朱璃・翆
「ナナミと何話してたんだ?」
テラスでナナミと喋っているところを見たのだろう、後で、用意されている僕の部屋に勝手に入ってきて朱璃はそう聞いてきた。
「別に・・・ていうか、ノックくらいしろ。」
「ふん。ねえ?」
朱璃は、ベッドをソファ代わりにして壁にもたれて座り、本を読んでいた僕に近寄って来た。気付けば目の前にいる。
「俺の事、色々聞いてまわってるようだけど?知りたくなった?俺に直接聞けばいーじゃねえ?」
目の前でニヤッと笑って僕を間にして、壁に両手をついた状態で朱璃は言った。
「近い。人と接するときはもっと離れるものだけど?それに・・・聞けば教えてくれるのか・・・?」
「あなたに接する時だけだよ、こんなに近づくのは?で?何が知りたい?スリーサイズ?好きな体位とか?」
「・・・そんなもん知りたいものか・・・。」
「・・・若しくは過去の事とか・・・?あなたを抱かせてくれるってんなら教えてあげてもいいけど?」
「・・・抱くって・・・アレの事か・・・?だったらお断りだ。」
「なんだよケチ。だいたい欲しいものを得ようとするなら対価を払わないとね?」
「・・・お前は僕が欲しいというなら、何を払うっていうんだ・・・?」
「えー?俺の貴重な時間と労力を使っておいしいお菓子を作ってるじゃないか。」
「・・・安い対価だな?」
「そう?俺の手料理を食べたいって奴はごまんといるのに?どのみち俺のものであるあなたに、俺は何も払う必要性が感じられないけどね。」
「相変わらず自己中心で勝手な言い分だな。だいたい僕はお前のものじゃない。」
「バカだね、もう決まってんだよ。で?何でまた、俺のことが知りたい訳?」
今までも近かったが、今度は僕の耳元に口を寄せて囁いてきた。
逃げようとしたが無理だった。
「・・・ふざけた事ばかり言うお前というものが、いったいどんな奴なんだと思っただけだ。」
「へえ?それって多少は興味を持ったって事じゃないか?」
「自惚れるな・・・・っん!!」
反論しようとしたら朱璃がキスをしてきた。
この間は長くても口をつけるだけだったのに、今日はそれ以上に深いものだった。
離れようと足掻いたが、やはりどく事どころか動く事も出来ない。
いっそ入れてきた舌をかんでやろうかと思ったがそれもままならない。
なぜならその舌が動き回る上に、僕自身が何だか麻痺したようになっていたからだ。
暫く後ようやく朱璃は止めてくれた。
そして魅せられた者の魂を抜き取りそうな笑顔で僕を見た。
「うっとり、してるのかな?ボーっとしてるけどさあ?」
僕はハッとして近くに置いてある棍をつかんだ。
「わお、怖いなー!?じゃ、また今度続きしよーねー?」
するかっと怒鳴る僕を無視して、朱璃は出て行った。
・・・まったく油断も隙もあったもんじゃない。
その時ふと気付いた。
これって、ナナミが言うように、はぐらかされたのでは?
探っても分からないよ、と言われたような気がした。