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わがままなバーミリオン

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 にやり、と笑う少年の顔は少年らしくもなければ子供らしくも、天才らしくもなかった。悪だくみを心から楽しむ顔で笑って、エドワードが提案したのは、自分を人質にとっている、という声明を電報で追加させることだった。
 そして、話は東方司令部へと移行する。
 ――ありえないだろう、と思いつつも、ロイは未だに、エドワードがテロリストに拘束されていると信じていた。実に、あわれなことに。


「特に動きはないようです…、大佐、どうしましょうか」
 部下の報告にロイはしばし思案気な顔をして黙り込んだ。
「…静か過ぎはしないか?」
「は…」
 かわいそうに、真相など知りもしない大佐殿は慎重な顔で部下に問うた。部下も勿論真相など知りはしないから、そうですね、と生真面目に返す。
「…接触してみよう。とりあえず、駅に潜り込んでみる」
 こうして見張っていても埒があかない、と呟いた上司に、当然部下は慌てた。上司はいかにも自分が行く様子を全身で明らかにしていたからだ。
「待ってください大佐、斥候でしたら我々が…」
「いい。…ハボックはいるか」
 ロイは部下の言を遮って、どこかにいるはずの腹心の部下の名前を呼ぶ。
「はいはい、なんでしょう」
 飄々とした様子で出てきたのっぽの部下を示しながら、ロイは言った。こいつを連れていく、大丈夫だ、と。端的に。
「しかし、護衛を…」
「そんなに大勢で行ってどうする。警戒を煽るだけだ」
 ロイは却下し、ハボックに向かい「偵察だ」と短く口にした。背の高い男はたれ目を何度か瞬かせたあと、アイ・サー、と答えたのみだった。緊張らしきものは、ついぞ彼の中からは見つけ出せなかった。

 軍服ではさすがになんだな、ということで、急遽街中で適当な服を見つくろった。本当に何の変哲もない普段着だ。
「しかし、あれですね大佐」
「なんだ」
「大将のやつは、トラブルにほとほと好かれてんですね」
「………」
 ロイはとりあえず黙った。確かにそうだと思ったが、同じことを考えているというのもなんだか癪だったし、遠まわしにいやみを言われているような気になったので。
 そうして駅までやってきてみれば、やはり、特におかしな様子は感じられず、ロイは軽く眉をひそめた。あまりにも普通すぎる。危険なにおいなどどこにも感じられなかった。
 とりあえずは誰か適当に捕まえてみるか、と、目についた改札の職員に目を付ける。
「…失礼。ちょっといいかな」
 にこやかに声をかければ、相手は瞬きしたあと、すいません、と謝ってきた。まだ何も言ってないんだが、とロイが言う間もなく、相手は説明を始めた。
「すいません、まだ動かないんですよ。復旧のめどが立っていなくて…」
 復旧?
 と、ロイは首を傾げた。おかしなこともあったものだ。テロリストに襲われているはずではなかったのか、この駅は。
 と、その時だった。
「ちょっ…なにいってんだよ違うだ…」
 駅舎の奥から、厳しい突っ込みとともに出てきた小柄な人影に、今度こそロイは絶句した。
 変装のつもりなのか何なのか知らないが、眼鏡をかけて髪を帽子で隠している。服装も知るものとは違った。だが、そんなものでごまかされるわけがなかった。
「…鋼の…?」
 呆然とロイが呟く背後では、ハボックがぽかんとしている。
「え…?」
 ぎこちない動きでこちらを振り返る小柄なひとにロイは人生で一、二を争うほどの脱力感を覚えた。


「だからぁ」
 むっつりと腕組みしてあたりの空気をぴりぴりしたものに変えるロイの前で、珍しいことに、ひたすら小さく、下手に出ながらエドワードが謝罪と説明を繰り返していた。
「ごめんて…悪かったよ、ほんとにさ…」
「ごめんなさいですんだら軍部はいらん」
 取りつく島もない声で言いきったロイに、ハボックはこそりとため息をついた。なんて大人げない上司なんだ、と。だが口には出さない。エドワードも今回はちょっと反省すべきだろう、と思ったので。後はまあ、見ていてちょっと展開が楽しみな部分があるというのも大きいが。
「だからぁ…ほら、なんていうかー…その…な?」
「な? じゃない、な? じゃ!」
 ロイは大分お冠だったが、心底怒っているのとは違うのがわかるので、エドワードもハボックも放っておけるのだ。だが根が善人ばかりの駅職員達は、まさか軍の大佐殿が直接やってきてしまうとは思っていなかったので、全員部屋の隅で直立不動だった。皆が瀕死の顔をして。
「大体君は何を考えてるんだ! こんな、狂言に自ら乗るなんて馬鹿げてる! いったい全体、もっと思慮とか分別というものは持てなかったのかね!」
 ガンッ、とテーブルを叩いて怒鳴ったロイに、エドワードの短い堪忍袋の緒はとうとう切れた。そもそも今日は普段に比べたらずいぶんもったほうなのだ。
「なんだよこのわからずや! あんたには血も涙もねーのかよ! 誰も傷つかない嘘ならだまされてやったっていいじゃねーか!」
 真っ向から言い返したエドワードのまっすぐな目としばしにらみ合っていた黒い瞳は、ふい、と苦痛を覚えた色をしてそらされた。そのことに一番戸惑ったのは、たぶん向かい合っていたエドワードに違いない。
「…大佐?」
「…君の言いたいことはよくわかった。…そうだな。誰も傷つきはしない」
 ロイは冷たい、突き放したような声で言うと、静かに立ち上がった。そして、それまで放置していた職員達を一瞥し、短く告げる。
「本来なら、被害はないとはいえこんな狂言は許されるものではない。わかっているとは思うが」
 職員達は真っ青な顔でこくこくと頷いた。それに、苦笑ではあったけれどもロイは笑みを浮かべて、首を振った。
「だが、初めから何もなかったから、誰も罰せられることはない。我々は災害に乗じてテロリストが駅を占拠する事態を想定して、訓練に赴いた。だから、何事もなかったとしてそれは当り前のことだ」
「え…」
 誰かの口から驚きの声が漏れた。
「事情は深くは尋ねないが、君らには君らの仕事があるだろう。私に、私の仕事があるように」
 遠回しに本来の業務をこなして線路をさっさと復旧させろ、ということを伝える台詞だったが、職員達は雷に打たれたような顔をして頭を下げると、ありがとうございます、声を揃えて言って、めいめいが己の仕事をするために駈け出した。
「…君も」
「え…」
 エドワードはぽかんとしたままロイを見上げた。彼はなんだか、傷ついているように見えた。
「君も自分の旅を続けるといい。…だが二度とこんな狂言はしてくれるな」
 静かに言って、彼は踵を返す。その背中はまるでエドワードを拒絶しているように見えて、たまらなくなった。だから、何かを言おうと口を開いたハボックを無視して、その背中に飛びついたのだ。
「まてよ!」
「…っ!」
 勢いがついていたせいで、ほとんどロイを突き飛ばすような格好になってしまっていた。とはいえ相手も軍人なので、無様に床に転がされるようなことはなかったが、何しろ機械鎧のエドワードに全力でタックルをかまされてはたまらない。バランスを崩してしまったのは無理もないことだっただろう。
「鋼の! いったい…」
「あんたなんでそんな顔してんだよ」
作品名:わがままなバーミリオン 作家名:スサ