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Im in love

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そんな静雄に対して、帝人は特に気にしている風もなく応えている。幼げな外見に相応の無邪気さを感じさせるが、どこか大人びた、相手への気遣いが行き届いた態度が自然に出来ていて好ましく、また羨ましかった。
自分の周りには滅多にいないタイプの人間だ。接すること自体貴重である。
(だからあんな夢を見たのかもしれない)
この少年とは、出来れば良好な関係を結んでおきたい。
これは、帝人と初めて会った時から思っていたことでもある。
話していてキレる心配の少ない人間は自分にとって有り難いものだ。これに加えて自分の特異な体質を知っていてなお自分を避けたりしない人間、おまけに人当たりの良い常識人となるとレッドデータの希少種ものである。
この少年は確か、自分があの記憶と人生から抹消し潰し殺したい蚤男と、壮絶な戦争をしているところに何度か居合わせている。それでもなお、こういう接し方をしてくれているのだ。

(・・・・友達になりたい、なぁ)
まるで幼い子供のような、願望。

帝人と出会ってからこっち、二、三回の会話で静雄が少年に抱いたのは、まずそういう感情である。

回想しながら、路上に立って二人、井戸端会議まがいの雑談に興じて、日が完全に沈みかかっていることに気づいた帝人が、「すみません」と断って、帰宅の意を告げた。
静雄は、帝人との別れを残念に思う自分に全く違和感を感じなくなっていた。


そして、その日の夜。

静雄の夢はエスカレートしていた。



****





夢の内容は静雄にとって、ある意味甘美なものだった。
帝人と一緒に話しながら歩く。ここまでは昨日見た夢と、現実に夕方帝人に会った時と雰囲気は変わらない。
ただ、だんだんと触れる密度が濃くなっていく。
頬を撫でたり、抱きしめたりする。帝人は嫌がる素振りは見せない。
・・・少年にキスをして、服の間に手を滑り込ませ、素肌を直に撫でた時には、さすがに静雄は今度こそ叫びながら飛び起きた。

いたたまれないどころの話ではない。

コレが何日も続いた頃、静雄は彼なりにこの原因を真剣に考え、そして一つの結論に至った。


これは恋なのではないか、と。

初めてその発想にたどり着いた時こそ、まさか、そんな、と抵抗は感じた。
しかし、そう考えて納得のいく自分が居る。

帝人と話していると安心する。一緒にいると穏やかな気持ちになる。初めて夢に見た次の日に会って、話をして以来、街を歩けば何となく姿を探してしまう。姿を見つけても大抵仕事中なので、話は出来ないが、帝人が笑って会釈をしてくれると、胸が高鳴るほど嬉しかった。

ふとした思考の空白には、彼のことを考えている。

こんなふうになる人間は、帝人しか居なかった。
過去には居た。昔、自分が守ろうとして傷つけた彼女。
そこに思い至ると、静雄の胸に苦いものが去来する。

仮にこれが恋だとして、どうしようというのだろうか。
あの頃とは違う。自分の常識はずれのこの力も、大分制御が効くようになった。それでも長年にわたって染み着いた恐れは色濃い。
制御といっても完全ではあり得ない。自分の沸点が異様に低いことは知っている。そんな時に力の加減など、在って無きが如しなことも。

こんな自分が、あの平凡で小さな、優しい少年に恋したとして、一体何を望めるのだろう。
連日静雄を苛む夢は、彼の少年への浅ましい欲望を現している。
恋だとしても、これはきっと忌避されるべき恋だ。

たとえば自分以外の誰かが、帝人にこんな劣情で以て接しようとしたならば。
想像しただけで脳味噌が沸騰しそうになる。髪一筋でも触れる前に潰し殺してやる。
そう考えて、静雄は苦々しく笑った。ならば俺は自分自身を潰し殺さねばならない。
自分でなくとも、帝人の周りにはきっと、彼の為にそうするだろう人間が存在する。自分はそんな誰かにとっても、帝人自身にとっても脅威になることだろう。

結論として、俺は竜ヶ峰に恋していると思う。が、俺の想いは叶うべきではない。
なによりも、あの優しい少年に嫌な思いをさせたくない、嫌われたくないし、拒絶されて傷付きたく、ない。

ならば自分はせいぜい、自らの劣情を夢の中にのみ押さえ込んで、不眠に耐えよう。

恋なんてのは浮ついたものだ、このまましばらく少年に会わず過ごせば、いずれ薄れていくだろう。

楽観的と笑えばいい。
とにかく、帝人に想いを伝えるなどという選択肢は、この時の静雄の中には存在しなかった。


*******


つくづく自分という人間は考えが足らない。そう静雄は思う。

遠ざけようとすればするだけ、焦がれることなど、もう少し考えれば分かりそうなものなのに。

夢はいよいよ、なんというか、R指定な展開になっていっていた。思春期真っ盛りの中学生並みである。
朝と呼ぶには日の出が遠い時間に起きて、洗面台で下着を洗う自分を自覚する度気が滅入った。
その為寝て起きても、精神的に疲労が残っている。それが日増しに重くなった。

遂に仕事の上司から心配されつつ突っ込まれるようになるほど、静雄の表面にその疲労は顕在化していた。

セルティに会う前、静雄はそのことについて上司に指摘を受けていた。
さすがに「知り合いの少年に対していかがわしい欲求を云々」などと相談するわけにもいかず、濁した。上司はその意を汲んでくれて、追求することは無かったが、
「まぁ、なんだ、いよいよ進退窮まったら、自分のやりたい方か楽になると思う方へ突っ走れ。俺じゃ不安かも知らんけど、そんときゃケツぐらい持ってやるから。」
「・・・ぅす。」

上司の気遣いが有り難く、また、自分が情けなくなる静雄だった。

どうしたら楽になれるのかなんて、分かっていた。




*********


セルティに伴われて夕闇の街を行きながら、帝人はぼんやりと、平和島静雄のことに思いを馳せていた。

最近どうも彼によそよそしくされている気がするのだ。
よそよそしいも何も、彼とはそれほど親しい付き合いをしているわけではないのだけれど。
セルティらとの繋がりが無ければ、どこまでも帝人からの憧憬の一方通行であっただろうと、思っていた。
何せ片や池袋最強と謳われる喧嘩人形、片や自分でも嫌になるほどごく普通の一般人たる自分である。
だからこそ、セルティの友人同士として知り合えたことは、帝人にとって暁光だった。

街角で出会えば、時間が許すだけ他愛のない会話をする。ほんのすれ違い程度、目が合えば互いに軽い会釈をし合う。

憧れの存在である静雄に、個人として認識されているだけで嬉しかった。
そう思っていたのだが。

(慣れ慣れしかったのかな・・・。)
帝人は静雄ともっと親しくなりたかった。
しかし静雄はそんな帝人の内心を感じて、鬱陶しくなったのかも知れない。
街角で出会っても、仕事中だからとそそくさと行ってしまう。会釈もそこそこに目を逸らされる。ここ数日その態度があからさまになっている。
疎ましがられているのかと、帝人が確信めいたものを持ち始めてしまうくらいに。

前を行くセルティの背中を見ながら、帝人は沈んだ表情をしていた。
作品名:Im in love 作家名:白熊五郎