朱璃・翆
hereafter
「ナナミ、ホントいいって。料理は俺が作るからっ。」
「えーっ?せっかくこうして皆無事で会えたんだよ?腕、振るわないと。」
「いや、ほらここは朱璃に作ってもらって、久しぶりに僕ともゆっくり話そうよ、ね?」
再会を喜んだ後(とりあえず恥知らずなバカ朱璃には一発食らわせといたが・・・)、このまま今日は朱璃達の育ったここに泊まっていく事にした。
ナナミが夕食を作ると言ったとたん、朱璃もジョウイ君も慌てだした。
・・・確かにナナミの料理は個性的だ。体調があまり良くない時などだと、倒れる人も出ていた。
僕はかつてグレミオの料理を味わっていた為美食家だと思われがちだが、実はなんでも食べられるくちだ。だから1人で暫く放蕩していた時も食べるには困らなかった。
よってナナミの料理も個性的だとは思うが食べられないほどではない。
「2人ともどうしたんだ?ナナミが作りたいなら作ってもらえばいいのじゃないか?」
しれっと言った僕を朱璃もジョウイ君もとがめるような横目で見てきた。ナナミだけは、だよねぇ、とニッコリしていた。
「あの、改めて自己紹介させて下さい。ご存知だとは思いますが・・・僕、ジョウイっていいます。僕、実はあなたのファンです。」
結局朱璃が作る事で収まった。手伝うというナナミや僕をしりぞけ(というかナナミには手伝ってもらいたくない為、逆に僕やジョウイ君の手伝いも必然的に断ることになってしまったようだ)、朱璃は1人で炊事場にいる。僕とナナミとジョウイ君は座って話しをしていた。
「え?ファンって・・・。僕は芸能活動などはしていないが・・・?」
「いえ、武道家として憧れているんです。僕も棍使いで、あなたのようになれたらってずっと思ってました。」
「・・・そう言われても・・・なんだか照れるね?」
「ジョウイー、翆さんはね、さっきで分かったと思うけど、朱璃の大切な恋人なんだよー。」
ナナミが明るい声で言った。僕は自分が赤くなるのが分かった。
「みたいだね。でも、驚いたよ。朱璃って、誰にもなびきそうなのに、結局絶対誰にもなびかないって思ってたから。なんか変わったし。勿論良い風にね。これって翆さんのおかげなんでしょうね?いいなあ、仲良さそうだし。」
2人にニコニコと見られて、僕はますます赤くなった。
「ちょっと、もう止めてくれないか。僕はあまりそういう話は得意じゃない。それより、えっと、君たちこれからどうするの?」
「ああ、僕はどっちにしてもこの地にはいてられないんで、旅に出ようかと思ってます。」
「えー、ジョウイどっかいっちゃうの?そうだ、いっそ皆で一緒に旅に出ようよ。」
「ナナミ、多分朱璃は暫くの間はこの国の王となるよ。」
僕は言った。
「ええっ、なんで?だってもう朱璃の役目は終わったんじゃないの?」
ナナミは驚いて僕に詰め寄った。ジョウイ君がナナミをさとす。
「やめろ、ナナミ。翆さんに詰め寄ったって仕方ないじゃないか。それに、それはありえる事だよ。」
「そう。別にならないといけないわけではない。でも未だこの地は混乱したままだ。それをしっかりまとめていかないと、また争いが生まれかねない。そしてそれに適任なのが・・・」
「・・・朱璃、という訳なのね・・・?あの子なら確かに引き受けちゃうよね?そう、だよね。」
「・・・ナナミ・・・。」
ジョウイ君がナナミの肩をそっと持った。ナナミはニッコリした。
「ジョウイ、大丈夫だよ、ありがとう。うん、ホント大丈夫。ちょっと寂しいけど、今度は戦争じゃないから。それに弟が王様になっちゃうなんて、凄い事だし。えへへ、あたしもセレブってやつ?」
「・・・ナナミ。」
僕もジョウイ君もホッとした。やっぱり女の子の悲しんでいるところは見たくないしね。
「ミンナーっ。出来たよー。」
朱璃の声が聞こえた。わあっお腹空いた、とナナミが言った。ナナミ。この子もずっと辛い思いをしてきただろう。これからは幸せになって欲しいものだと思った。その為に僕に出来る事なら何でもしよう。こんな良い子が苦しい思いばっかりするのは間違っている。
「ほらー、翆さんも行くよー?」
「ああ。」
朱璃の作った夕食はどれも美味しかった。
あの時間で僕の為か、デザートまで用意しているなんて技だと思う。
こいつに出来ない事ってあるのだろうか?なんでもそつなくこなしてしまう上たいてい出来が良い。
あらためて本当に凄い奴だなあと感心していると朱璃が僕に言った。
「ねえ、翆さん?もしかして改めて僕に惚れ直しているのかなあ?」
「なっ。バカな事言うな。それに僕らの前で猫被る必要ないじゃないか。普通に喋れ、バカ。」
「ひどいな、バカって2回言った。いーじゃんよ、あなたやこの2人だけだからこそ別にどんな俺でもこだわらずにいられるんだからさ?ちょっとかわい子ぶってみただけだろ。」
「・・・可愛くない。」
「えーひっどおーい。翆さんの意地悪ぅ。」
「ていうか気持ち悪い。止めてくれ。」
「ふん。普通に話せばいーんだろ?のり悪いね?もう歳とった?」
僕と朱璃の会話を聞いていた2人が唖然とした後吹き出した。
「もー。2人とも何なのお?いっつもそんなの?」
「そう。こいつときたらいつもふざけてまともに会話にならない。」
「え?ホントひどいね?そんな俺の事が好きなくせにー?」
「うるさいっ。」
僕はそう言ったが多分伏せた顔は皆に見られただろう。
まあ見られてなくても耳まで赤いのが自分でも分かるんだ、バレバレだろう・・・。
「なんか、翆さんて・・・意外だな・・・。」
「強いしいかにも英雄っぽい割りにかわいいっしょ?だめだよ、ジョウイ?翆は俺のもんだから。」
そんなにはっきり自分のものと言える朱璃が凄いと僕は思った。僕には到底マネできないだろう。
ていうか、その前にかわいいと言ったか?
「朱璃・・・。かわいいって何だ。僕をバカにしているのか?」
「そんな訳ないだろ?褒めてんだよ。翆は強くて頭も良くて綺麗で、そんで可愛い。俺の大切な人だ。」
この言葉には僕だけじゃなく、2人もが赤くなっていた。
前にも思ったが、朱璃には羞恥心というものは存在しないのか・・・?
「いいなあ、あたしも早くそんな人出来たらいいなー?あ、そうだ・・・ジョウイ。・・・ジルさん・・・どうするの・・・?」
「ああ・・・。ジルには新しい人生を送ってもらう。僕とジルがまた一緒になればそれを利用しようとする者が出てこないとも限らないから・・・。」
「・・・そんな・・・。だって、ジョウイはそれでいいの?」
「・・・・・。ああ。好きな人にはもうあんな目にあって欲しくない。ただ幸せになってもらいたい、それだけだよ。」
・・・色々な方法があるものだ、人を好きになるというのも楽じゃない、そういう事なんだろうな・・・。