朱璃・翆
「朱璃・・・目、覚めたか?じゃあ、病室へ行け・・・。今まだ皆入り口で待っている状態だ・・・。」
翆が静かに言った。
「・・・ああ・・・。翆は・・・?」
「・・・僕は止めておく・・・。死神は・・・近寄らない方がいい。おっと、何も言うな。僕の気休めだと思ってくれ・・・。」
翆の気持ちを考慮して俺は1人で病室へ向かった。
走った。
全力で走った。
俺が近づくと皆場所をあけてくれた。そうして俺も暫くその場で待った。
どうか、どうか助けてくれ・・・。
いやだ・・・。もう、家族と離れるのは・・・。どうか・・・
だか俺の祈りは届かなかった。
出てきたホウアンは首を振った。俺は中へ入ろうとしたが止められた。
そう。
それならそれで良い。
どうせ魂のない抜け殻なんだ・・・。
俺は踵を返すとその場から駆け出した。
そして城の皆は誰もが暗い顔をしている。
皆に慕われていたナナミ。
あんなに明るかったナナミ。
うるさいくらいだったのに。ホントに?
ホントに死んでしまったのか?
あのナナミが!?
まさか・・・そんな事ある訳がないのに・・・?
でも皆俺を気遣っている。
いらない。
気遣いなんて欲しくない。
止めて、くれ・・・。
それじゃあホントにナナミが死んだって事なのか?現実を見ろって事か?
ああ、分かったよ。受け止める。
ナナミはいなくなったんじゃない、死んだ、んだな?
分かった。
理解した。
だから、もう、誰も俺に気を遣ってくれるな。
気遣いなんか・・・欲しくない・・・。
ポルガンのあからさまな悲しみようがなぜか俺には心打たれた。
皆がまず俺に気遣い、励ます中、ワンワンとナナミを乞い泣き叫ぶ彼が嬉しかった。
「朱璃。」
俺は城中をふらふらした後で自分の部屋に戻った。
翆がいた。
俺は翆に近づくと翆は俺を抱きしめた。
「・・・ナナミに会えないのは辛いね。」
「・・・ホントにナナミは死んだ、のか・・・?」
「さあ・・・実は僕はそんな気がしないんだ。なぜかまた会えるような気がしてしかたがない。悪いな、現実を見てなくて。お前を慰められなくて。でも頑張れとかは言う気はさらさらない。大切な人がいなくなったんだ、何も頑張る必要ないからな。泣きたいなら泣けばいい。僕だって、また会えるような気がするくせに泣きそうなんだから。ああ、でも殻には閉じこもらないでくれ。僕がいるんだから。どんな思いも僕にぶつけてくれればいい。僕はその為にいるんだからな?どんなお前だって僕の大切なお前なんだから。」
最後は少し俯き加減で言った。
ああ、翆。
あなたがいてくれたから俺はナナミを失ったというのにおかしくならないでいられた。
翆・・・翆・・・。ありがとう。
あなたのもとで、俺ようやく人らしく悲しみが溢れてきたようだ。
翆は俺を伴ってベッドに移動し俺を座らせ、自分も隣に座った。
俺は翆にしがみつき声すら出ないまま泣き崩れた。