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Love yearns(米→→→英から始まる英米)

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Love yearns act14


「だいすきだよ、いぎりす」

甘い、甘い、メープルシロップよりも甘い幼い声。
小さな、触れたら壊れてしまいそうな手が触れる。
幼子の手を紅葉のようだと表現したのは日本だったか。
記憶を探ろうにも思い出せない。
そうして思い出そうとしているうちに幼子に誘われて、思い出すこと自体が
どうでもよくなってしまう。
小さな手に誘われるがままにしゃがみこむと幼子は大輪のひまわりのような笑顔を見せた。
光に満ちた煌びやかな笑みは心を温かいもので満たしていく。
自然と笑みが零れて手を伸ばして幼子を抱きしめた。
鼻孔をくすぐるのは太陽の香り、と評せばいいのだろうか、それでいてどこか甘い香りが
幼子から漂っていた。

「あのねいぎりす」

お決まりの言葉から始まる不在にしていた間の冒険談を幼子が語る。
お気に入りの樹の穴にウサギの親子が住み着いたこと。
見たことのない赤い実を食べたら酸っぱかったこと。
きれいな湖を発見したこと。
抱き上げてもらった幼子は一つ一つの冒険談を耳元で大切な宝物を披露するかのように囁く。
抱き潰さないように力を込めて腕の中の幼子の話に耳を傾けた。
辛くて苦しい現実を忘れさせてくれるのはこの子だけだ。
この幼子だけが心を癒してくれる。
世界で一番大切で愛おしい子。
決して短くはない冒険談を幼子が話し終えたときには沈みかけていた太陽が
完全に姿を消していた。
話し終えた幼子は腕の中でうとうとと意識を飛ばしかけている。
時折、目を擦って起きようとするが眠気には勝てないのかすぐにまた船を漕ぎ始めた。

「    」

起こさないように名を呼んで額に口付ける。
胸の内を満たす暖かい気持ちは幼子に出会ってから得たものだ。
こんなに暖かい気持ちが自分も抱けるなど思ったこともなかった。
国民を愛していたし、傍にはたくさんの妖精が居てくれた。
それでも埋めきれない心の隙間が時折苛んだ。
その隙間を埋めてくれたのは今腕の中で眠っている幼子だ。
この子だけが自分を癒してくれる。この子だけが―――――

「―――――っ」

はっ、を短く息を飲んだところでイギリスは夢から目覚めた。
目の前に広がるのは真っ白で無機質な壁―――――ではない天井だ。
瞬きでさえ酷い倦怠感が付き纏うのは何故か。
そもそも自分はアメリカと待ち合わせていたはずだ。
これはいったい、と状況を把握しようと首を傾けたところで
扉が開かれ、英国に居るはずのジェームズが入ってくるのが見えた。

「祖国!」

目を大きく見張ったジェームズがベッドサイドに駆け寄ってくる。
そのまま腰を落としてしゃがみ込む彼をイギリスはぼんやりと見返した。
ジェームズは生真面目な彼らしくスーツを皺一つなくかつ英国紳士に相応しいように
着込んでいるがどことなく憔悴しているように窺える。
どうした?と尋ねようとしてイギリスは軽く咳き込んだ。
こほん、と乾いた咳を生み出す喉は何日も水分を補給していないのかのように
乾ききっている。
すぐさますっと差し出されたコップを口に運んでゆっくりと喉に流し込んだ。
乾きすぎた喉はゆっくりと流れ込む水にすら痛んで苦しい。
おかしい。おかしすぎる。
体を蝕む痛みといい、ひび割れたような喉の痛みといい、そのどちらにも
そうなる要素をイギリスは思い浮かばない。
説明を求めるようにじっとジェームズを見据えると彼はベッドサイドに膝着いたまま
ぎゅっと唇を噛みしめ、それから視線をイギリスに合わせて口を開いた。

「・・・結論から申し上げます。祖国、貴方は凍死しかけていました」

思いもしない部下の言葉にイギリスは瞳を瞬かせる。
凍死。
意味も病状も良く知っている。
低体温症による死。
生命活動を保てる体温を下回り、身体機能を維持することができなくなって訪れるもの。
もっとも死に至らなかったので冬眠もしくは仮死状態に陥ったようなものなのだろう。
それならば、今回に限らず何度かある。
ここ5,60年ほどは陥る機会もなかったが、昔はそこそこあったことだ。
珍しいことではない。
だが、続くジェームズの説明はイギリスをひどく驚かせることになった。

「一週間前のことです。非常用の」
「ちょっと待て。一週間、だと?」
「はい。祖国殿はこの一週間、一度も目を覚ましませんでした」

ジェームズの話によるとアメリカ側から連絡を受けた時、イギリスは目を覚まさないものの
心臓は動いており、自発的な呼吸も可能であると報告を受けた。
ただ身体は長時間寒空の下に晒されて衰弱していた為、無理に動かすことは
できないとのことだった。
故にジェームズはすぐに米国に飛び、現地医療機関と本国の連絡役を務めた。
目を覚まさないことはとても気がかりであったが、昔からの知り合いである
フランスやスペインといった国々はこの程度で『国』は死なないと助言を授けてくれた為
本国では騒ぎになったものの繋ぎにイギリスの第一秘書であるジェームズをつけることで
何とか事態の収拾を図ったとのことだった。
フランスやスペインの名が出たところでイギリスはきつく眉根を寄せたが
言葉にはしなかった。
文句を言ったところでどうにでもなるものではないし、感情を抜けば妥当な判断だ。
国のことは国へ。
イギリスがジェームズたちの立場になったとしてもそうするであろう。