HYBRID RAINBOW
不意にこみ上げてくる泣きたいような気持ちにくしゃりと顔を歪ませて、遊戯は回した腕に力を込めて、もう一度彼の肩に顔を埋めた。
…表情が見えなくて、よかった。
自分だって、そうだ。
いつだって対等でいたい。支えてあげたい。
格好悪い所はできるだけ見せたくない。もう一人の自分に誇れるだけの自分でいたい。
・・・ごめんね。
揺れてばかりいて、ごめんね。
キミに嘘は付きたくない。
いつも本当の気持ちでいたい。
だけど。
キミに行くべき所が何処かにあるのなら、この手を放さなきゃいけないと思う気持ちも
見つからないまま、ずっとこのままでいたい、と思う気持ちも
どうして、この役目を負うのがボクだったのか憂う気持ちも
だけどキミに会えて、一番近くにいれて良かったって思う気持ちも
…全部、ホント。
全部、本当のボクの気持ちなんだ。
だからごめん。
まだ聞けない。キミが選ぶその先を聞くのが怖いから、だからもう少し声には出さないで。
ボクは弱いから。何度も揺らいでしまうから。
・・・あの時に。
あの回廊を手を繋いで歩きながら、ずっとこのまま、と願った。それは本当に、酷い 誘惑だった。
視線を上げれば、真っ直ぐに伸びた背中が、迷いのない足取りで自分を導く。
ぞく――――
もし。
もしも、この手を離せなかったらどうしよう。
いつか来るはずの、最後の、最後の瞬間に、願ってしまったら。
『・・・相棒?』
ああ、だめだ。早く、返事をしなきゃ。はやく。
でも、何て?
思えば思うほど、言葉となるものは何一つ浮かばなかった。
結局、強く手を握る事しか出来なかった。
あの場所に、心の回廊に閉じこめられたのを、キミは自分にも原因があるように言うけれど。
(本当に、そうなら良いなと思うけど。)
違うでしょう。キミは、先に進む事を止めたりしない。迷っても、立ち止まっても、最後には絶対先を願う。
だからあれはきっと、ボクが望んだ事。
…たくさんたくさん、言いたかったことがある。
ずっと押さえ付けていた、自分のあるがままの気持ちを。不思議なくらいするすると沸き上がってくる。
お互いの顔が見えないのに、おたがいの存在をこのうえなく近くに感じる場所にいるせいかもしれない。
ねぇ、怖いよ。本当に怖いよね。
大事なものだからこそ、怖いんだ。
今が大好きだから、変わってしまうのがこんなにも怖いんだ。
予感がする。
変わってしまう、予感がする。だけど何度でも言う。それでも、こうして触れ合えてよかったんだ。
もう一人の遊戯は、無言で半身に両手を差し伸べた。
そっと重ねられた遊戯の手を包み込むと、頭を垂れて額を付ける。
「…オレがいくべき道を間違わないように」
見ていてくれ、と。掠れた声で彼は告げた。
これまでと同じように。
これからも。
作品名:HYBRID RAINBOW 作家名:みとなんこ@紺