Love yearns(米→→→英から始まる英米)
「お待たせカナダ」
「いえ、僕はオフだったので気にしないでください。それよりもお疲れ様です」
個室の中は程よい広さで先に席に着いていたカナダは小さな小窓から外を眺めていた。
ウェイトレスが去ってからフランスが声をかけると振り返りざまに
にこりと笑ったカナダはフランスだけではなくイギリスにも笑顔を向ける。
穏やかな笑顔にフランスに笑われた苛立ちも溶けていったが、昨日の自分の行いを
思い出したイギリスは眉を下げて口を開いた。
「カナダ、その・・・昨日は迷惑をかけてすまなかった」
「おー坊ちゃんが素直に謝るなんてめっずらしーねえねえお兄さんには?」
「うるせえ黙れ。ブッ飛ばされたいのか?」
「ひどっ。お兄さんへの愛が感じられないわっ」
「愛?テメエなんかへの愛なんざねえよ」
よよよと泣き崩れるフランスを鼻で笑い、改めてイギリスはカナダに向き合った。
二人のやり取りをいつものことだと眺めていたカナダは向き合ったイギリスに
いえ、と首を横に振る。
「イギリスさんが少しでも元気になって良かったです」
「うんうん。昨夜のこいつは本当にしょうもなかったからねえ。お酒に溺れてさ。
俺が居なかったら二日酔いどころか三日酔いくらいしそうだったよね」
「髭」
にこりと笑ったイギリスがフランスの胸倉を掴んだ。
急に喉が締まってギブギブと暴れるフランスを悪魔のような笑みを浮かべて締め上げる。
さすがに外でやるには激しいやり取りにどうしようかとカナダがおろおろと視線を
彷徨わせるとぐう、と可愛らしいお腹の音が緊迫した雰囲気の中鳴り響いた。
「え・・・・・・」
「〜〜〜〜〜〜っ」
「―――――」
「っだあっ!!」
戸惑うカナダを尻目に吹き出しそうになったフランスの足の甲を
素早くイギリスは踏み潰す。
堪らず身を折って声を上げたフランスをイギリスは小悪党じみた笑みで見下ろした。
そうしていると一番猛威を奮っていた頃の彼が降臨したようで
カナダは慌てて二人を・・・主にイギリスを止めに入る。
「お、お腹も空きましたし、そろそろ注文しませんか?お二人とも立ったままじゃあ
着かれているでしょう?」
踏み潰したフランスの足をぐりぐりと踏み躙っていたイギリスはそうだなと
あっさり解放し、さっさとカナダの隣の席に着く。
しゃがみ込んだフランスはしばらく労わるように足の甲を撫でていたが
早くしろ髭、という悪魔の声に急かされて、のろのろと立ち上がり
カナダの向かい側の席に着席した。
さすがにフランスが可哀そうになって「大丈夫ですか?」と尋ねると
うん、いいの。これはある意味お兄さんの運命だから、とどこか悟りきったような
返事が返ってくる。
本当にいいのだろうかと思ったがここで話を蒸し返して、イギリスが暴れても困るので
とりあえずは何を食べるのか決めることにした。
「お兄さんのお勧めは魚ね。肉もいいんだけどここは断然魚の方がお勧め」
「じゃあ俺は肉」
「え?お前、お兄さんの話聞いてた?ま、味覚音痴にはわからないだろうけどさ」
「あ、じゃあ僕は魚にします!フランスさんも魚でいいですか?」
フランスの言葉により再び一触即発の雰囲気になりかけた場をカナダが遮る。
こういうときに大人なのはやはりフランスで「うん、魚で良いよ」とあっさりと退いた。
そうすればイギリスも引かざるを得ず、不満そうに睨みつけながらも
「俺も魚にする」とカナダに告げた。
それからすぐにウェイトレスを呼び注文を行う。
コースは魚で飲み物は全員紅茶。
全員紅茶にしたのはここの紅茶はかなり美味しいのだとフランスが熱弁を奮ったおかげで
ならば俺が審査してやるよとイギリスが受けて立ち、カナダはフランスお勧めならばと
全員紅茶になったのだ。
前菜から始まったコースメニューは確かにフランスがお勧めするだけあって美味しい。
フランス相手に美味しいなどと真っ向から言うつもりはないが、ここならばアメリカを
連れてきてもいいなとちらりと思った。
食事を終えて、紅茶を飲んでいると横から視線を感じる。
ふ、と視線を滑らせるとカナダが何時もよりも少し真剣な面持ちで
イギリスを見つめていた。
「カナダ?」
「ええと・・・・・・」
不思議に思って名を呼ぶとカナダは何かを言おうとして口籠る。
二人の雰囲気を察したフランスがおどけたように口を開いた。
「おや、真剣なお話?お兄さんは居ない方がいいかな?」
「あ、はい。・・・・・・いいえ、フランスさんも居て下さい」
一度頷いたカナダだったらすぐに取り成すように首を振る。
そして話しやすいようにとイギリスとフランスの席を交換した後、イギリスの瞳を
真っ直ぐに見据えたカナダは昨日のことを話し始めた。
アメリカは知られたくないであろうことは省いて、余計な感情を挟まずに
アメリカの言葉をカナダは伝える。
その言葉を一言も漏らさないように聞いているイギリスは7月のあのときのように
顔を青白く染めていた。
膝の上で握りしめた拳がぶるぶると震える。
それでも声を上げず、最後まで黙って聞く。
話し終えたカナダはイギリスに似なかった眉を下げて、イギリスさん、と呼びかける。
「お願いです。今のアメリカを、貴方の愛した子とは違うかもしれないけど
否定しないであげて下さい」
泣きだすのを堪えたカナダの言葉に触発されて日本に告げられた台詞が蘇った。
ロンドンでの世界会議の際に忠告として投げかけられた台詞だ。
『アメリカさんはよくも悪くも貴方の言葉に左右されやすいんです。
・・・・・・このことだけは絶対にお忘れにならないで下さい』
あのときの友人はいつもとは違い、はっきりとイギリスに言い放った。
空気を読み、アメリカともイギリスとも親しい日本は二人の感情を
正しく理解していたのだろう。
故にあのような台詞をイギリスに告げたのだ。
二人の行く末が悪い方向にいかないようにと。
作品名:Love yearns(米→→→英から始まる英米) 作家名:ぽんたろう