HYBRID RAINBOW
「真っ暗…って程じゃないんだね」
「だがほとんど見えないな…足下気を付けろよ」
「うん」
結局手を繋いだまま、本日最後の(予定)寄り道中。いっそここまで来れば楽しんだ者勝ち、ともう一人の遊戯も諦めて辺りの観察なぞにいそしんでいる。
・・・と言っても、別段何も変わった物はない。ただずっと薄暗い回廊が続くだけで、一応辺りの気配を探ってみるが妖しい物も何も感じなかった。
まあ、ここは2人の心を繋ぐ場所なのだし、当たり前かもしれないが。
ただ、少し気になるのは。
自分の知る半身の部屋でも、自分の部屋でもない気配がする。・・・強いていうなら、境もつかないくらいに溶け合ってしまっている、ような。
「・・・・・・。」
何となく、2人とも黙り込んでいた。
重いわけではないが、絡みついてくるような沈黙だった。
奪われた視界の中、壁から染み出してくるような曖昧な明かりに照らされた回廊の先は見えない。そっと振り返った背後も同じように暗闇に紛れ閉ざされていく。
無限に続くような錯覚を起こさせる、闇にのまれる道。
確かなものは規則的な2人分の足音と、繋いだ手の温度だけ。
(――――このまま。)
何処にも辿り着かなければ、ずっとこのまま手を繋いだままで。
…それは緩く意識に絡みつく、ひどい誘惑だった。
繋いだ手ごしにお互いの熱が移って、同じ温度になった掌を握りこむ。
何も言わずに握りかえしてくれる手から、今、同じ事を思い描いたのだと知って、ただそっと目を伏せた。
「・・・あ、れ?」
それに先に気付いた遊戯が、戸惑ったような声を上げた。
「扉…があるよ。もう一人のボク」
「…何?」
指摘のとおり、回廊を完全に塞ぐ形で大きな扉が立ちふさがっている。
…目をこらして見ていたはずなのに、あんなものがあることにまったく気付かなかった。
目前まで行って扉を見上げる。
石造りの、扉だ。もう一人の遊戯の部屋の扉にどことなく雰囲気は似ているが…
「ウジャトが、ないね…」
ぺたり、と扉に触れてみる。
少し力を込めてみたけれど、動く気配もない。熱を奪われる感覚と、冷たい石の感触が返ってくるだけだ。
「・・・どうやら行き止まりみたいだな。今日はここまでだってことだぜ、相棒」
「ちぇ~…」
もうちょっと、こうしていたかったのに。
ぽそりと小さく零れた言葉。それに僅かな間を置いて、もう一人の遊戯はそうだな、と微かな笑みをのせた。
「だがまぁ…これっきりじゃないしな」
「…も、もう一人のボク…」
「次に来る時の楽しみにとっておけば・・・」
「もう一人のボク…ッ」
僅かに切羽詰まったような半身の呼び声に振り返れば、
「な…っ相棒ッ?」
遊戯が手を触れた部分からしみ出したような光が扉全体に広がろうとしている。
「扉から手を離せ!」
「出来ないんだ、くっついちゃってるみたいに・・・!」
無茶しない程度に力を込めて、扉に当てられた遊戯の腕を引く。遊戯自身も手首を掴んで引き離そうとしているが、吸い付いたようにびくともしない。
「わ・・・!」
扉全体を覆い尽くした光はもう目を開けておく事すら辛いほどの強さになり、思わず目を閉じた瞬間。
ふっと切り離されるように自分の周りの感覚が、消えた。
作品名:HYBRID RAINBOW 作家名:みとなんこ@紺