朱璃・翆
ある時酒場に立ち寄ると飲んでいたフリックが僕を呼んだ。
たまには一緒に飲まないか、との事だった。
「・・・それにしてもお前が他人と深く付き合う事になるとはな?」
トランの情勢などを話していた後に不意にフリックが思い出したように言った。
・・・深く?
「いや、何の話だ?僕は誰かに深入りしたつもりはないが・・・?」
「え?そうなのか?・・・俺はてっきり・・・。それに朱璃が皆に触れ回ってるぞ?」
「・・・何を、だ・・・?」
「・・・お前が朱璃のものだから誰も手を出すな、と。周りは、朱璃が翆のものって言うなら分かるけど、とか言って冗談半分に聞いているがな?あいつって案外誰のものにもならなさそうだしな。でもお前らってよく一緒にいるし、朱璃がよく忙しい間をぬっては何でかお前に菓子を作ってるだろう?だから実はお前が朱璃に手を出すかして付き合いだしたんじゃないかってもっぱらの噂だぞ?」
「じ・・・冗談じゃない。僕の知らないうちに何勝手な話が出回ってるんだ!?」
僕は酒場を飛び出した。
探す手間はかからなかった。向こうからやってきたからだ。
「あ、翆さぁん、いたいた。どこいったのかなって探しましたよー?」
にこやかに手を振ってこちらへやってくる朱璃をひったくるようにつかんで、僕は自分に用意されている部屋に駆け込んだ。
「わお、積極的。どうしたんですかー?」
「・・・朱璃・・・。何考えてるんだ・・・?どういうつもりだ。何をふざけた事を皆に触れ回っているんだ・・・?」
きょとんとした顔をしていた朱璃が思い当たったらしく、ニヤッと笑った。
「ああ、あれか。なぜ?俺は別にふざけていない。」
「・・・は?」
「本当の事だからね?あなたは俺のものだ、他の誰にも手出しはさせない。」
そう言うと朱璃はまたニヤッと笑ったのだった。