朱璃・翆
「・・・君は本当は今の年頃なら同世代の子供と一緒に遊んだり学んだりして成長するべきなんだけどね・・・。」
「?何言ってんだ、急に?だいたい俺、ガキと一緒にいてもおもしろくねえよ。あんなのと一緒にいて、何しろってんだ?何学べってんだ?」
「・・・・・。そう、だね・・・?」
1年が過ぎ、2年が過ぎようとしている頃、ナミはたまにそんな事を言ったりして何かを考えるようになっていた。
俺は意味が分からないままなぜかとても不安な気持ちになった。
足元がもぞもぞするような、そんな錯覚。
その感覚は間違っていなかった。
ある日、ナミが言った。
「・・・朱璃。俺の知り合いに、道場をやっている男がいる。もう若くはないがね?ああ、君にとっては大人は皆そうだよね。君はそこに厄介になりなさい。」
「・・・え・・・?な、に、言ってんだ・・・?何で俺がそんな見ず知らずの男んとこ厄介にならないといけないんだ!?嫌だよ。あなたと一緒にいる。何言い出すんだよ?」
「・・・ああ、言い方が悪いね?厄介というか、君はそこで養子として暮らしていくんだ。」
「どっちだって変わんないよっ!!嫌だ。なぜそんな事言うんだよ!?俺が・・・俺が嫌いになったの?俺といるのが嫌になったの?」
俺は必死になって言った。
「・・・嫌になんか、ならないよ。君といるのはとても楽しかった。でもね、君はやっぱり俺みたいなフラフラ放蕩しているものと一緒にいるべきではないんだ。ちゃんと家があって、家族がいて、同世代の友達がいて・・・そんな環境で育って欲しいんだ。今の君はまったく子供らしくないしね?ちゃんと普通の生活を送って、ちゃんと成長していって欲しいんだ。」
「何だよそれっ!?楽しいならいいじゃないかっ。俺は今のままでいいんだ!!家なんかいらない。友達なんかいらない。家族なんか・・・あなた以外いらないんだ!!子供らしいって、何だよ!?ねえ、俺が変われば一緒にいてくれるの?そんなら俺、いくらだって変わるから!!」
ナミは顔を背けた。
「・・・だめだ・・・よ。朱璃・・・。もっと色んなものを欲しがりなさい?俺だけなんて言うな。俺の為に無理に変わろうとするな。」
「何でだよ・・・。俺・・・分かんねえよ・・・。何が・・・ダメなんだ、よ・・・。何で・・・。俺・・・捨てられる、の・・・?あなたに・・・捨てられる、の?」
「・・・違・・・。・・・ごめんね?俺じゃ、だめなんだよ・・・?俺じゃ、君に間違った人生を送らせてしまうかもしれない。・・・それに・・・いずれ・・・君は・・・俺を・・・追い越していくから・・・」
言っている事が分からないままその日は暮れていった。
次の日、見知らぬ男が俺達の泊まっている宿屋に来た。
「この子か・・・?」
「ああ・・・。すまないね?」
「いや・・・。・・・朱璃、と言ったか・・・?初めまして。ゲンカクだ。これから家族になるんだよ。君のお姉ちゃんになる子も家にいる。」
俺は真っ青になった。ナミは俺を見てから、ゲンカクに外で待っているよう頼んだ。
「・・・幸せに、なりなさい。」
部屋で2人きりになるとナミはニッコリとそう言った。俺は俯いて首を振り続けた。ナミはため息をついてから言った。
「・・・俺はずっと君が幸せでいられるよう、どこにいても祈ってるよ。だから・・・元気でね・・・?」
俺は顔を上げた。
「いやだっ。行かないで!!置いて行かないで!!いやだあっ。お・・・お父、お父さんっ、いやだよっお父さあーん!!」
今までどんな目にあってきても俺は泣く事などなかった。
目から水が出る感覚すら分からなかった。
その俺が今や号泣していた。
思わず父と呼んだとき、ナミはハッとして俺を見たが、すぐに顔を背けて部屋から出ていった。
すぐに追いかけたがもうその姿はどこにもなかった。