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Love yearns(米→→→英から始まる英米)

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今まで気づかなかったのがおかしいと言えるほどにその気配をイギリスは知っている。
平常時ならば、どんなに擬態されていてもすぐに気がつく。
その気配が『彼』のものであるならば。

(まさか・・・・・・)

ざわりと胸がざわめく。
間違えるはずはない。
カナダと彼が並んだら迷うことはあるが、姿が見えず気配だけで二人を判断するならば
一度だってイギリスは間違えたことはなかった。
だからこそ戸惑う。
一度も間違えたことのないアメリカの気配がドアの向こう―――――おそらくは
張り付いているのだろう、ぴたりと寄り添うように存在している。
イギリスはごくりと唾を飲み込んでマグを洗いに行こうとしたジェームズの
服の裾を掴んだ。
振り返り声を上げようとしたジェームズをジェスチャーで黙らせる。
そしてもっと近づくようにと手招きをした。

(外にアメリカが居る)

思いもしない情報を耳にしたジェームズは声を上げずにぴくりと片眉を上げた。
顔にはそんなわけはないと極太のゴシック体ででかでかと書かれている。
ジェームズはイギリスの秘書官であり、同時に情報機関の優秀な捜査官でもある。
人の気配を読むことに長けている彼がいくら敬愛する祖国の言葉とはいえ
イギリスの言葉に簡単に頷くことが出来ないのも仕方ないことだ。
だがイギリスは首を緩く振って更に言葉を重ねた。

(ジェームズ、確認してくれないか?)

声、というよりはほぼ吐息のような声量でイギリスは囁く。
見据える眼差しに迷いはなく、つい先ほどまで生死の狭間を彷徨っていたとは
思えないほど力強くジェームズを捉えた。
その視線を真っ向から受け止めていたジェームズは少し顎を引いて軽く頷く。

(もしあいつがいたら腕を掴んででもいいから中に入れてくれ。俺が許可する)

昔とは違い、現在は『国』の意味を知っている者が他国の『国』を許可なく
害を及ぼしたり、傷つけることは禁止されている。
その許可を下せるのは『人』には存在しない。
そして下せるのは『国』だけとなっている。
許可なく掟を破った者がどうなるのか『国』ですら知られていないがだいたいの想像はつく。
そうなることを防ぐためにもイギリスの許可は必要なことだった。
イギリスの言葉にもう一度頷いたジェームズは足音を全く立てずにドアに近づいた。
ドアの向こう側の気配は近付いたジェームズに気付かないのか微動だにしない。
そのドアを躊躇いもなく内側に引き開くとドアにべったりくっついていたのか
アメリカは床に強かに膝をぶつけて転がり込んできた。
驚きに見開かれたブルーアイが状況を把握する前に容赦のない力でジェームズが
アメリカの腕を掴む。
そのままずるずると中に引きずり込み、逃げ場を塞ぐように開け放った扉を閉めた。
ジェームズに引きずられるがままだったアメリカは膝を打った痛みに
一瞬顔を顰め、それから何でもない顔をして立ち上がった。

「ずいぶんと強引なお招きだね。イギリス」
「たまにはお前のやり方を真似してみようと思ってな。まあ問題はねえよ。
 俺が許可したんだからな」

挑戦的なアメリカの言葉にニヤリと人の悪い笑みを浮かべてイギリスは答えた。
イギリスから少し離れて立っているアメリカは何時ものアメリカのように見えるが
そうではないことをイギリスは良く知っている。
視線が合わさっているようで僅かに外されていることが証拠だ。
アメリカは幼い頃から何か後ろめたいことがあるとこうして眼を逸らす癖があった。
その変化は普段の彼を知る者ならばわからない者はいないと
いってもいいほど顕著な変化だった。
アメリカは自身の癖に気付いていないようだったが、イギリスが知らないはずもなく
時折こうして彼の隠された気持ちを暴くことがあった。
視線を逸らしたままのアメリカは何とかこの場を脱出しようとしているようだが
この部屋から外に通じるのはジェームズの立ち塞がっているドアだけで
後は窓から飛び降りるしかない。
しかし、いかにアメリカといえども四階から飛び降りるのは危険が伴う。
出来ないことはないだろうが、やろうとしたときはこの身体が動かなくとも
全力で阻止するだけだ。

「・・・・・・隠れるのが上手くなったなアメリカ」

けど、俺を騙すにはまだまだだ。
低く笑いながら告げられた言葉にアメリカは目を見開く。
驚きに満ちた表情にイギリスは笑う。
だがまだ回復しきっていない身で長く話し続けたことで無理が来たのだろう。
けほん、と軽い咳をきっかけに身を半分に折るほど激しくイギリスは咳き込んだ。

「イギリス、」

胸元を掴んで咳き込んでいるイギリスの背を大きな手が擦る。
驚いて視線を向ければ、泣き出しそうな顔で背中を擦っているアメリカの姿が
イギリスの視界に飛び込んできた。
何故彼がそんな表情を浮かべなくてはならないのか見当もつかなくて
激しく咳き込みながらその意味を考える。
もしもアメリカがイギリスが死にそうになったことに責任を感じているとしても
それは間違いだ。
確かにアメリカを待つために雪の降りしきる場所に留まり続けていたのだけれど
そもそもアメリカとはきちんとした約束をしていない。
勝手にイギリスが約束を取り付けて来る筈のない人を待ち続けただけだ。
だからアメリカが気に病むことなど無い。
むしろ馬鹿だなあと笑ってくれた方がずっと楽になる。

「アメリカ」

ようやく咳が治まって少ししゃがれた声音で名を呼ぶとアメリカはずるずると
崩れ落ちるようにベッドサイドに膝を着いた。
おずおずと見上げるオーシャンブルーは幼い頃とそう変わらない。
今にも零れ落ちそうになっている涙を零さないように頬を包んで
もう一度優しく名を呼ぶ。