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わがままなバーミリオン

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 買出しから帰ってきた弟に軽く説教を受けた(曰く、散らかさないとか、腹を出して寝るなとか、機械鎧を外すならちゃんと見えない場所にしまうとか、といったようなもの)後、エドワードは買ってきてもらったホットドックを齧りながらアルフォンスが収集してきた情報を聞く。
「それでね。街の人もおかしいなっていってたよ。そのホットドック買った店で聞いたんだけど」
「時間がかかりすぎるって?」
 アルフォンスは頷いた。
 彼が聞いてきたのはこんな話だ。
 確かにこのあたりは時折豪雨で線路が水没してしまうのだけれど、それでも長くて二日もすれば復旧できる程度のことなのに、今回はもう五日はたとうというのにそのままだ、これはどうもおかしい…
 総合するとそういうことらしい。とはいえ、線路の復旧がそんなに簡単ではないことは、各地を旅して回っているエドワード達にとっては常識であって、だからそんなに奇異なものとも思ってはいなかったのだが、土地の人からしたらちょっと事情が異なるらしい。
「でもそんなにすぐ復旧できるくらいなら、水没自体なくせるようにできねーのかな?」
「うーん。なんていうの? 浮橋とかってあるじゃない?」
「あ? 橋? なんで橋?」
 弟は考えながら説明した。
「まあ、橋じゃないんだけどさ、線路だし。たださ、浮橋って、水位が上がっても橋自体が浮いて壊れないようになってるわけじゃない?」
「うん…?」
 それが? と目で尋ねてくる兄に、アルフォンスは続けた。
「だからさ。もう水没自体はしょうがないんだって。地形の問題っていうか、水源の問題だかなんだかで。でも、水がたまってもすぐ引くようなつくりになってて、だから、すぐ水を逃がして補修できる体制になってるんだってさ」
「…ふーん」
 エドワードは気のない様子で相槌を打った。実際、彼にとってはそれは大事なことではなかった。移動手段が存在するかどうかが一番の問題だったからだ。だが弟はもう少しこの問題に関して熱心だった。
「もう、まだ続きがあるんだから聞いてよね。でね、面白い話を聞いたんだよ」
「面白い話? どんくらい?」
「あのね…もうすこしちゃんとコミュニケーションしてよ。だから兄さん女の子にもてないんだよ」
「余計な世話だよ!」
「ほら、怒らない怒らない。えーとね、その補修が早いのは、どうもね、この街でたったひとりの錬金術師のひとが駅にいるからなんだって」
「…は?」
 錬金術師?
 エドワードは大きな目をぱちぱちさせた後鸚鵡返しに繰り返す。それに弟はひとつ頷いた。
「そ。確かに水路とかなんとかを整備してるのが大きいんだけど、枕木は木だから水につかりすぎると駄目になるし、鉄だって錆びちゃうわけじゃない。その腐食を練成でどうにかしちゃうんだって」
「どうにかって…」
 エドワードは眉をひそめた。
 腐食の進行を食い止めるというなら、働きかける先は、時間か腐食の化学反応だろうけれど、まさか時間ということはあまり考えられない。時間なんて不確定なものに、いくら錬金術師といえども手を出すことはそうそう出来ないだろう。もし出来るとしたら、そんな人材がこんな田舎の街で保線をしているわけがない。いずれ国家錬金術師になるか、もしくは世捨て人になって山にでも篭っているだろう。
 だとしたら金属系か化学系か、もしかすると自分の専門分野とかすっている可能性がある。
 エドワードの目がきらりと光った。ここ数日不貞腐れていた兄の顔に色がさすのをみて、弟は内心ほっと安堵の息をつく。まったく、手のかかる兄だ。
「…ただね、その人がいつもどおりにしたなら、とっくに線路が復旧してるはずなのに、今回はそれがない」
 話の続き、肝の部分を口にすれば、兄ははっとした顔で弟を見た。
「変だと思わない? その人はなんで今回解決しようとしないんだろうって」
「…したくないのか、できない理由があるのか。個人の意思なのか、誰かの意思なのか。…そういうことか?」
 アルフォンスはこくりと頷いた。エドワードも暫し言葉を発しない。
「…調べてみるか」
 痛むからと外していたはずの機械鎧に手を伸ばしていった兄に、そうだね兄さん、と弟は嬉しげに頷いたのだった。

 幸いにして霧雨もおさまり、空気がひんやりとしてこそいたが濡れることはなく、エドワードとアルフォンスは駅までやってきた。そこで手っ取り早く銀時計を見せれば、田舎の駅員は驚き慌てて中に通してくれた。なんとかとハサミは使いようだよな、というエドワードに、アルフォンスは苦笑しただけだった。


 東方司令部の大佐殿の机上名物、誰が呼んだか白い山脈、実体は未決済書類の山の上にさらに一枚がその朝追加された。
「…なんだね、これは、中尉」
 一応はちらりとその内容を見た後、ロイは眉間に軽く皺を寄せて尋ねた。あまり聞きたくないという顔をしていたが、聞かずにもいられなかったようだ。ただそれが職務上の理由なのか単なる好奇心(書類仕事に飽きたことに起因する)なのかまではわからなかったが。
「声明文のようですが」
 中尉はちらりと上司を一瞥した後、興味なさげな冷たい声で淡々と答えた。いや、そうじゃなく…、とロイは詰まってしまう。そんなものは見れば解るのだ、と。
「残念なことに、あとほんの数百メートルずれてくれれば南方の管区になる場所で、テログループと思しき連中が何か活動をしようとしているようですね」
「……何かって…」
 その「何か」が問題じゃないのか?
 とロイは思ったが、もはや口に出そうとはしなかった。何をするにしてもしないにしても、とにかく今一番の急務はこの目の前の山脈を開拓することだろうかと思ったからだ。それでも何かが引っかかっていたのは、もはやこれは、予感とかあるいは運命のようなものだったのかもしれない。

 最初こそ声明文を無視した(せざるをえない面もあった)ロイだったが、休憩を取りながら再び目を通してみた。そして、不意に眉間を曇らせる。
 声明文の内容、要求自体は特に真新しいものでなどなく、だからその部分は特に感慨もなく読み飛ばしたのだが、他の部分に引っかかるものがあった。
 件のグループは、とある田舎の街の線路を復旧させないで孤立させるつもりであるようだ。ある程度は自給できるだろうけれども、いずれは物資は絶える。そうさせたくなかったら…、というその脅迫文はひねりがなかったが、かえって本気に思えて眉間にしわが寄った。
 そして彼の胸にはいやな予感がわいた。
 まさかと思うが、うちのトラブルメイカーはそこにいっていやしないか、と、彼は思ったのだ。そして彼は知ってもいた。いやな予感ほどよくあたる、ということを。

作品名:わがままなバーミリオン 作家名:スサ