Love yearns(米→→→英から始まる英米)
「そこまで俺のためにしなくて良いんだよ。俺のために何かをしなくたって
俺はお前が世界で一番好きで大事なんだから」
びくりと腕の中のアメリカの体が大きく震える。
その先の台詞を言うのには少し躊躇った。
俺じゃなくて他の誰かが好きなんだろう、なんて事実でも口にしたくない。
けれど、その一言でアメリカが楽になれるのならば痛みなど何とでもなる。
それがイギリスの愛だ。
怯みそうになった気持ちは一度口唇を強く噛み締めることで奮い立たせる。
自分に負けるな、大英帝国の名にかけても。
「その、お前は、ベラルーシとかハンガリーとか・・・俺じゃない、世界で
一番好きな奴、居るんだろ」
だから俺のことは気にするなって。
続けて紡ごうとした台詞は最初の音すら発することを許されなかった。
言い終わるか終わらないかのタイミングでドン、と思い切り突き飛ばされて
後ろに倒れこみそうになる。
倒れこまなかったのは咄嗟に後ろに手をつけたからだ。
そうでなければ後頭部を強打していただろう。
立ち上がったアメリカは自らを抱きしめるように腕で身体を抱き、涙を零す。
いきなり突き飛ばす非を責めることも忘れてイギリスは立ち上がりぼたぼたと
雨粒のような涙を流し続けているアメリカを呆然と見上げた。
これは、どういうことだ。
「なんだい・・・!なんだいそれは!!どうしてそうなっちゃうんだよ!!」
癇癪なんて生易しいものではない。アメリカは抜き身の感情を叩き付けてきた。
張り上げた声はどうにもならない諦観と悲壮を含んで、イギリスの胸を貫く。
間違えてしまった。
今更どうしようもないのはわかりきっていても、吹き零れんばかりの後悔が
泉の如く胸中に湧き上がってきた。
調子に乗りすぎていたのだ。
あまりにもアメリカが可愛くて、優しかったから自分の為にしてくれているだなんて
夢想を抱いてしまった。
アメリカはただほんの気まぐれで優しくしてくれていたというのに。
子ども帰りしていたのだって、喜ぶイギリスをからかうためだったのかもしれない。
いや、それはないかもしれないが、フランスの言うようにイギリスの為では
なかったことは確かだ。
(それにしたって、泣かれるほど嫌がられるとは思わなかったな)
ズキズキと痛みを訴える胸を押さえながらイギリスは自嘲した。
もうその時点から調子に乗っていることは窺える。
キスだって本当は嫌だったに違いない。
ごめん、アメリカ。
謝ることもできずに俯く。
目頭が熱を持ったように熱く、気を抜けば視界が歪みそうになる。
アメリカが泣いていなければ、自分が泣いてしまいそうだった。
そんなイギリスにアメリカはボロボロ涙を流しながら訴えかけた。
「俺が好きなのはっ、キミなんだよ!!ベラルーシやハンガリーじゃない!!
イギリス、キミだけが好きなんだよ!」
「あ、ありえねえよ」
「なんだって?」
とんでもない爆弾投下にイギリスは顔を上げて咄嗟に返した。
その言葉にアメリカがはっきりと顔を歪める。
さらに多くの雨粒が頬だけでなく地面に降り注いだ。
「お前が、俺のことを好きだなんて、ありえねえよ。そういうのは、冗談でも言うな」
「〜〜〜〜〜〜っ」
大きく目を見開いたアメリカが何かを言おうとして口を開きかけて、結局は何も言わずに
ぎゅっと口を引き結んだまま、くしゃりと顔を歪めた。
オーシャンブルーからはいくつもの涙が零れ落ちていく。
アメリカがこれほど泣いたのは独立以前だってそうそうない。
どうすればよいのかわからず、最早パニック寸前までに追い詰められたイギリスは
それでも何とかしようと手を伸ばす。
「キミがいなければ、俺は満足に呼吸もできやしないのに」
「ア、アメリカ・・・・・・」
伸ばした手は空振り、宙を彷徨った。
涙も拭わないまま悲しげに微笑んだアメリカは身を翻してイギリスを置き去りにする。
迷いの無い背中は青い軍服を髣髴とさせた。
途端に堪えようの無い吐き気がこみ上げてきて、片手で口元を覆ったイギリスは
両膝を地面に着く。
(・・・・・・結局は、あのときと一緒じゃねえか)
雲ひとつ無い天気だというのに何故か雨の匂いがしたような気がして
イギリスはがっくりと項垂れたまま、会議が始まる時間が訪れても
その場を動くことができなかった。
作品名:Love yearns(米→→→英から始まる英米) 作家名:ぽんたろう