朱璃・翆
jealousy
一緒に歩きながら朱璃が聞いた。
「で?どうしたってんです?さっきは様子、おかしかったですよぉ?」
「・・・い、いや、別に・・・。」
「嘘だー。だって翆さんがおやついらないなんて、ありえないじゃないですかあ。」
「ちょ、声大きい・・・。」
この期に及んでまだ甘いもの好きを秘密にしたい様子に朱璃はプッと吹き出した。
「で?今はどこに向かおうとしてたんですかあ?」
「・・・汗かいたから・・・風呂に・・・。」
「あー、僕も今訓練して汗かいたんですよねえ?一緒に行きましょうー。」
「・・・何か、身の危険を感じるんだが・・・。」
「えーやだなあ、翆さんってばあ。公衆浴場ですよぉ?バカな事言わないで下さいよお?」
朱璃はニッコリ笑ってそう言い、続けた。
「あ、僕タオルないや。うーんとこっからだと翆さんの部屋のが近いですよねえ?ごめんなさい、タオル、貸してもらえませんかあ?」
「・・・別に構わないが・・・銭湯にあるんじゃないのか・・・?」
「やだなー、好きな人のものを使いたいってゆう可愛い少年心じゃないですかあ。」
「・・・。」
「あれえ何ですか。その顔。じゃ、僕先に行っておきますんで、ごめんなさい、タオル、取ってきてもらえませんかあ?」
「・・・分かったよ・・・。」
なんとなく腑に落ちないながらも翆は大人しく自分の部屋にタオルを取りに行った。
朱璃はそれを見送った後、ニヤッと笑って銭湯に走って行った。
「・・・何か・・・誰もいないって・・・珍しいな・・・。」
脱衣所で服を脱ぎ、風呂場に入って翆は呟いた。
とりあえず頭や体を洗っていると朱璃が風呂場に入って来た。
「・・・何で先に行ったお前が今頃入ってくるんだ・・・?」
「え?ちょっと野暮用ですよ?」
朱璃はニヤッと笑ってから洗い場に来て、口笛を吹きながら頭や体を洗い出す。
翆も首を傾げた後体を洗う作業に戻る。
そうして暫く洗っていても、誰も入ってこない。
いくら昼間だといえどもまったく誰もこないって変じゃないだろうかと翆は思ってからハッとする。
「・・・朱璃・・・。お前・・・なんか、細工した・・・?」
ジロッと翆は朱璃を見て言った。
隣で口笛を吹きながら体を洗っていた朱璃はシャワーで流し始めながら言った。
「えー?人聞きの悪いコト言わないで下さいよお?ふふっ。」
「・・・僕には、嘘、つかないんじゃ、なかったけ・・・?」
可愛らしい笑みを見せていた朱璃がニヤッと一転悪魔のような笑みになり、翆の方を向いた。
「・・・よく覚えてるじゃないか?もしかして俺が言ったコトすべて記憶してる訳?そんなに俺のコト、好きなんだ?」
「なっ、バカ言うな。」
朱璃はシャワーを止めて立ち上がり、翆が座っている背後に来て膝立ちで後ろから翆を抱きしめた。
「な、何するんだ!?離れろ。」
「いやだね。察しの通り、ちょっと、ね?ここ2時間位は誰も入ってこないだろうね?」
「何でそんな事する必要があるんだ?」
「・・・さっきの、様子変だった時のこと、教えてもらおうかと思ってね?あなた言わない気だったろう?でも俺は知りたいんでね。」
「ってだからってなんでわざわざ!?」
朱璃は後ろから翆の耳たぶを噛み、巻きつけていた手のうち片方を滑らせ翆の胸に触れる。そして囁くように言った。
「喋ってくれなきゃ、オイタしようかなって、ね?」
「なっ、バカ、ふざけるなっ。何考えてんだ?しかもこんな所で!?」
「ふざけてないよ?ああ、でも楽しんでるかもね?こんな所っていうけど、大丈夫、誰も来ないから。それにいくら汚してもいいんだし?」
そう言って手を滑らせる。背後から泡にまみれた翆の体を弄る。
「ちょ、や、止め・・・」
「じゃあ、教えてよ?さっきは、あなた、ホント変だったよ?」
「う・・・あ・・・あれは、その・・・。」
「ホラ、早く?でないと・・・」
朱璃は手を下へ滑らした。
「ちょっと、や、止めろ・・・っ。だからっ、なんか、お前が皆と楽しげにじゃれ合ってるのを見て・・・なんとなく・・・面白くなかっただけだっ。」
目を瞑って翆は一気に言った。
朱璃はピクッとなって手が止まった。
一瞬呆然としていたが、次にニヤッと笑って言った。
「へえ?・・・ねえ、それってさ、・・・嫉妬、かな?」
「ばっ、違う!!」
赤くなって翆は否定した。
「えー?だったら何でだよ?別に俺が誰とどう楽しもうが、勝手だろ?違う?」
そしてまた手を動かし出した。
翆は体を震わせながら赤くなったまま言う。
「そうだよ、勝手だ・・・。でも、なぜか面白くなかったんだっ。ちょ、もう止め・・・言ったん・・・だから、離、せ・・・」
朱璃は誰もが魅せられ魂ごと掻っ攫う悪魔の笑みのまま手を動かす。
「それは、嫉妬、じゃないの、かな?ふふ・・・だめだ、止めないよ?あなたは俺のものだってのに勝手に嫉妬して、一瞬でも俺を突き放したんだからさあ・・・?お仕置きだよ?でも、こんなお仕置きなら、痛いどころか、気持ち、良いでしょ・・・?ふふ、この石鹸、泡立ち、良いね・・・?」
「や・・・め・・・、やあ・・・」
朱璃は手を動かしたまま後ろから翆の首元にキスをする。
「やっ・・・あ・・・」
翆の頭はだんだん霞がかかったようにぼやけてきた。
そして頭を仰け反らせて真っ白になった時、朱璃がボソッと、
「・・・俺はどこで誰といようとあなただけだ・・・。あなただけしかいらない・・・。だから・・・拒まないで・・・。」
と言ったのをどこか遠い意識の中で聞いたような気がしていた。
こんな・・・ことで・・・意識を手放すなんて・・・僕くらいか・・・?
・・・情けない・・・そう思いながら翆は目を覚ました。
翆が目を覚ますと、自分の部屋のベッドできちんと服を着て、横にになっていたことに気付いた。