Love yearns(米→→→英から始まる英米)
そうして二人して子ども扱いしてきた結果がこれだ。
アメリカはこれほどまでに追い詰められるほど自分の気持ちを摩擦させていた。
それでもアメリカはイギリスを愛しており、ハッピーエンドを迎えるために
英領アメリカに戻るのだと言う。
馬鹿だねアメリカ。
そう呟くとアメリカは痛々しい笑みを浮かべる。
「・・・・・・フランスは優しいね」
優しいねと傷ついた様子のアメリカに言われて、フランスは笑い出しそうになった。
世界に名だたる超大国のくせにフランスやイギリスの優しさを
頭から信じているアメリカ。
純粋すぎるのも困ったもんだねとフランスは心の中で毒づいた。
フランスがアメリカに優しいのは恩を売っておこうという計算に基づくものだ。
そこには純粋な優しさなど無い。
少なくともそれまでの「フランス」はそうだった。
けれど、近年の自分はそれだけで動いていないことも承知している。
今だって、この現場をイギリスにでも抑えられたら向こう十年は殴る口実にされる。
そのリスクを知りつつも彼に手助けのようなことをしてしまうのは
それこそ彼の言う優しさだ。
(この甘ちゃんに手を貸したくなる程度には俺も平和ボケしちゃったのかねえ)
心境の変化を嘲笑いながらも心のどこかが温かいことをそっと享受し
だが表には全く出さずににやりと笑ってフランスは口を開いた。
「まあお前さんは「アメリカ」だからね。何かあるとこっちが困るんだ」
「大丈夫。国には何もないよ。国に何かがあった時はこっちにフィールドバックするけど
俺たちに何かがあっても国にフィールドバックすることはない。
だから、心配することなんてないんだぞ」
「そうじゃなくてね」
首を緩く振ってフランスは額に手を当てた。
ずきずきとこめかみの辺りが鈍い痛みを訴えるのは気のせいではないだろう。
「フランス?」と無邪気に名を呼ぶ子供の頭を一撫でして、独り言のように呟いた。
「こんなことなら、お前に「愛」を教えなければよかったのかもね」
「後悔かい?キミらしくないなフランス」
静かな、彼らしくない落ち着きに満ちた声だった。
少なくともアメリカのこのような声を聞いたことはない。
あの独立戦争のときの声が近いような気がしたが、あの時はもっと震えていた。
「俺はキミに教わらなくても、遅かれ早かれイギリスを愛していることに気づいたよ。
むしろキミにきちんと教わってよかったんじゃないかな」
なんせキミは愛の使者だしねと真剣な空気を切り捨てる様に明るくアメリカは
付け足した。
その言葉の意味がわからないはずもなくフランスはそうね、お兄さん愛の使者だしと
便乗するようにニヤニヤするがすぐにその笑みは引っ込められた。
そして同じように笑っていたはずのアメリカも笑みを引っ込める。
代わりに深く長いため息が零れ、引き結んだ口唇から泣きだしそうな声が零れた。
「愛の使者なら俺の恋愛を応援してくれよ」
「そんな心が疲れちゃうような愛を俺が応援できると思っているの?」
答える声はあくまで重い空気を纏っていた。
普段ならばその重さも読めない・・・読まないアメリカははっきりと重さを読みとって
視線を彷徨わせる。
それでもさ、と小さく答える声は掠れ、ともすれば聞き取れないほど
空気に馴染んで発せられた。
「愛には変わりないだろ。フランス」
「あーあ。なんだって、お前さんはあんな奴のことを好きになっちゃったのかねぇ」
「あんな奴って―――――ッ!!」
声を詰まられたアメリカの視線の先を追って、フランスはげ、と声を漏らす。
二人の視線の先には静かに怒りを立ち上らせているイギリスが仁王立ちしていた。
そしてフランスが逃げ出すよりも先に距離を詰めたイギリスはフランスの胸倉を掴み
「ま、そこから先はあんまり今回のことに関係ないからカットね。
お兄さん、思い出すと胸が苦しくなるから」
「ええ。その、ご愁傷さまです」
「フランスさん。あまり無理はしないでくださいね」
聞き手二人のそれぞれの労わりの言葉にMerciと礼を告げ、フランスはお兄さんの話は
こんなところかなと話を締めくくった。
この後に酒に酔っ払って押しかけてきたイギリスのとんでもないフラグクラッシャー
ぶりも話してしまってもよかったが、話してしまったら日本はともかくカナダが
イギリスに詰め寄ってしまいそうなので、あえて話すことは止めた。
普段なんだかんだといっても、アメリカとカナダの絆は強固なもので互いが互いを
とても大切にしている。
今回、この話をするきっかけとなったのもカナダが少し前のアメリカの様子を
相談してきたことからだった。
「アメリカの奴、ご飯を食べていないみたいなんです」
ほんわりとした笑みを潜め、泣きだしそうな困惑した表情でカナダはフランスに訴えた。
隣に居た日本がカナダさんと声をかけてしまうほどそのときのカナダは切羽詰まっていた。
今にも泣きだしそうなカナダを日本と共に宥めて、会議室を抜け出し、フランスの
泊まっているホテルの部屋に連れ込んだのがおよそ一時間前。
アメリカはイギリスさんに嫌われているって思いこんでいるんです。
から始まったカナダの話を聞き、フランスも話せる範囲の彼らについての話を
二人に聞かせた。
話の途中で会議を抜け出したことについて激怒したであろうドイツから何度か着信が
あったが全てフランスは無視している。
日本やカナダも携帯に出ようとしないのだから事情はわからないにせよ
何かあったのだとわかってくれるだろう。
そこまでは頭の固い男ではないはずだ。
作品名:Love yearns(米→→→英から始まる英米) 作家名:ぽんたろう