朱璃・翆
accidental(doragon king vr.)
翆は基本嘘がつけない為渋々知っているとファルーシュに言った。そして今度(さすがに今すぐとは彼も言えなかったようである)紹介するという約束をさせられてしまった。何だか面白くない翆は失礼と断ってその場を離れ、庭に出た。
「おや、えーと、翆さんでしたっけ?」
声が聞こえたのでそちらを見ると先程のベルナデッドのお付であるカイが庭においてある腰掛に座って、1人で宴会でもしていたのか酒とつまみらしい食べ物をどっさり側に置いてこちらを見ていた。
「・・・カイ、さんでしたよね?あの、ベルナデッドさんに付いてなくていいんですか・・・?しかもこんな所で何しているんです?」
「ベルなら大丈夫だよ。ファレナの人達も一緒だし。俺はちょっと月見をね。良い月だ、君もどうです?」
「いえ・・・あ、いや、そうですね、ご一緒させて下さい。」
このカイも群島諸国の人間。歳は若いだろうが何か話が聞ければいいと思い、翆はカイのもとへ行った。
「いらっしゃい。ああ、俺はお付の者だからさ、敬語、いらないよ?っていうか俺すでに君に対して敬語使ってないけど。英雄なのにね?」
「英雄なんて・・・。僕も敬語はいらない。僕もそんな偉い人間じゃないし。ではあらためてよろしく、カイさん。」
「まあ、飲もうよ。こんな良い月なのに部屋の中で飲み食いは勿体無いよねえ。君もそう思って出てきたのかい?」
「え?いや、気分転換かな・・・。ていうか、カイさん、未成年だろう?そんなに堂々と飲んでていいのか?」
「群島ではあんまり歳は気にしないんだよ。飲める奴は飲む。それだけ。」
「そうなのか・・・?・・・ああ、カイさんて群島の龍神の話、知っているのか?」
「まあね、群島では鼻を垂らしているような幼子でも知っているよ?なぜだい?」
「ああ、ただの好奇心、かな。その、歴史に興味があってね。その龍神って、人だったんだろう?」
「さあね。人だったのかもしれないし、もしかしたら化物だった可能性だってあるかもね?だいたい逸話だからね。」
カイは興味なさげに酒を飲みながら言った。
「え、ああまあそうだが・・・。じゃあ群島の人達って、龍神の話は作り話だと思っているのだろうか?」
だとしたら直接行ってもたいした話は聞けなさそうだなと翆は思った。
「どうだろうね。人それぞれじゃないかな。・・・君の事だっていずれは国を救った英雄として語り継がれていくんじゃないかい?」
「・・・冗談じゃない。そんなのはごめんだ・・・。」
「まあ、そうだろうね。そういった事を成し遂げる人に限ってそう思うものだろうけど、周りはそう思っちゃいないからねえ。君の展示場、見たよ。」
いつか壊してやる・・・翆は手で額を覆いつつそう思った。
「・・・その事には出来れば触れないでもらえたら・・・。・・・それにしてもカイさんていくつなんだ?まだ若く見えるけど・・・」
「けど何だい?ああ、話し方が年寄りくさい?ふふ、周りに年寄りばっかりいたものだからさ、うつっちゃったんだろうよ。でも君だって若いだろ?それにしちゃあ硬い話し方じゃないかい?」
「・・・多分軍人の息子だったからかな?・・・そんなに硬いか?・・・そういや朱璃にも言われた事があるな・・・」
「その朱璃っていうのは?君の友達?兄弟?それとも・・・恋人とか?」
恋人と言われて翆は真っ赤になった。それを見たカイはニヤッと笑った。
「なるほどね。天下の英雄様を赤くさせるなんて、それはそれは素敵な人なんだろうねえ。」
「ちょ、茶化さないでもらいたい。・・・でも、ああ、とても・・・素晴らしい奴だ。・・・かけがえのない・・・僕の・・・って、わあ、初対面の人に何言ってんだ僕はっ。ご、ごめん。何でだろう、どこで話が完全に逸れてしまったんだ・・・?」
気付けば全然違う話にどんどん逸れてしまっていた。
しかも初対面だというのに恥ずかしい事を言ってしまっていた。
翆は首を傾げた。
「ふふふ、楽しかったよ。また会えるといいね?そろそろ俺もお付の仕事に戻ろうかな。じゃあ、ね。」
いつの間にか食べ物も平らげ、酒も飲み終え、カイは立ち上がって翆に手を振って去っていった。
唖然とそれを見送った翆は自分も手に持っていた酒を飲み干し立ち上がった。
「何てつかみ所のない奴なんだ・・・?結局あんまり話を聞けなかったな・・・。でも、多分群島に行ったとしても大した話は聞けなさそうだな。」
ふうとため息をついて部屋に戻った。
そして群がってくる人々に適当に愛想をふりつつ退室するタイミングを伺っていた。
レパントにも先に失礼させてもらうと断りをいれた。
翆の性格を知っているレパントは出席してくれただけでもありがたいと、早々に帰る翆を止める事はなかった。
「・・・結局収穫はなし、か。」
なしどころか変な約束をさせられた。
何だかとてつもなく紹介したくない気持ちで一杯だった。
このままなしの方向でいってくれないものかと考えながら帰路に着いた。