朱璃・翆
「あははははっ。いやあ、やっぱり楽しい人だな。いいでしょう。では今からはそういう事で。敬語も抜きでざっくばらんにいこうじゃない。」
「そりゃあいい。俺もそういうほうが分かりやすい。」
動揺しているからか腹を立てているからか親しみを感じているからか、まったく読めないが朱璃はいつもの猫被りですら取っ払っていきなり地を出した。
翆は相変わらずポカンとした様子だった。
「ファレナでは代々女王が受け継がれてきたのは知ってるよね。今は僕の妹のリムだ。で、男が生まれると今までは有力な権力者や他国に婿に出されていた。でも僕はリムが結婚するまでは騎士長を代行している。ああ、女王の夫が本来する役職なんだ。ただ最近、僕が騎士長をしているせいでリムが結婚しないのでは、という噂が流れているんだ。」
「ああ、兄であるあんたに気を遣って、てとこか?」
「まあ、ね。リム自身はそんなつもりはないらしいが、やはりそんな噂自体出ることが良くないって事で周りでは僕に結婚するよう言ってくる人も出てきてね。ただまだあれらの争いの記憶は薄れていないんだよ、皆ね。だからあまり僕を知らない貴族達からは跡継ぎをつくるのはあまり良くないのではという話も出ている。」
「・・・なんか、嫌な国だな・・・」
「これ、朱璃殿。」
「いえ、いいんですよシュウ殿。いっそ、こうやってはっきり言ってくれるほうが僕もいい。」
朱璃に注意しようとしたシュウにファルーシュはニッコリと言った。
「これでも昔よりはずっと良い状態になったんだけどね。貴族達もね。女王の婿を決める闘技大会や奴隷制度もなくなったしね。」
「・・・・・。」
「で、話をもどすけど、そこで僕にはいっそ他国の男性に嫁ぐのはどうかという話になった。」
「って何でそこでそうなる・・・。」
「跡継ぎが出来ないからね、それだと。それに僕の国では同性同士の結婚もあるんだよ。そう多い訳ではないけど。」
「マジでか。」
「で、今話題の君の話が出たんだ。君なら元平民だから危険な後ろ盾もない。それにあのハイランドを破ったほどの腕前の持ち主であり、現在のこの国の王。とてもいい条件ではないかってね。」
「・・・あんたはそれで良い訳・・・?」
「うーん、まあ、結婚は自分の意思でしたいなあ。とりあえず議会では自分で君がどういった人物か確認しておきたい、と言ったんだ。で、こういった内輪の嫌な話は外にあまり漏れないほうがいいからね、内密に動く、という事で僕とリオンだけで国を出たんだよ。リムには海外視察ということにしてある。で、何とかおおぴらにならないように君に会って、まあ聞こえ悪いけど品定めするという事になってるんだよね。」
「・・・で?」
「で、まあ僕の思惑は君に会って知らず知らずのうちに僕に対しての嫌悪感みたいなものを持ってもらおうかなって思ってたんだよ。やっぱり色々な事情があって、僕がはっきり嫌だという訳にはいかなかったからね、あらかじめ君に僕を嫌ってもらって実際話がきたときに有無を言わさず断るようにしむけようとね。これだと平和的解決かなって思って。」
「てゆうか、俺男なんだし、普通男が嫁にきたいって言ってきたら、嫌う嫌わない関係なく断るだろ・・・?それとも何か、俺が変わった嗜好の持ち主だとでも言われてんのか?」
それを聞いて翆とシュウは顔をひきつらせる。
リオンは変わらず微笑みを浮かべたままで、ファルーシュは盛大に笑った。
「あっはっはっは。ほんと君、楽しい人だよね。まあ、普通はそうだろうけどね。・・・君、僕の顔見てどう思う?」
「は?ああ、まあ、綺麗な顔してるよな。」
「あは。まあ君もついでに翆さんにしてもほんと綺麗だから見慣れてるんだろうけどね、自分で言うのも何だけど・・・まあ綺麗な顔立ちなんだよねえ、僕も。前女王の母親にとても似ていると言われているように、言わば女顔なんだろうね。で、前にも1度どこかの有力者との縁談があったんだけど、そいつも男なんだよ?でも僕の肖像画を見たら2つ返事で受け入れたらしいんだよね・・・。まあそいつは結局政治的に問題が発覚したから破談になってほっとしていたんだけど・・・。今回はそういった理由での破談はなさそうだと思ってさ、これはまずいと思ったんだよ。」
「ふうん。で、何で俺にその思惑までをも正直に話してくれた訳?」
朱璃にそう聞かれ、ファルーシュはまたニッコリした。
「まずわざわざ君に嫌われなくても、君には翆さんがいるって知ったんだよね。それが第一。」
「第二は?」
「あは。僕自身、君が気に入ったんだよね。で、実際に君をもっと知りたくなったってとこかな。」
それを聞いて翆だけでなく、朱璃までもがポカンと口を開けた。
「な、な、何言ってんだ?あんた冗談もほどほどにしろよな?あんた王族だろ?何でわざわざこんな口の悪い平民だった俺を気に入る訳?」
「うーん、何でって言われても・・・普通いちいち気に入るのに理由付けなんてしないでしょ?まあしいて言えばそういう口の利き方ってあんまりされないんだよね、僕は。皆畏まったような感じでさ。そういうずけずけと言うところも気に入ったかな。」
「・・・・・。」
「おい、いくら何でも突然何を考えているんだ。無茶苦茶だ・・・。」
翆が立ち上がって言った。
ファルーシュはニッコリと自分も立ち上がって翆に言った。
「うん、まあ突然だけど、だいたい人を好きになるのって突然って事よくあるだろう?ごめん、翆さん。君がいるのは知ってるってのにね?」
「・・・。リオンさん、そんなんでいいんですか・・・?」
翆は困ったようにリオンに聞いた。
「私は王子・・・いえ、ファルーシュ様のなさる事に反対はありません。むしろ興味をもたれる方が出来て良かったと思っております。」
「だって俺男なんだってー」
朱璃までもが困ったように言った。
シュウはすました顔をしていたが、内心では、お前も男と付き合っているだろうが、と突っ込んでいたに違いない。