葉だった。
ヒーローとヒロインはハッピーエンドになるべきなんだぞと胸を張ったアメリカは
いつもの彼らしい。
けれど、新大陸の頃からアメリカを見続けてきたフランスにとって
それは単なる虚栄でしかなかった。
よくよく見れば、隈がほとんど出来たことのないはずの目の下にはうっすらと黒いモノが鎮座しており、餅のように吸いつくハリのある肌も見ただけでわかるほど荒れている。
普段はメタボメタボ言われているが、今のアメリカはスーツにもゆとりがありそうだし
何よりも目の輝きが薄れている。
何とも言えない表情でフランスがアメリカの頭に手を置くと「くすぐったいんだぞ」と
振り払うこともなくアメリカは目を細めた。
その態度にフランスは不信感を募らせる。
普段、このような扱いをすれば「子ども扱いは止めてくれよおっさん」などと
可愛くない口を叩いて手を撥ねのけるのがアメリカだ。
それはイギリスに対しても変わらず、撥ね退けてはこっそり落ち込んでいるアメリカを
フランスは幾度となく見てきた。
だからこそ不信感が募る。
かつて、英領アメリカである過去をもういらないと捨てた子供。
それを必死になって拾い集めてトレースをして。
そうして得られるのが彼の言うハッピーエンド?
そんなわけがない。

「・・・それでお前は幸せなのか?」
「もちろん。俺はとても幸せだよ。フランス」

幸せいっぱいに微笑んだアメリカは幼いころの面影が重なるほど無邪気に微笑んでいた。
数か月ぶりに会えたイギリスに抱きついたときと同じ表情。
らしくないと悟りつつもフランスは懇願するように言葉を連ねる。

「あのねアメリカ。ハッピーエンドにならなくちゃいけないって言うけど
 ハッピーエンドを迎えたからって終わりじゃないんだぞ」
「―――――っ」
「そのままずーっとガキのフリ、し続けるわけ?そんなの続か」
「だってイギリスが言ったんだ!!」

フランスの言葉を遮るようにアメリカは大声を上げた。
空気がびりびりと震えるほどの大声にフランスは目を見開いて見つめ返す。
斜め下を見る様に俯き、肩を震わせアメリカは口唇を噛みしめていた。
その様子は自分の言葉に酷く傷ついているようでもあった。
おい、と手を伸ばそうとするとびくりと大きく身体を震わせる。
顔を上げて寄こした視線は傷ついた獣が敵を威嚇するような光を秘めていた。

「だから俺にはもう『この子』しか残されていない」

傷ついた心を守る様に自らの手で身体を抱きしめながらアメリカは悲痛な悲鳴を上げた。
青い空を映しこんだような瞳は涙に濡れ、夜の紺に近い色合いを映しだしている。
幸せそうな様子から一転したアメリカにフランスは声をかけることもできずに
ただただ彼の叫び声を聞く。

「俺に残された、イギリスを愛する方法はっ、ハッピーエンドを迎える方法は
 これしかないんだよ!!」

そう叫んだきり、俯き、肩を震わせるアメリカを呆然とフランスは見詰めた。
アメリカがイギリスのことを愛していることは、彼が独立する前から知っていた。
その愛が遊びではない、真剣なものであることも知っていた。
否、知っているつもりだった。
(甘く見ていたな)
そういうつもりはなかったのだが、そういうことなのだろう。
イギリスはアメリカのことを弟として可愛がっていたが、フランスにとっても
アメリカは少々手のかかる弟のような存在だった。
だからイギリスとはまた少し違った意味でフランスはアメリカのことを
子ども扱いしていた。