朱璃・翆
それにしてもどこ行ったんだ?
きょろきょろ周りを見渡した。
うーんと・・・お。いたいた。
えらいスピードだな。
もうあんな所か。
どこに向かっているんだろう。
俺は駆け出した。
「翆さあーん。」
?
聞こえている筈だが反応がない。
むしろ歩く速度は速まったような?
あれはもはや歩いてないよな、競歩もしくは駆け足?
何なんだ?
「すーいさーん。」
俺は駆け足どころか普通に走り出した。
漸く追いついて横に並び、話しかける。
「翆さん、どうしたんですかあ?やたら歩くの速くないですかー?それに僕が呼ぶの、聞こえませんでしたあ?」
「・・・別に、普通だ・・・。それに、ちょっと考え事してたから・・・聞こえなかった。」
「・・・ほんとにィ?まあ、いいや、翆さん、一緒に、お茶しません?今日のおやつも美味しいですよ?」
「・・・いらない。」
え?
俺、聞き間違えた?
「えーと、おやつ、食べないんですかあ?」
「・・・いらない。」
え?
あれ?
どうしたってんだ?
あの翆が、おやつを、いらない、だってー!?
ありえないだろ?
おかしいだろ?
どうなってんだ?
「もしかして、どっか、具合でも悪い、とか・・・?」
俺は翆の服をつかんで聞いた。
そのつかんだ腕の部分を振り払って翆が言った。
「・・・悪くないよ、煩いな、いらないって言ったらいらない。ほっといてくれ。こっち、来るな。」
・・・真剣に・・・、拒、絶、された・・・?
また?
俺はやっぱり・・・。
自然に体が固まっていく。
そして少し翆から離れた。
「・・・そ、うで、す・・・か・・・。」
俺の様子がおかしいのに気付いたのか、そのまま行こうとしていた翆がこちらを怪訝そうに見た。
そして何やらハッとしてなぜか急に俺を抱きしめた。
俺は突然そうされて何の反応も出来なかった。
「い、いやえーと、その、悪い、別にお前が嫌いになったとか、そんなんじゃ・・・」
シドロモドロになってそう言い、それから自分がやってる事に気付いたのか、慌てて”わっ”とか何とか言って俺を放した。
何だ、今のは・・・?
でも良かった・・・拒絶された訳ではない・・・ホッとしてため息をそっとついた。
・・・そうだ、だいたい今度こそ俺はどう思われようが手放すつもりがなかったのではなかったか?
俺としたことが・・・まだ昔の影響か?
情けない。
それに、翆の、俺の事を分かってくれているような反応・・・。
「・・・へえ・・・。翆さんってば、つい僕を抱きしめるくらい、僕の事、好きなんだ?」
「っ違っ」
嬉しかった。
俺を気遣ってくれた翆が。
好き、嫌い云々よりも、拒絶しないと宣言してくれたようで。