THIS LOVE @6/27新刊サンプル
「セルティのいない世界なんて、俺が生きてる意味ないよ」
新羅はダイニングテーブルのそばに立ち、マグカップを手にしたまま、そうとだけ答えた。カップの中のコーヒーは、冷めかけて、黒く濁っている。何口かしか飲まれていないそれの表面を、彼は、のぞきこむようにして見つめた。わずかな振動で、ゆらゆらと揺れる黒色のそれを目にするたび、彼は、彼の恋人について思い出さないわけにはいかなかった。ああ、会いたいなあ、はやく帰ってこないかなあ、と新羅は思う。でもその前に、はやく、臨也、帰ってくんないかな。
「じゃあ、後追いして死ぬの?」
「『後追い』の意味がよくわからないけど、まあ、生きててもしょうがないからね。そうするかもね、あるいは」
作品名:THIS LOVE @6/27新刊サンプル 作家名:浜田