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Love yearns(米→→→英から始まる英米)

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(俺は、本当にアメリカを幸せにできるのか?)
フランスの言うとおりに彼を幸せにしようとしても上手くいかないことなど
わかっている。
もしも仮に本当に幸せにできたとしても、その過程でどれだけアメリカは
苦しむことになるのだろうか?
そして自分も同じように傷つき、悲しむだろう。
自分の痛みはどうでもよかったが、アメリカが悲しむことだけは避けたい。
(『国』としての宿命を乗り越えて、俺はあいつを愛せるのか?)
とめどなく湧き上がってくる問いかけを何度も繰り返す。
何度も何度も考えてきたアメリカとの関係性は明るい方向へと見出せない。
やはり俺では幸せにできないと顔を上げたイギリスは不意にアメリカの台詞を
思い出した。

『俺ね』

『その人のことが世界で一番好きなんだ。堪らないくらい好きなんだ』

『けれどね、ぜったいにその人は俺のことを好きになってくれないんだ』

『・・・どんなに好きでも叶わない恋なんだ。それでも俺は好きだ。一生、好き』

滔々と語られた秘めたアメリカの想い。
その世界で一番好きな、でも叶わない相手の―――――イギリスの胸の中で
アメリカはどんな思いで口にしたのだろうか。
まだ年若い彼が一生好きなのだと、想いは変わらないのだと、どれほどの決意を込めて
言ったのだろう。
それに比べて自分はどうだ?
本当は誰よりも彼のことを愛しているのに、言葉にしないで為されるがままの
彼を好きなようにして。
時には泣かせて。
挙句の果てには会議をすっぽかして酒を浴びるように飲んでいる。
これではアメリカのことをガキだなんて笑えない。
今のイギリスの方がよっぽど子供だ。
(・・・・・・アメリカ)
国以外の者にとってはただの国名でしかない4つの音の響きはこんなにもイギリスの心を震わせる。
彼には国民と生活していくための人名も与えたけれど、やはり心をここまで揺らすのは
「アメリカ」という名前だけだ。
―――――ならば、イギリスにできることはただ一つだけなのだろう。
俯けていた顔を上げ、隣の席に置いておいたコートを手掴みながら席を立つ。
ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべるフランスにちらりと視線を投げかけて
イギリスは口を開いた。

「礼にここの支払いは任せた」
「え、ちょっと坊ちゃん、俺、金が―――――」
「悪いなフランス」

ちっとも悪いとは思っていないようなあくどい笑みを浮かべたイギリスは
バーテンダーに軽く手を上げ、フランスの悲鳴をBGMに颯爽とパブの扉を潜り抜けた。
扉を開けると同時に冷えた空気が吹き込み、12月の寒さを身に染み込ませる。
それでもやるべきことを見つけたイギリスにはその位の寒さなど堪えもしない。
パブからさほど遠くない自宅までの道を歩きながらアメリカに告げるべき台詞を
何度も舌の上で転がす。
あんなことがあった直後に告げるなんて尋常じゃないとイギリスは思う。
自分だったら拳の一発でも入れる。
それくらい酷い言葉だ。
(あいつに一発殴られたら相当痛いな)
何せ子供の頃からバッファローを軽々と振りまわす様な力の持ち主だ。
一発だけとはいえ、相当痛い思いをするだろう。
けれどイギリスはその痛みを厭う気はなかった。
むしろ、一発で済めば良い方だとすら考えている。
(後はあいつが話を聞いてくれるかどうかだが)
こればかりは話しかけてみないとわからない。
アメリカと喧嘩をして話を聞いてくれないことは何度もあったが
それでもイギリスが折れて下手に出れば、機嫌は悪くても話を聞いてくれた。
少なくとも今までは。
だが、今回のようなパターンはアメリカがどのように対応するのか予測もつかない。
話を聞いてくれるどころか、もしも着信拒否までされていたら―――――
「いや、考えるのはよそう」
どんどんネガティブになっていく思考に歯止めをかけ、イギリスは緩く首を振った。
考えれば考えるほど不安になるが、今は考えないことにしている。
それは深謀遠慮な「イギリス」らしくないが、一歩を踏み出すために必要なことだ。
だが不意にため息は零れてしまい、白い靄のような吐息が空気を揺らす。

(アメリカ)

音にはせず、唇を動かすだけに留めて彼の名を呼ぶ。
ポケットに突っ込んだ手はプライベート用の携帯を何度も指先でなぞっていた。
幾度となく介して、アメリカと話した携帯。
その機体の無機質な冷たさは元々冷たいイギリスの指先をさらに冷やす。
それでもイギリスは触れることを止めるような真似はしなった。
今、触れることを止めてしまったらきっと電話をかけることができなくなる。
だからイギリスは指先だけでも携帯に触れて、止めてしまいたくなる心を
必死に奮い立たせた。
自宅の門が見えてきて、イギリスは一度歩みを止める。
そして携帯をポケットから取り出して、しっかりと握りしめ、再び歩き出した。
その足取りはゆっくりとだが、確かに前に進み距離を詰めていく。
―――――アメリカに想いを伝えることへの恐れは胸の中にわだかまっている。
ここに辿りつくまでの短い時間に何度止めようかと思ったことか。
だけど、イギリスは決してその足取りを緩めることはあっても止めることはなかった。

『アメリカを幸せにしたい』

身分不相応な自分勝手な願い。
けれど、叶うのならば、出来るのならば自分の手でそうしたい。
彼の喜ぶ顔を隣で見たい。
それはイギリスにとって、遠い昔にアメリカに抱いた感情そのものだった。
独立の際に失われたと思っていた想いは失われてなどいなかった。
イギリスの胸底に深く沈められていただけだったのだ。
自宅に辿りついたイギリスは固く閉ざされた楢の扉に手をかけて押し開く。
そして扉に片手をかけたまま俯き、ぎゅっと唇を噛みしめた。
同時に手に握っている携帯も軋むほど強く握りしめる。
審判の時はすぐそこに迫っている。

「アメリカ。俺は・・・・・・」

言葉にならなかった呟きは宙に溶けこみ、誰にも知られずに消えていく。
やがて顔を上げたイギリスは中に入り、真っ直ぐに寝室に向かう。
そしてコートも脱がずにベッドに腰掛け、握りしめていた携帯に視線を落とした。
おそらくドイツに滞在しているであろうアメリカは普段ならば
まだ起きている時間帯だ。
だが今日は必ずしも起きているとは限らない。
もしかしたら就寝しているところを起す羽目になるのかもしれない。
普段のイギリスならば国政に関わる緊急事態以外はこのような時間帯にかけないのだが
今日だけは今ではないと駄目だった。
きっと明日の朝にしてしまえば、電話をかけること自体を止めてしまう。
行動に移せるのは今だけなのだ。
恐れに震える心を抱えながらもイギリスはそっと携帯電話のボタンに指をかける。
すぐに鳴り始めたコール音に縋るように固くぎゅっと目を伏せた。