二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

Love yearns(米→→→英から始まる英米)

INDEX|47ページ/60ページ|

次のページ前のページ
 

客が来たところでイギリスに関係はない。
どうせ顔見知りの者など来ないのだ。
身を起したイギリスはグラスを煽ろうとして酒がほとんど入っていないことに気付いた。
チッと舌打ちをし、乱暴な仕草でボトルを掴む。
しかしボトルにもほとんど酒が入っていないことに気付き、顔を歪めたイギリスは
仕方なしに次のボトルを注文しようとした。
そのときだ。

「Bonsoir!マスター悪いね」

割り込むようにして入ってきた声は今イギリスがこの世で一番聞きたくない声だった。
空いていたイギリスの隣の席に滑り込んだ男はいつものねとバーテンダーに注文を
済ませてからイギリスの方を向く。
だがイギリスは視界に入れたくないと言わんばかりに酒を注文することすらせずに
カウンターに突っ伏した。
(最悪だ。何だってこいつがここにいるんだ)
声を荒げて出て行けと言いたくなるのを堪えて心の中で毒づく。
今すぐ殴りかかってもいいが、ここはイギリスにとって自ら進んでパトロンに
なるくらいのお気に入りのパブだ。
そのパブをフランスの血で汚すのは忍びなかった。
隣に座ったフランスはイギリスに話しかけることもなく、静かに注文した
ワインを飲んでいる。
そうやって静かにワイングラスを傾けている姿は様になるのだが、イギリスは苛々とした
感情を抑えることができなかった。
国に帰ったイギリスをわざわざ追いかけてきたのはおそらくアメリカのことに関して
言いたいことがあったのだろう。
そうでなければここにまで押し掛けてくることはない。
フランスは何かとアメリカと通じ合っているようだった。
特別仲が良いというわけではないのだが、日本を含めた三人がアニメの話で
盛り上がっているところを何度か目にしたことがある。
その程度には仲が良かった。
そうでなくとも、フランスはきっとここにやってきただろう。
はあ、とため息をついたイギリスにフランスはチャシャ猫のように口端を歪めて笑った。

「まだバンジージャンプしていなかったんだ」
「うるせえ」

からかいを込めた口調に機嫌が良くないのを隠さずにイギリスは答える。
改めて身を起してバーテンダーに酒を頼み、すぐに出てきたブランデーを
グラスに注ぎ一気に飲み干した。
喉を焼く微かな苦味が散らばりそうになる思考をしゃんとさせる。
フランスの言葉はあのときの会話からきているのだろう。

『お前、ぜったい後悔するよ。死にたい死にたいだけじゃ済まなくなる。
 断言しても良い。いっそのこと、ビックベンから紐なしバンジージャンプ
 したくなるね』

まさにその通りだ。
後悔してもしてもし足りない。
フランスの言葉通りというのが癪だが『国』でなかったらビックベンからの
紐なしバンジージャンプを敢行していただろう。
くっと顔を歪めて嘲笑ったイギリスを興味無さそうに眺めてフランスは
やっぱりねと呟いた。
その呟きにイギリスは眉を顰める。
そういえば、あのときフランスはアメリカの気持ちを知っているといわんばかりの
素振りを見せていた。
あのとき既にフランスはアメリカの気持ちを―――――イギリスが好きだという気持ちを
知っていたのだろうか?
だからあのような言葉を吐いたのだろうか。
「テメエ、アメリカの気持ちを知っていたのかよ」
「俺は坊ちゃんみたいに鈍くないからね。ちゃあんと知っていましたよ」
言外に知らないのはお前だけだと言われたような気がして、イギリスは眉間の皺を
深くする。
「あの潔癖な子が口唇へのキスを許した時点で分かっているようなもんじゃない。
 まさか、それすら兄弟の触れ合いとか思っていた?」
ぐっと言葉に詰まりイギリスは俯いた。
性に対して奔放な傾向のあるイギリスに対し、アメリカは身持ちが固く
潔癖な一面があった。
興味が無いというわけではなさそうだったがイギリスはアメリカが猥談をしていたという
話を聞いたことが無い。
それだけ潔癖な一面を持つアメリカが口唇へのキスを許した。
その時点で気付くべきだったというフランスの指摘は正しい。
正しいが、フランスからの指摘を真っ直ぐに受け止めるほどイギリスは
素直になれなかった。
「あいつ、子供返りしてたし」
「見せかけのね。中身はアメリカ合衆国のままだった。お前だって本当は
 わかっていたんじゃないの。あいつがいくらあの頃に戻ろうとしても戻れない。
 結局のところは『アメリカ合衆国』なんだってさ」
アメリカがあの頃に戻るっていうのはそれこそお坊ちゃんお得意の魔法でも使わないと
あり得ないことだよねと付け足してフランスは微笑んだ。
だって。
子供のように言いかけてイギリスはぐっと唇をかんだ。
―――――ああそうだ。そんなことなどわかっていた。
あの子があの子でないことくらいわかっていた。
わかっていて、縋って、愛してしまったのはイギリスの弱さだ。
元のアメリカに戻った時に冷たい視線を言葉を向けられるのが怖かった。
だからそのまま染め上げてしまえばいいと思った。
アメリカの世界で一番大好きな人など忘れてしまうくらい愛して
もう一度きちんとやり直そうと思った。
その結果がこれだ。
泣かせてはならない、泣かせたくない人を泣かせてしまった。