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Love yearns(米→→→英から始まる英米)

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「・・・・・・はい」

やや間を開けて返事を返すとすぐに扉は開かれる。
医師を連れてジェームズが俯き加減のイギリスを視界に収めると
顔色を変えて駆け寄ってきた。

「祖国!」
「いや、大丈夫だ。大したことはない」
「イギリスさん」

駆け寄るジェームズを制したイギリスの腕をそっと手に取ったのは
共に病室に入ってきた白衣を纏った初老の男だった。
丁寧に脈を測り、顔色をチェックするその男をイギリスは良く知っている。
十年以上前からこの病院で『国』を担当してきた男だ。

「脈が少々遅いですが・・・気分はいかがですか。英国殿」
「一週間も寝ていたから体のあちこちが痛いな。それ以外は問題ない」

顔を上げたイギリスは医師の問いかけにはっきりと答えた。
一週間眠り続けていた為、身体の節々に軋むような痛みが走ることがあるが
それ以外は言葉の通り問題はない。
むしろ、普段の睡眠不足を一挙に解決できたおかげか頭はすっきりとしている。
イギリスの返答に頷いた医師は立ち上がり、診察を見守っていたジェームズに向き合った。

「医師としても英国殿の状態に問題はないと思います。検査の為に三日ほど
 入院していただいたら、英国に戻っても構いません」
「そうですか。ありがとうございます。では、そのように手配をさせていただきます」
「おいジェームズ」
「祖国殿は疲れていますから、この際きちんとお休み下さい」

Noとは言わせない態度でにっこりと微笑むと医師に向けてはきちんと頭を下げる。
それに頷いた医師は「くれぐれも安静にしていて下さい」と言い残して
病室を出て行った。
病室に残ったジェームズはイギリスの傍を離れて、キッチンへと向かった。
顔を向けてその動きを追うと小さなケトルからマグにお湯を注いでいる。
そして注ぎ終わったマグを手に取ったジェームズはそのマグをイギリスに手渡した。
渡されたマグはほんのりと暖かく、冷え切った指先を包み込むように癒してくれる。
普段、あまりマグを使わないのだが久しぶりのマグの重みは何だか心地よい。
前にマグを使用したのはいつだったかと考えてイギリスはとっさに唇を噛んだ。
脳裏に過ったのはほんの数日前まで訪れていたアメリカの家のリビングの光景だ。
イギリスの家にマグが無いわけではないが、ほとんどティーカップしか使わないので
倉庫にしまわれているはずだ。
食器棚に仕舞われている唯一のマグはアメリカの物で、イギリスの物ではない。
だからマグを使うのは必然的に外でホットを頼んだ時かアメリカの家に行った時となる。
ここ最近は公務が忙しく、カフェで飲むときすらテイクアウトの容器に
淹れてもらっていた。
だから一番近い記憶は一年ほど前に訪れたアメリカの家が舞台となる。
英国から米国に飛んで、いつものように迎えに来たアメリカの車に乗りこんで。
着いたアメリカの家で荷物を置いて、自らキッチンに立ち
いつものように紅茶を入れようとしたイギリスの服の袖を引っ張って
彼はこう言うのだ。

『たまにはキミもコーヒーを飲むべきなんだぞ』

生意気そうに蒼い瞳を眇めたその姿はいつもの子憎たらしいと言える姿からは
かけはなれたものだった。
そのときはまだアメリカへの汚い欲望を隠していたイギリスは何と答えたか。
アメリカの姿ばかり覚えていて、己の言動など覚えていないが
きっとあの子の眼を曇らせてしまうような答えを返したのだろう。
いつだってそうだ。
イギリスはアメリカの求めている答えをうまく返せない。
このときも、あのときも。

「・・・・・・上手くいかないもの、だな」

口元を歪めてイギリスは呟いた。
ゆらりと揺れる湯の水面に映る己の顔は死にかけた状態に在ったからという
理由だけでは片づけられないほど萎れきっている。
情けない、と声を上げる昔の残像にも返事を返せない。
自分の手で幸せにするのだと腐れ縁と可愛い弟・・・元弟にも誓った。
だというのに、たった一度の失敗でこんなにも心は沈んでしまう。
アメリカのことに関して臆病になってしまうのは仕方ないとは思う。
もう一度、あのようなことが起きてしまえばイギリスの心は
崩壊するのがわかっているからだ。
『国』は国が滅びない限り、国を想う国民が居る限りは消滅しない。
だからイギリスが死ぬことはない。
だが、崩壊した心は二度と元に戻ることはなく、抜け殻となった身で
悠久の時を過ごすのだろう。
それは国としてあってはならないことだ。
故に慎重にならざるを得ない。
この身も心も英国の為にあるもの。
己の恋情などというくだらないものの為に危険に晒してよいなどありえない。

(それでも、俺は)

噛み切りそうなほど唇を強く噛みしめて揺れる水面を睨み返す。
恐れおののき、震える気持ちを踏みしめてでもあの子の笑顔が見たい。
今回は上手くいかなかったが次はもっとうまくやってみせる。
幸せにすると誓ったからではない。
震える心にも『国』の使命すらも乗り越えて思う理由はただ一つ。
―――――アメリカを愛しているから。
ただそれだけでぐらつきそうな自分の心を支えることが出来る。
愛を理由にするなど腐れ縁のようで吐き気すらこみ上げるが
この気持ちを否定することはできない。
睨みつけていたマグをぐっと飲み干すと微かな甘みと爽やかなマスカットの
匂いが鼻についた。
考え事をしていたせいで気付かなかったのだが、これはただの湯ではなく
エルダーフラワーのシロップを少量入れたものらしい。
からからに乾いていた喉にも痛みを感じることなく飲み干せたのはそのおかげだ。
傍で飲み干す姿を見守っていたジェームズに礼を言ってマグを渡した
イギリスはふと、部屋の外に感じ慣れた気配があることにようやく気付いた。
物音一つ、微かな身動きすら感じさせないが押し殺された気配は
イギリスにとって馴染みのあるものだ。