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Love yearns(米→→→英から始まる英米)

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Love yearns act13


(やっぱり寝ちまったのか?)

鳴り続けるコール音に眉を顰めてイギリスは一度耳から携帯を離し
ディスプレイを覗きこんだ。
表示されているのはアルフレッド・F・ジョーンズ―――――防犯上の理由から
あえて人名で登録しているが、確かにアメリカの携帯番号だ。
やはりアメリカといえど他国での会議は移動を伴うものだから疲れて
早々に眠っているのだろう。
あるいは―――――
もう一つの、早く眠ったというよりはよっぽどあり得る理由を思い浮かべて
イギリスは下唇を噛んだ。

(電話に出ることすら嫌になった・・・・・・んだろうな)

自分がアメリカの立場だったら―――――そんなの駄目だ。許せない。
今更過ぎる。
あれだけ傷つけて、挙句の果ては逃げ出して。
それなのに赦しを請うて、愛を告げたがっている。
お前を愛しているのだと、お前の気持ちはありえない、他に好きな奴が
いるんだろ?と言った口で。

「―――――駄目だ」

やはりどう考えても駄目だ。
許されるはずがない。
あれほどのことをアメリカに告げておきながらその口で愛を告げるなど
許されるはずがない。
そもそも向こうはもう日付変更線をとっくに越えた時刻だ。
常識的に考えて私事で電話をかけていいような時間帯ではない。
それが常日頃礼儀作法に煩いイギリスなら尚更。
ディスプレイに視線を落したまま、ごめんアメリカと聞こえることのない謝罪を告げて
イギリスは通話を切ろうとした。
そのとき―――――

「―――――ッ」

びくりと身体を震わせて息を呑む。
画面上に表示されているのはCallingではなくTalking。
つまりはアメリカと繋がっているということだ。
信じられなくて半ば夢心地で耳につけ「Hello?」と挨拶をする。
だが返ってくるのは息詰まりそうなほどの沈黙だけで
耳を澄ませても息遣いすら聞こえない。

(間違ってボタンを押したとかか?)

眠っていて、いつまでも鳴り続ける携帯が煩くて切ろうと思ったら
通話ボタンを押してしまった。
・・・ありえる。十分にありえることだ。
実際にイギリスもアメリカ相手ではないがしたことがある。
だから今回もたまたま繋がっただけでアメリカは眠っているのだ。
そうに違いない。
けれど、何かが引っかかる。
眠っているのならば多少の息遣いが聞こえてもいいはずだ。
それがまったく聞こえない。
可能性としては、手に持ったまま投げ出している可能性とどこかに
放り出されている可能性があるが、そのわりには気配を近くに感じるので
この二つの可能性も考えにくい。
と、なれば。

(俺の、様子を窺っているのか?)

思い当たった可能性に思わず携帯を握る手に力が籠る。
イギリスのこの推測が正しいのならば、携帯の向こう側に居るアメリカは
話したくはないが、話を聞くだけならば許容してくれるということだろう。
渇きを覚え始めた唇をぺろりと舐める。
これほど緊張したのはいつ以来のことだろう。
少なくとも近年に思い当たる節は無い。
言葉を一つでも間違えば、アメリカとのホットラインは途切れる。
ホットラインだけではない。
アメリカとイギリスの個人的な絆すら失われるのだ。

「・・・・・・こんな時間に電話をかけて悪かった。けどお前にどうしても
 言っておきたいことがあったんだ」

余計な感情は押し殺してイギリスは口を開いた。
その言葉に携帯越しのアメリカの気配が僅かに硬くなる。
また、イギリスに傷つけられるのだろうかと警戒されているのだろう。
それでも通話を切らないのはまだ少しだけでもイギリスのことを
好きでいてくれるからだろうか。
そうならばいい。
そうでなくとも、電話を切らないでいてくれることに感謝を捧げたい。

「今週の休暇、俺のところに来るって言ってたよな。・・・けど、俺がそっちに行く」

手帳など見なくともアメリカとのスケジュールは全て頭の中に収めてある。
一週間ほど前の他愛のない約束を引っ張り出して提案を仕掛けた。
だがその提案に対しての答えは夜の森のような静けさだけだ。
相槌すらないが、気配は近くにあるのでおそらくは聞いてはいるのだろう。
その静けさを引き裂くようにイギリスは言葉を紡いだ。

「場所はいつも使っている駅の大きな時計の前に・・・そうだな、15時に待っている」

だから、来て欲しい。
懇願のつもりで吐きだした言葉にアメリカははっと短く息を呑みこみ
何かを言おうとしたということだけはわかったが、その台詞はイギリスに
齎されることなく、そのままぷつん、と通話はあっけなく断ち切られた。
携帯をそろそろと耳から離したイギリスはそのまま後ろにゆっくりと倒れ込む。
先日干したばかりのシーツは洗剤の匂いと相俟って、とても気持ちが和らぐ香りがする。
いつもは疲れ切った体と心を癒してくれる香りだったが、今日ばかりはイギリスの胸を
掻き立てる存在でしかなかった。
ため息が自然と零れ、後悔がもくもくと胸に湧き上がる。

(あんな約束、するべきじゃなかったのかもな)

電話越しに想いを伝えるのは嫌で、直接会って伝えたいとイギリスは考えたのだが
それは間違いだったのかもしれないと思い始めていた。
あっけなく途切れた電話。
その電話を切る直前にアメリカは何かを告げようとしていた。
結局は何も言わずに切られたので何を告げようとしていたのかわからなかったが
あまり良いことではないような気がした。
携帯越しに伝わる空気は硬く、イギリスを拒絶するような気配すら滲ませていた。
一連の出来事から導き出される推論はいとも簡単に心を締めあげる。

(―――――いや、まだそうだと決まったわけじゃねえだろ)

結論を出すのには早計過ぎる。
そもそもアメリカを幸せにすると決めたのだ。
例え、彼の感情がそうであっても簡単に諦めることなどできない。
縋るように携帯を両手で握り締め、目をぎゅっと瞑る。
瞼裏に甦るアメリカの太陽のような笑顔を思い浮かべ、共に過ごした
数か月の記憶に縋りながら深い眠りへと落ちていった。