朱璃・翆
「お前のせいで僕は動けないじゃないか・・・。」
翌日朱璃のベッドの中で翆が恨めしそうに言った。
「あはー?これってある意味軟禁!?」
「なっ、恐ろしい事言うな!!」
「ごめんって、翆さあん?まあ、今日は僕の部屋でゆっくりしていって下さいねえ?」
朱璃が可愛らしくコテンと頭を傾げて言った。
「・・・そんな風にしたって僕には通用しないって言ってるだろう?」
「ちぇっ、たまにはこの俺の可愛さにメロメロになってくれてもいーじゃねえ?」
「自分で言うな。・・・だいたい・・・僕は・・・すでに・・・お前の事・・・」
そこまで言うと翆は真っ赤になって枕に顔を押し付けた。そのまま朱璃の顔を見ていたら、滅多に見れない貴重な表情が見れただろう。
「っと、とりあえず、ホント、ゆっくりしててよね?んじゃ俺ちょっとシュウんとこ行ってくるからさ?」
朱璃は部屋から出て行った。
ベッド横のサイドボードには飲み物やパンやサラダなど食べ物と何冊か本まで置いてある。翆が痛む体を大して動かさなくて済むよう、朱璃がいつの間にか用意していったのだろう。
翆はそれらを赤くぼんやりした顔で見つめた。
「忙しいくせに・・・用意周到なんだからな・・・。あのバカ・・・。」
翆は基本的に特にする事がない。
兵を鍛えたりちょっとした処理事なら一緒に行って戦ったりして手伝うが、下手に前線に出る事が出来ない。
英雄と呼ばれる自分が公に1つの軍に肩入れすることは即ち、誕生して間もないトランをまずい方向に巻き込むことになりかねないからだ。
本当なら朱璃と共に戦場に立ちたいと思うが、それは叶わない。せいぜい隠密行動くらいしか自分は出来ない。
また、書類に追われている朱璃を手伝いたいと思うが、やはり機密事項が多い為、建前としてその行動はまずい。
翆は歯がゆかった。いつも忙しい朱璃の役にもっと立ちたくとも立てない自分が。
勿論朱璃にはそんな事言わない。例え言っても、何もせずとも側にいてくれるだけでいいと言うだろう。
「・・・いっそ本格的にナミさん探してみようか・・・。僕だけで・・・。」
朱璃は一度も会いたい、再会したいとは言っていない。
しかしきっと会えるなら会いたい筈だと翆は思った。
自分だってまた父やグレミオ、テッドなどに会えるならどんな代償を払ってもいい・・・朱璃に関する事以外なら、だが・・・。
昨日、群島諸国の英雄、ナミがあのナミさんかも知れないという話になった後、朱璃はどうも妙な顔つきだったがすぐに話を逸らしてきた。
・・・結局その後ずっと翆も別の事で頭も何もかも一杯になってしまった訳だが・・・。
多分過去の存在であるナミが今も変わらず存在しているかもしれないと思って、昔の色々な思いがよぎったのではないだろうか。
朱璃はまだ完全に乗り越えてはいないような気が翆はした。過去の大切な思い出というだけなら、あんな風に急に話を終わらせないだろう。もっと懐かしく色々思い出話でもするのではないだろうか。
変に断ち切ろうとする必要なんてないのに・・・。
だからと言って翆が分からせようとするのもなんだか自分の考えを押し付けるだけのようで良くないように思えた。
でも・・・。
どんな風になるとしても、せめてもう一度、直接会うのが1番良い様に思えた。