THIS LOVE @6/27新刊サンプル
「逃げても良いんだよ。」
それは、あまりにも唐突すぎて、自分に対してかけられた言葉だというのを理解するのに、数瞬かかった。まるで詩を諳んじるときのような具合で臨也は言った。『逃げても良いんだよ。』正臣は、半分ほど平らげていたオムライスをスプーンでつつく作業を一旦中止する。
「……何がっすか」
「君と彼女で。逃げようと思えばできる筈だろう?」
「それは、あんたから逃げるってこと?」
「そう。俺から逃げるんだ」
「…なにそれ。新手の揺さぶりかなんかですか?」
「違うよ。思ったことを言ってるだけだ」
正臣は、怪訝な顔をして、隣の男をみた。彼はまっすぐに窓の外を見つめている。エア・コンの強めに設定されている冷風が、男の前髪のあたりをかすかに揺らす。
作品名:THIS LOVE @6/27新刊サンプル 作家名:浜田