Love yearns(米→→→英から始まる英米)
「何するんだよアメリカ」
「・・・・・・」
ごくごく弱い力で叩かれたため痛くはなかったものの叩かれたことは事実なので
おいたをした手をそっと頬から外しながらイギリスは問う。
問われたアメリカの顔は先ほどまでの機嫌よさげな表情から一転して
不機嫌そうな表情に塗り替えられていた。
何がアメリカを不機嫌にさせたのかわからずイギリスは眉を寄せる。
そもそも何故頬を叩かれたかすらわかっていない。
アメリカに何かしてしまったのだろうかと考えても思い当たる節は無い。
しいて言えば、キスが琴線に引っかかったのかもしれないが、あれは完全なる同意の下
行われたはずだ。
わからない、と零しそうになるため息を堪えてイギリスは口唇を噛み締めて理由を
言おうとしないアメリカにもう一度問いただすために口を開きかけた。そのとき。
「俺だけを見てくれなきゃ嫌なんだぞ」
「は・・・?」
咄嗟に零れたのは普段のイギリスならば絶対に発さないであろう間抜けな声だった。
無理も無い。
目の前の愛し子が発した言葉はイギリスの予想を遥かに超えたものだったからだ。
どういう意味だと言葉の本質を問うことすら忘れてイギリスはただ穴が空くほど
アメリカの顔を見つめ続けた。
見つめられたアメリカは視線から逃れるように斜め下辺りに目を向けて
「嫌なんだ」と呟く。
「俺はイギリスを好きなんだ。だから見てくれなきゃ嫌だ。俺、ちゃんとあの子みたいに
なっただろ。だから俺を見てよ。ちゃんと、俺だけを見て」
懇願のような声は鋭くイギリスの胸に突き刺さった。
耳に届いた言葉の意味を今度はきちんと理解している。
だからこそ何故だとイギリスは問いかけたくなった。
そのとき不意にフランスの言葉が思考の片隅を過ぎった。
フランスはアメリカはイギリスのために英領アメリカの頃に戻りたいと言っていた。
この前、フランスの家に押しかけたとき。フランスは何と言っていたか。
『・・・・・・もしもだけど。もしもアメリカがお前のことを好きだったら
どうするわけ?』
ありえないと切り捨てた言葉。
ありえるはずがなかった。
アメリカにとってイギリスはうっとおしい元兄。
それ以上はなく、もしかしたらそれ以下なのかもしれない。
そういう風に思ってしまうのは何も独立されたからという理由だけではない。
これまでのアメリカの振る舞いや接し方を踏まえて判断を下したのだ。
あれだけ冷たく蔑んでいて好きだなんてありえるはずがない。
イギリスでなくとも、同じ境遇に置かれたとしたらまさかアメリカが自分のことを
好きだなんて想像すらしないだろう。
むしろ想像することが失礼だ。
故に考えないようにしてきた。
フランスの言葉を受け入れず、信じられないと突っぱねた。
そうすることでイギリスは己の理性をギリギリの位置で保っていたのだ。
だから駄目だ。アメリカが己のことを好きなのではなどと考えてしまっては。
今のアメリカは幼子だ。
イギリスからされるキスをキスと認識しながらも、あくまで家族愛の延長上のものだと
捉えている。
証拠にいくらキスしても、いやらしい雰囲気になどなったことがない。
あれだけ濃厚なキスを交わしても、アメリカの雰囲気は清浄な色合いを変えない。
そのたびにイギリスは打ちのめされた。
アメリカは自分とは違う清らかな天子のような存在なのだと突きつけられて。
それでも諦めきることができないのはアメリカがこの行為を嫌がらないからだ。
もしも最初のキスのときに少しでもアメリカが嫌がる素振りを見せたのならば
諦めることができた。
けれどアメリカは嫌がらなかった。
それどころか嬉しそうにしている。
そういう態度を取られるとそれ以上を許されるのではないかと勘違いしそうになった。
だが、忘れてはいけない。アメリカには世界で一番好きな人がいる。
そしてそれはイギリスではないことを。
大きく息を吸ってイギリスは気持ちを落ち着けようとした。
こちらが慌てなければアメリカの癇癪の処理には慣れている。
ポイントは二つ。
一つ目は声を荒げてはいけない。二つ目は相手の意見を真っ向から否定せず
出来ればその意向に添った返答を心がける。
一つ目は大丈夫だ。声を荒げる必要はどこにも無い。
二つ目も大丈夫。俺だけを見て、だなんてこちらの気持ちを知らないから
簡単に口に出来るのだ。
どれほど前からアメリカだけしか見ていないのか知らしめたくなる。
けれど、そんな気持ちはおくびにも出さず柔らかく微笑んだ。
横に並ぶアメリカを正面から抱きしめて、優しく淡く囁く。
作品名:Love yearns(米→→→英から始まる英米) 作家名:ぽんたろう