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お前にもう一度愛を込めたキスを

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 兄さん、と弟の声が聞こえたような気がして、プロイセンは玄関へ飛び出した。
 自ら馬を駆って領内を探して回りたい所だが、戻ってきた時にプロイセンがここにいなくてどうすると周囲に止められて屋敷に残らされている。捜索に出た部下達の報告をまとめ指揮する者の存在は確かに重要だ。けれど、まだ幼い弟が今どこで何をしているのかと思うといてもたってもいられない。
 スペインの野郎、ヴェストをどうする気だ。何かあった時に弟の細腕じゃまだ対処できない。腹はすかせてないか。手荒な扱いはされていないか。もう夜になってしまう、大丈夫だろうか、心細くて泣いてはいないだろうか。
 スペインは人の良さそうな笑顔の印象が強い。思えば彼からは大分甘やかされていたんだろう、浮かぶ彼の表情はほとんどが陽気な笑みを浮かべている。けれどそれだけの男じゃない事も知っている。プーちゃんはほんまかわええなぁと嬉しそうにプロイセンを抱きしめてくるスペインを思い出してしまうといまいち想像がつかないが。
 プロイセンは強く拳を握りしめる。ヴェストに何かしやがったらタダじゃ済まさねぇ。骨の一本や二本で許されると思うなよ、スペイン。
 幻聴かも知れないが、じっとしてはいられずプロイセンは廊下を走る。そして門の前に立っている弟の姿を見つけた。小さな手足にくりくりとした青い目、兄さん、とプロイセンを呼んではにかむ口元。月明かりにプロイセンの目には弟の金色の髪が眩しく輝いているように見える。

「ヴェストっ!!」

 駆け寄ると、プロイセンは弟をぎゅっと抱きしめた。良かった、無事だ。怪我をしている様子も無い。
「兄さん、苦しい……」
「うるせぇ! 心配掛けさせやがって!!」
 申し訳なさそうにじっと顔を覗きこんでくる弟を見てプロイセンは安堵の息をついた。服が汚れるのも構わずに地面にしゃがみ込むと、弟の手を固く握る。俺から離れるな。俺が守ってやるから。
「済まなかった、兄さん」
「お前が謝る事じゃねぇよ」
 そして自分を見下ろしている視線に気付く。その相手の察しがついた。見上げるとそこには案の定スペインが立っている。やっぱりお前だったか。残念だ、とプロイセンは思う。敵に回って欲しくは無かった。けれどだったらもっと上手くやる方法があっただろうに、自分はスペインに対して酷い態度を取った。非はプロイセン側にもある。
「てめぇ……よく俺の前に顔出せたな、スペイン」
 スペインを見上げたプロイセンの視線に殺気が籠る。
「そうやな」
 スペインがへらりと笑った。
「叩っ切るぞ」
 生憎と戦場じゃないから武器を持っていない。だがそれはスペインの方も同じだ。下がってろ、とドイツの体を軽く押して門の中に入れると、プロイセンはスペインの前に立った。昔は明確に存在していた彼との体格差が今はすっかり消えている。充分に育った。勝つ自信がある。
 プロイセンの赤い目がスペインを捉える。ゆっくりと立ち上がると、プロイセンはブーツの底で地面を固く踏んだ。足下で土が擦れる音がする。狙いは一つ、目の前に立つスペイン。
「覚悟しやがれ!」
 そしてプロイセンは一気にスペインへ襲い掛かる。

「待ってくれ兄さん!」
「ふぇ?」

 唐突に背後から上着の裾を掴まれ、全く予想していなかった方向からの力にプロイセンは勢い余ってつんのめった。なんでヴェストが止めるんだ。それを考えるよりも先に、転びかけたプロイセンの体は目の前にいたスペインの胸の中にぽすんと受け止められていしまった。
「らしくないやん、プーちゃん。状況判断が間違っとるで」
「違んだ兄さん、俺が勝手に家を出てしまって、途中で会ったスペインがここまで送ってくれたんだ!」
 二人の言葉に、プロイセンは目を白黒させる。
「ほんとか、ヴェスト」
「あぁ、俺は兄さんに嘘なんてつかない」
 振り向くと弟がはっきりと首を縦に振った。それが本当だとすると、スペインはむしろ弟を連れ帰ってくれた訳で、ボコボコに殴ってやるべき相手じゃなく、丁寧に礼を述べなければならない相手だ。確かに何を思ったか子供を誘拐する彼よりも、弟の言うお人好しのスペインの方がプロイセンの持っている印象には合う。
「……だとしても、お前が勝手に家を出るなんて何があったんだよ」
「それは俺の方から説明したるわ」
 スペインがドイツの言葉を引き継いだ。

「ところでプーちゃん、弟の前でいつまで俺に抱きついてるん? まぁ俺は大歓迎やけど」
「へ、うわっ!」

 ドイツに上着を引かれて転びかけた時のままスペインに縋っていた事に気付いて、プロイセンは慌てて飛び退る。スペインに抱きしめられているような体勢に何の違和感も感じないとはどういう事だ。
 ドイツにはスペインは友達だと説明してあった。弟にはどう見えただろうか。いや、これくらいなら友達の範囲内なはずだ。友達いねぇから基準がどんなもんか分かんねぇけど!
 恐る恐る弟を振り向くと、ドイツが門の陰に隠れる。そして言うに事欠いて碌でもない事を言い始めた。

「俺は目を閉じているからキスしてもいいぞ、兄さん」
「……おいスペイン、ヴェストに何言いやがった」
「や……そういう反省のしかたせんでもええやろ、ドイツ……」

 再びスペインを睨みつけるが、スペインも驚いた様子でドイツの隠れた門を眺めている。一体何があったのかは気になるが、残りはスペインに聞けばいいだろう。それよりもう夜も遅い。子供は寝る時間だ。無事に帰って来たのなら、いつも通り寝かさないと。
「ヴェスト、お前は着替えて飯食って風呂入って寝ろ」
「食事はとった。では風呂へ行ってくる」
 ドイツが大人しく門の陰から姿を出して、プロイセンの言葉に頷く。そして屋敷の方へ体を向けようとして、何かを思い出したらしく、くるりとプロイセンの方へ向き直った。プロイセンとスペインを見比べて、その……、と困ったような声を出す。

「……ええと、こういう時は、ごゆっくり、でいいのか?」
「いいからとっとと風呂へ行け!!」

 スペインはヴェストに何を教えやがった、マジで。プロイセンに怒られてドイツが慌てて屋敷の中へ戻って行った。
 とりあえずはひと安心だ。弟は言いつけ通り風呂へ入って自分の部屋へ戻りベッドに横になってくれるだろう。一応後で確認のために寝顔を覗きに行ってやろうとプロイセンは決める。

「大好きなお兄ちゃんを思って言ってくれたんやろうに」
「ヴェストに変な言葉教えてんじゃねぇよ……」

 弟の元気そうにドアをくぐったのを見て、プロイセンの体から力が抜けた。怒鳴りつけてやろうとした途中で、弟をここまで送ってくれた恩人だと思い出して語気がしぼむ。思い切り誘拐犯扱いした事を申し訳なく思う。ほっとすると、急にスペインに申し訳ない事をしたような気持ちが湧き上がってきた。
「……礼を言う、スペイン」
「ええよ、感謝されようと思ってやった事ちゃうし」
「じゃあなんだよ」
「プーちゃんが心配してるやろなと思ったら、ついほっとけんと思ってしもただけや」
 へ、とプロイセンは驚く。自分は彼に冷たい態度をとっただろうに、親切にして貰う理由が無い。けれど、そういう奴だったなぁと思う。彼にはたくさん優しくして貰った。