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お前にもう一度愛を込めたキスを

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 ドイツが恥ずかしそうに小さな声で肯定する。小さな子供にはショックな光景だったんだろう。しかも自分の兄。やっぱり俺、後でプロイセンに殺されるかもしれん。
 この場にいないプロイセンが怒るよりも先に、オーストリアがスペインをキッと睨みつけてきた。どうやら彼も即座にドイツの味方につく決定がされたらしい。みんなあんまりやん。
「あなたもプロイセンも、子供の前で何をしてるんですか、このお馬鹿!」
「なんでお前が驚いてへんのかも気になるわ」
「あなたとプロイセンの関係くらい知っていますよ。けれどこれからは近くに子供がいる時には少しお気をつけなさい!」
 オーストリアが頭からぽこぽこと湯気を出して怒ってくる。
「好きな子にちゅーしたい思て何が悪いんや」
「今後もプロイセンと付き合うつもりでしたらきちんと反省をなさい、スペイン」
「プーちゃんが可愛ええのが悪いやん!」
 オーストリアが呆れたような顔をする。ただでさえプロイセンに散々な言葉を並べたてられた後に、どちらかというと味方だと思っていたオーストリアにまで責められては肩身が狭い。
 けれど、今後に関しては問題ない。
「その心配はいらへんわ、安心してええよ」
「どうかしたんですか」
 敵に囲まれてしまい、多少自棄になってスペインはオーストリアとドイツに笑顔を向ける。
「さっき別れてきたんや」
「え?」
 多分そういう事のはずだ。昔は海の向こうでの冒険譚を目をきらきらさせてもっと話してくれとねだってくれたのに。本当に可愛かった。その頃にはまだ小さかった彼は、今やオーストリアと肩を並べる大国だ。元から持っていた輝きが、より増したと思う。逆にこちらはその頃持っていたものをかなり失ってしまった。プライドの高い彼に、愛想を尽かされても仕方ないと思う気持ちはある。

「別れて……? なんやろ、別に元々付き合ってへんし、なんて言うんやろな?」
「私に聞かれても……」
「せやな。まぁ、プーちゃんなんや余裕無さそうやったわ」

 そのうちほとぼりが冷めた頃にまたプロイセンの家を訪れてみようと思う。忘れてまたすぐに行ってしまうかも知れんけど。
 苦手な部類の話だったんだろう、オーストリアが返事に困ったように黙りこむ。そして唐突に話題を変えた。スペインもオーストリア相手に惚気や愚痴を長々と話して聞かせる気は無い。振られなければわざわざ話す事も無かっただろう。
「ドイツは……プロイセンの家に送って行った方がいいんでしょうかね」
「さぁ、このまま置いといてもいいんちゃう?」
 基本的に他人事なので当たり障りのない提案になったが、妥当な所だと思う。オーストリアにとってもドイツは可愛い弟分だ。プロイセンに負けないくらい、彼もドイツを大事に扱うだろう。ドイツとしてはそう大きな違いはないはずだ。
「ドイツはプーちゃんとこに帰りたいん?」
 スペインに問われてドイツが困ったようにオーストリアを見つめる。衝動的に家を出てきたドイツを丁寧に歓迎してくれたオーストリアに気を使っているんだろう。大好きなお兄ちゃんの側から飛び出してきた事をもう後悔しているらしい。
「……その、すまないオーストリア」
 そして、帰りたい、とドイツが意思表示した。オーストリアが少し悲しげに目を細める。そしてドイツの頭を優しく撫でた。
「いつまでもいてくれていいんですがね。仕方ありません、私が送って行きましょうか、ドイツ」
「お前じゃいつまで経っても辿りつかんやろ」
 オーストリアの方向音痴は筋金入りだ。プロイセンの家に向かうはずが、間違えて真逆のハンガリーの家にでも行きかねない。そしてオーストリアが遠回りをしているうちにプロイセンは何日ドイツを探してヨーロッパ中を駆け回る羽目になるか分からない。
 安心させてやらな。

「俺が連れてったるで」

 そう言いながら、スペインはプロイセンの家に堂々と行く理由ができた事に気付いた。安心させるようにドイツに向かってにこりと笑いかける。
 ドイツの事でいっぱいで、素気無く扱われたんだろうと思う。という事は、わざわざドイツをプロイセンの元へ連れて帰ってやるなんて間違ってるような気がしないでもない。目の前の小さな子供は、おそらく最強の敵だ。なにせプロイセンの愛情を一心に受けているのだから。
「いいんですか?」
 オーストリアが案じるようにスペインに確認する。ええよ、とスペインは椅子から立ち上った。
 間違ってるのかも知れんけど。そんな判断できるようだったら最初からあんな小さな辺境の一地方に惚れてへんわ。