Love yearns(米→→→英から始まる英米)
「で、お前はどうするの?」
「どうするのって・・・」
「アメリカのことだよ。諦めるわけ?」
「・・・・・・それしかないだろ」
横目で見ながら投げかけられた問いにイギリスは縦に首を振った。
その反応を見たフランスのへえ、と酷く冷めた声に喉が引き攣る。
今更どうしろと言うのだろうか。
あれほど傷つけて、彼の一番嫌がっていた幼少の頃をなぞらせる様なことをさせて。
それほどまでに傷つけた相手にどうして愛しているだなんて言えようか。
例え、愛しているなどと告げても信じてもらえるわけがない。
いくらアメリカがイギリスのことを好きだとしても今回の件で愛想を尽かしてしまった。
そんな彼に愛を告げることは苦痛を与えるだけだ。
首を振ったきり、言葉を発しないイギリスを眺めながらフランスは息をつく。
そして軽い口調で告げた。
「じゃあ俺がアメリカを貰ってもいいのかな?」
「あいつは物じゃねえよ」
「そういう返ししかできないんだ。大英帝国様が堕ちたもんだね」
「テメエ・・・ッ」
唸り声を上げ激高したイギリスはグラスをカウンターに叩きつけた。
ダン、と叩きつけられたグラスからは酒が零れ、しとどにイギリスの手と
カウンターを濡らす。
現役時代さながらの迫力にもフランスは動じずにゆっくりとグラスを傾けた。
その余裕さえ窺える態度に怒りは留まるところを知らずに膨らんでいく。
周囲の視線が集まっていることは分かっているがその程度では怒りを
納めることなど到底できない。
今度はグラスではなくフランス自身を叩きつけそうなイギリスの様子に
当のフランスは苦笑を洩らした。
「冗談でそんな怒るくらい愛しているのに諦められるはずがないよね。
いい加減諦めなよ。んで、アメリカに好きだー愛してるーぎゅうってしてみ?
それで全部解決するから」
謡うように齎された助言。
普段のイギリスならば反発しても内心検討を始めるだろう。
けれどできない。
彼を傷つけたとかそういう問題ではなく、もっと根源的な問題でイギリスは
それをすることができない。
俯くと視界がぐらりと揺れる。
遅ればせながら酔いが回ってきたのだろう。
微妙に霞んできた視界をものともせずにしっかりフランスを睨んでから
イギリスははあと肺の中の空気をすべて吐き出すようなため息をついて口を開いた。
「・・・・・・俺は、あいつにもっと幸せな恋愛をしてほしいんだ」
「おーい。お兄さんの話、聞いてる?」
濡れたグラスを両手で握りしめてイギリスは俯く。
微かに残ったウイスキーの揺れる水面に情けない表情が映った。
「俺たちは『国』だ。今はいい。まだあいつと俺が敵対するようなことは恐らくない。
けど、未来はどうなる?あいつと袂を分かたなくてはならない日が
いつ来るかわからない。国民とあいつのどちらかを選ばなくてはならなくなった
ときには俺は国民を・・・選ぶ。そして俺はあいつに銃を向けなくちゃならない。
愛していると誓った相手に。」
俺たちは国の具現だ。国民の意思に逆らえない。
ぽつりと呟いた言葉は何の感情も込められていない。
だがそれゆえに言葉に秘められた重みはフランスに騒がしいパブの喧騒を
一瞬忘れさせた。
「だから俺はアメリカを幸せにできない。俺では駄目なんだよ」
「・・・それって単なる言い訳じゃない?そういうこと考えていた割には
アメリカにキスしたり、好き放題してたよね?」
「そうだな。言い訳かもしれねえな」
はは、とらしくない乾いた笑みを浮かべ、微かに残った酒を一気に喉に流し込んだ。
喉を焼く感覚には慣れ、微かな苦味と甘さが残る。
ああ、言い訳かもしれねえなともう一度呟いて、イギリスは目を伏せた。
イギリスはアメリカと結ばれることを夢見つつも結ばれないことを望んでいた。
彼のことを愛するばかりに行動が暴走してしまうこともあったが
自分ではアメリカを幸せにできないと知っていた。
イギリスの想いは綺麗な愛だけではない。
独立戦争のときに芽生えた憎しみも内封している。
そんな歪な愛では到底彼を幸せにすることなどできやしない。
しかしそんなイギリスの望みとは裏腹に状況は願いの叶う方向へと進んでいった。
イギリスの為に幼少の頃を模した人格を演じるアメリカ。
キスをしても抱きしめても嫌がらない彼。
イギリスの望んだ、願望そのままの彼を目にして、その懸念すら忘れた。
船乗りがセイレーンに魂を奪われるのと同じように彼に心を奪われた。
溺れるように彼に手を伸ばして、そうして傷つけた。
誰よりも愛しい彼を。
作品名:Love yearns(米→→→英から始まる英米) 作家名:ぽんたろう