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カイトとマスターの日常小話

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マスター、電話が鳴っています。








 ジリリリリリン♪

 けたたましい音で今時有り得ないアナログの黒電話が鳴る。マスターが五月蝿いという顔をして取る。
 それを横目で僕は見やる。…電話にはあんまり良くない思い出がある。


 僕がマスターの元にやって来て、…起動して間もない頃の話だ。


 マスターは今みたいに家で仕事をしてなくて、会社に勤めてた。朝早く出掛けるマスターを見送って、夜遅くに帰ってくるマスターの帰りを、時計を睨めっこしながらまだかなまだかなと待っていたのは三日だけ。玄関で帰りを待つのをマスターに禁止されたのだ。

「いい子は九時には寝るもんだ」

そんな子、いまどきいません。それに僕は子どもじゃないです。…一応、年齢設定は成人設定なんですけど。お酒もタバコも(お酒は飲んだことないし、タバコなんてマスターが吸わない人だからどんなものかしらないけど)大丈夫な年齢設定なのに、マスターは僕を子ども扱いだ。
「いまどき、そんな子いませんよ」
僕がそう言うと、マスターは口答えするなと僕を小突いた。
「…ま、お前には悪いとは思ってんだよ。…全然、構ってやれてないし…」
人は働かないと食べていけないからな…マスターはぼやくようにそう言って、僕の頭をくしゃりと撫でた。
「取り敢えず、遅くなるときは電話するから、俺には構わず寝ろ」
「…解りました。…マスター、」
渋々、頷いて、僕はマスターを見つめた。それにマスターはネクタイを緩めつつ、僕を見やった。
「あの、デンワってなんですか?」
初めて聴く単語に僕が首を傾げると、マスターの首も傾いた。
「…お前、科学の最先端をいく生体アンドロイドのクセに電話を知らないのか?」
何か馬鹿にされた気がする。僕がむっと眉を寄せると、マスターが玄関から続く廊下の真ん中にある台の上の黒い物体を指差した。
「カイト、あれが電話だ」
「これがデンワ?」
「そう。これが鳴ったら、出ろ。家にかかってくる電話はあんまりないからな。三回鳴らして、一回、切れてまた鳴り始めたら、出ろ。他に鳴る電話には出なくていいからな。…オレオレ詐欺とかだったら困るしな…」
「(オレオレサギってなんだろ?…鳥の種類かな?)…解りました。でも、どうやったら出れるんですか?」
「…そこから、説明かよ。アナログだな…」
「…すみませんね」
「…いや、面白いけど。…使い方はな、この受話器を取って、耳に宛てる。切るときは受話器を元に戻す」
それをやって見せて、それを理解した僕が頷くとマスターが僕の頭を撫でた。
「カイトはおりこうさんだな。アイス食ってもいいぞ」
「アイス!!」
子ども扱いにムカついたけれど、その言葉を前に些細なことなど吹っ飛んでしまう。
「…現金なヤツだな…」
マスターが呟くのが聞こえたけれど、聞かなかったことにしときます。





そして、次の日。
マスターの帰りを待っているとデンワが鳴った。
びっくりするほど、けたたましい音で。

「何、この音!?」

初めて聴く音にびっくりして、音の鳴る方へ視線を向けるとマスターが昨日、教えてくれたデンワが鳴っている。恐る恐る近づくと、デンワは切れてしまった。そして、また鳴り始めた。
「っ!?」
それに驚いて、僕は一歩後退した。
(…三回鳴らして、一回、切れてまた鳴り始めたら、出ろ…って言ったよね?)
マスターが言ったことを思い出して、コードで繋がったものを掴んで、僕は恐々、耳に宛てた。
『もしもし、カイト?』
掴んだものから、マスターの声が聴こえた。
「……マスター?…マスターいないのに、マスターの声がする?何で?」
驚いて辺りを見回すけれど、物音ひとつしなくて、マスターの気配はない。
『おーい、カイト?お前、何、言ってんだ?』
「マスター、どこにいるんですか?声がするけど、姿が見えないですよ?」
『当たり前だろ。電話なんだから』
「…これ、録音かな?…何で、マスターの声がするんだろう?」
首を捻るけれど、さっぱり解らない。
『録音じゃない。…ホントにお前、電話の使い方知らないのか?』
呆れたようなマスターの溜息が聴こえてきた。それに思わず、ムッとなる。
「…マスター、どこにいるんですか?隠れてないで出てきてください。僕をからかって楽しいんですか?」
『隠れてないし。…お前、何か勘違いしてないか?』
「何が勘違いなんですか?…いるなら、早く出て来てください。…マスター、…寂しいです…」
心細い。…寂しい…そんな感情が溢れて止まらなくなる。…マスターが忙しそうにしてるから、言えなかった言葉が口を衝く。…マスターの声が聴こえなくなってしまった。
「…ますたー?」
握り締めたそれに問いかけると、マスターの深い溜息が返ってきた。
『…っ、お前、それは反則だろ。…ああ、もうっ…』
何が反則なのだろう?首を傾けるが、解らない。
「…なるべく、早く帰るが、多分、遅くなる。…お前はアイス食ってクソして、さっさと寝ろ!!」
怒声が返ってきて、僕は目を開く。
「…マスター、」
「…何だよ?」
「僕は排泄出来ません」
マスターの言葉をそのまま言うのは下品だと思い、言葉を変えてそう言うとマスターは沈黙してしまった。その沈黙に耐え切れなくなって、僕が口を開こうとすると引き攣った笑い声が返ってきた。
『…っ、お前は大昔のアイドルかっ、……っくっくく、お前、面白過ぎ…っ』
「? 何がですか?」
『…そう返って来るとは思わなかったぜ…ぷぷっ、……いや、まあ、いいわ。…カイト、電話ってのはな、音声を電気信号に変換して離れた場所に送り、再び音声に戻して通話する機械なんだ』
「…へ?」
僕は間抜けな声を洩らして固まった。
『…ま、俺も説明が足りなかったな。でもまあ、お陰でお前が面白くて可愛いヤツだって良く解ったわ。お土産にコンビニで雪見、買ってきてやるよ』
「…え?…あ?」
『取り敢えず、良い子は早く寝ろ。待つな』
「マスター?!」
『…おやすみ…』
その声を最後にぷつっと音がして、電話からはマスターの声はしなくなった。何度呼んでも、マスターの声は聴こえて来ない。…掴んでいたそれを元通りに戻して、僕はマスターが言った言葉の意味を考える。…考えてるうちに寝てしまい、帰ってきたマスターに怒られたのを覚えてる。…僕が電話の意味をちゃんと理解出来るようになったのは、マスターとの電話のやりとりを数回重ねてからで……、
「…お前、本当に賢いのか?…本当はバカなんだろ?」
と、マスターは呆れたように失礼なことを僕に言った。







「…解った。…何とか、上げるわ。出来たら、電話する」

仕事の話だったらしい。受話器を置いたマスターが僕の視線に気付いて、それからにやりと笑った。…僕の好きじゃない顔だ…。こういうときのマスターは僕をからかう気、満々なのだ。
「何ですか?」
「別に。…カイトも来た頃は可愛かったなと思ってな」
「僕は今も可愛いですよ。…マスターは、何て言うか…嫌なひとになりましたよね」
「可愛いって、自分で言うな。可愛げねぇな。そして、嫌な奴で悪かったな」
「なくて、結構。嫌な奴だって自覚があったんですね。安心しました。…それより、ご飯出来ましたよ」