朱璃・翆
diplomacy
ナミはまた旅立って行った。
それを見送ってから、2人は一緒に帰った。
平穏無事な日々。
そうして暫くがたった。
「ねえ、翆。なんかさ、俺・・・。」
「・・・ん、どうした・・・?」
朱璃と翆はテラスでお茶を飲んでいた。
また日常の激務に追われつつも朱璃は食事の時間、お茶の時間だけはきちんと翆とともに過ごす為にとっていた。
朱璃はのどかな城下を見ていたが翆の方を向いた。この上なく最高の笑顔で。
「すごく幸せなんだ。」
「そ、そうか。」
最高の笑顔で幸せだと言った朱璃に、翆はドキドキしていた。
「確かに生い立ちとか最悪だったけど・・・皆色々なところに行っちゃったりしてるけど・・・でも俺には大切だと言える、言ってもらえる仲間や家族がいる上、何よりも大切な翆もいる。有り得ないくらいの幸せ者だよね?」
「きゅ、急にどうしたんだ?」
「いや、何か改めて実感してただけだよ。あ、今日のおやつ、どう?俺久しぶりに作ったんだよなー。」
「うん、美味しい・・・。でもお前忙しいだろ?無理するな。」
「無理じゃねえよ?作りたかったから作っただけ。俺はしたくない事はもうしないよ。」
「そう、か。」
幸せだと言う朱璃が嬉しくて、翆の為にお菓子を作ってくれた朱璃が嬉しくて、したくない事はしないと言い切れる朱璃が嬉しくて、翆は珍しくニッコリと笑った。
「うわっ。ちょ、翆ったら何その笑顔?うわー貴重なもん見ちゃったー。うわー。」
「な、なんだ。大げさな・・・」
「そんな事ないぞ?あーもう、今すぐ押し倒したいくらいだよ?」
「・・・それは止めてくれ・・・。」
「えー何でだよー?」
その時警備をしている兵の1人が朱璃に報告に来た。
「朱璃様と翆様にご面会を希望されている方がいらっしゃいます。」
「え?そんな予定あったかなあ。」
「いえ、ご予約はなにもないようでございますが、何でもファレナ女王国からいらした方でして、シュウ様が今ご対応されておられます。」
「・・・ああ。」
「・・・そういえば前に翆言ってたね。」
翆は表面上無表情だったが内心では舌打ちしていた。
とりあえず待たせている場所に2人は向かった。
「ああ、待ってましたよ。こちらへ。」
シュウが出迎えた。
「・・・ここは出来たての国。他国と上手くやるに越した事はありません。・・・分かってますよね?」
その際にボソッと朱璃に呟いた。
「・・・バカにすんな、それ位俺でも分かるっつーの。」
朱璃はムッとして答えかえした。シュウは頷き、その後翆を見た。そしてニッコリと言った。
「翆様も。お分かりですよね?」
「・・・勿論。」
なんで翆にまで釘をおすんだ、と朱璃は怪訝そうにシュウに聞いていた。シュウはいえ、とニッコリしたまま2人を案内する。
翆は心内を読まれたようでドキッとした。
シュウはまるで国の為には朱璃とファルーシュがどういう仲になっても文句は言うなと言っていたかのようだった。
勿論朱璃はそんな裏まで考えず表面通りとっただろう。だが・・・
「大変お待たせしてしまって申し訳ありませんでした。」
朱璃がにこやかに言った。
座っていた客人が立ち上がる。
やはりファレナから来た人物とはファルーシュ達だった。
「いえ、こちらこそお約束もないまま会って頂いて恐縮です。翆さん、実は何度かあなたに会おうとしていたんですがいつもお留守で、聞けばこちらに滞在されているとの事でしたので、厚かましくも押しかけてしまいました。」
ファルーシュが朱璃ににこやかに詫びたあと、翆にそう言った。
「いや・・・、僕もきちんと約束していなかったとはいえ、家を空けたままで申し訳ありませんでした。朱璃、こちらが前に話したファレナ女王国の女王騎士長であられるファルーシュ殿と女王騎士のリオン殿だ。」
「初めまして。朱璃です。わざわざお越しいただきまして恐れ入ります。」
「いえいえ、前々からお会いしたいと思っておりましたので。あらためてファルーシュと申します。リオン共々お見知りおきを。」
にこやかな(翆的にはうそ臭い)笑顔で朱璃が出した手をファルーシュもニッコリと握り返した。横でリオンが礼をしている。
「で、いったい私にどんな御用だったのでしょうか?」
朱璃が皆に席をすすめ、自分も座ったところで首を傾げて言った。
「用と言う訳では・・・、お会いしてみたかっただけで・・・」
朱璃がますますニッコリとして言った。
「またまたあ、いくら女王のお兄さんと言えども女王騎士長であらせられるあなたが忙しくない訳ないじゃないですかあ。それだというのにずいぶんお国をお空けでないですかあ?いくら好奇心が強いといえども私はそこまでの価値はないですよお?」
その場がシーンとなった。と、ファルーシュが笑い出す。
「く、くっくっく・・・あっはっはっは。い、いやあ、さすがはあのハイランドを打ち破られたお方だ。お若いのにすぐれた洞察力がおありで。」
朱璃がどうも、とニッコリする。
翆は唖然とした。
確かにそういえばそうだ。
女王を守らなければならない騎士の中でも頂点に立つ人間がそんなにぶらぶらしていられるわけがない。
それを見抜けなかったなんてなんて迂闊だったのだろう。
平和ボケでもしてしまったのだろうか・・・。
それとも恥ずかしながらヤキモチをやいて目がくらんでいた・・・?
翆は青くなったり赤くなったりしていた。
「・・・どうしたの?なんか顔色が。」
「え?ああ、いや、何でもない。・・・で、ファルーシュ殿。いったい何を企んでいるんです。」
朱璃に心配され、翆は深呼吸をして自分を立て直した。
「いや、本当に失礼しました。では申し上げます。・・・実は私に今縁談が持ち上がっております。」
「「・・・はあ・・・」」
「その相手というのが・・・まだこちらには正式に打診されてはおりませんが、朱璃様、あなたなのです。」
またその場がシーンとなった。
その静まり返った状態をまず破ったのは朱璃の叫び声だった。
「って、ええええっ!?」
叫んだ朱璃は、その後も口をぱくぱくさせていた。翆はポカンと口をあけている。
「なんだそりゃあああ、ちょっとシュウっ!!何だこれはっ!?」
「何だと言われてもな・・・。俺も先程知ったのでな。」
朱璃の剣幕にファルーシュとリオンがポカンとしていた。
それに気付いた朱璃はこほん、と咳払いをして言った。
「あー、その、取り乱してしまいまして申し訳ありません。まったく初耳だったもので・・・。で?あなたは自分のお相手となる私の品定めに来られたというわけですか?ていうより、あの、あなた、男性ですよね?私が男だって・・・ご存知ですよね・・・?」
「ええまあ、外部的には外交、内内での表向きは品定めです。それに同性っていうことも知っておりますよ?」
ファルーシュがニッコリとして言った。
「・・・何です、内内での表向きとは。恐れ入りますが私はもとは平民。あまりこういった腹の探り合いのような会話に慣れておりません。ですので単刀直入にいいますが、今からは腹を割ってお話しませんか?」