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加賀屋 藍(※撤退予定)
加賀屋 藍(※撤退予定)
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痛みも傷も全て

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「君は不公平だ」
開口一番言い放った。
「僕には報告させといて、自分は何も言わないつもり?」
雲雀は自覚するほどに不機嫌だった。
当然だ、僕にはその権利がある。怒る、権利が。
しかし彼の呆けた頭では、すぐには何のことだかわからないようで、しばらく間が空いた。
そして、やっと思い当たったらしい。
「あ、あぁ、抗争のことを聞いたんですか?オレは無傷ですよ」
「白を切る気?じゃあその傷は何なの?」
雲雀の追及に、思い至るところがないらしい綱吉はあくまで『困ったなぁ』という風に苦笑を混ぜて繰り返した。
「だから、オレは傷ついてなんかいませんって」
どうにか唇を上げて作ったとわかる、その笑みが僕はとても不快だった。
―――いつものように笑えもしないくせに、強がるんじゃない!
「嘘をつくな」
怒気を交えて、低い声を出す。
僕はすっと腕を伸ばして―――ここ数年に珍しく、もっともらしいボスの仮面を付け損ねた素のままの表情で、びくっと震えた綱吉の胸を―――人差し指でトンと指した。
「それなら、これは何」
その先の服の下、皮膚の下、どくんどくんと脈を打つ重要な臓器がある位置だ。
ここに傷があるだろう、と雲雀は鋭い視線で尋ねる。

いわゆる『心』がどこにあるかなんて知ったことではないが、心が傷ついたとき、痛むのは胸だ(と誰かが言っていた)。
その真中にあるのは、心臓だ。
―――処置せず放って置けば、死に至る傷だと、君は何故気付かない!

怯えたように固まってしまった綱吉に、僕は更に畳み掛けた。
「痛くないというなら、咬み殺してあげようか。痛かったらちゃんと泣くんでしょ、君は」
痛みは傷の発する信号だ。
ここが傷ついている、癒さなければならないと叫ぶ声だ。
感覚が麻痺して痛みも感じられないというなら、僕が思い出させてやろう。
『慣れるな、それは受け入れがたいものだ』と教えてやる。
その傷が悪化して、全てが腐り落ちる前に。


「ヒバリさん」
綱吉はしばらく黙っていたが、やがて途方に暮れた子どものような声で雲雀を呼んだ。
「うん」と頷いてやると、自分を持て余したように眉を下げて、雲雀に尋ねてくる。
「痛い、んでしょうか、コレ……」
「君は痛いんだよ、それは傷だ」
僕は『わからないなんて、馬鹿だね』とピンとその額を指で弾いてやった。

沢田綱吉は、基本的に馬鹿で不器用な子なのだ。簡単なことも雲雀よりずっと苦労して為さなければならない。
なのに、誰にとっても難しいことを為し遂げようと頑張っている。
雲雀よりもずっと弱くて、一人では立ってられない子だ。
それでも誰より一人である位置に立つことを選んだから、誰も欠けないように、必死に守り続けている。

その歪みが溜まらないわけがない。傷をつくらないわけがない。
しかし、彼は自分の群れに心配を掛けまいとどんどんどんどん溜め込んでしまう。
無理にでも吐き出させてやる誰かが必要なのだ。
……綱吉が、雲雀を無理矢理でも癒そうとしたように。


どうしてだろう。雲雀はそれを、他の誰でもなく自分がやるべきだと思った。


「傷ついたなら、泣いてもいい。君を心配する群れはここにはいないよ」
「っ…!ヒバリさんっ!」
ぶつかるように抱きついてきた軽い体を、難なく受け止めてやった。

そうだ。君の涙くらい、受け止められる。痛みも傷も全て、晒してしまえばいい。
君でさえ、何でもかんでも背負い込んでしまえるんだ。
雲雀にとって綱吉一人くらい、どれほどの負担だというのだろう。

たった一つ、大切なものくらい。