カイトとマスターの日常小話
カイトとアイスと俺。
今日は月に一度カイトが wktkする日だ。
銀行に行ってくると言う俺に、カイトはキラキラした目をして、そして心配そうに、
「気をつけて行ってくださいね。車に轢かれちゃ嫌ですよ」
と、俺を見送る。…俺が死んだら、アイス食えなくなるからな。うん。…そう思いつつも、カイトが差し出してきたマフラーを巻いて、外に出る。外出するのは一週間ぶりだ。仕事が立て続けに入ったお陰で篭りきりだった。…ああ、太陽が眩しいぜ。
近所の銀行で当座の生活に必要な分だけ、お金を下ろして家に帰る。…コンビニで肉まんでも買おうかと思ったが、昼飯前だ。…間食すると、太るしな。カイトの作る飯が美味しくて食いすぎるのがいけないんだ。カイトに付き合って、昔は口にしなかった甘いもんも食うようになったしな。取り敢えず帰りが遅いとカイトが心配するし…それは多分、俺じゃなくてアイスの心配だろうが…。そう思いながら、家に真っ直ぐに戻るとカイトが出て行ったときと同じように、俺を玄関で出迎えた。
「おかえりなさい。マスター」
「…ただいま。…カイト、悪いけどお茶、淹れて。仕事部屋に持ってきて」
「はーいVv」
廊下をスキップしながら、キッチンに入っていくカイトを見送り、俺は仕事部屋に入ると引き出しからポチ袋を取り出し、それに4千円入れた。その4千円はカイトのお小遣いと言う名のアイス代だ。
105円(税込)×31日(一ヶ月分)=3255円
の単純計算だが、たまにはダッツとか高級アイスも食いたいだろうと思い、4千円渡している。カイトを購入して一週間目の日、カイトに服を買ったり、その他、自分の欲しいものを買いなさいと諭吉を2枚渡したのだが、カイトはその諭吉をすべてアイスに換えやがったのだ。そして、冷凍庫にアイスが入りきらず、大騒ぎした。…あのときのことを思い出すと、少々の涙と溜息が出てくる。それ以来、小学生のお小遣い設定にし、アイスは一日、一個。自分でやりくりしろということで、4千円渡してる。カイトはそのお金から日々のアイス代を賄っている訳だ。足りなくなっても、それは自分の所為。俺が財布の紐を緩めないことを理解すると、カイトはちゃんと渡したお金からアイス代をやりくりするようになった。
「マスター、お茶が入りましたよ」
「おう。有難う」
ニコニコ上機嫌な顔で俺にカップを差し出すカイトから受け取って、手にしたままのポチ袋をカイトへと差し出した。
「はい。…無駄遣いするなよ」
「ありがとうございます。マスター、大好きVv」
にぱーととろけるような笑みを浮かべ、カイトが言う。お前が大好きなのは、俺じゃなくてアイスだろーがと思ったが、喜んでいるならまあいいかと思う。…あれだ、よくホームドラマとかのシーンでもある父親が子どもにプレゼントを買ってきて、それに喜ぶ子どもを見ている幸せな父親の気持ちだ。今の俺…。…って言うか、カイト、俺の子じゃないんだけどな。その前に子どもには見えない見掛けのはずなのに、何でこう子どもっぽいのだろうか…。他所のカイトは格好良かったり、クールだったり、大人っぽい感じだったりするのに…。…育て方、間違えたかもな…。それにしてもカイトのアイスに懸ける情熱は一体何なんなんだか?アイス以外に欲しいものはないのかね?
「…お前さ、アイス以外に欲しいものとかないの?」
ふと思ってそう訊くとカイトはちょっと驚いた顔をして、俺を見やった。
「ありますよ」
「…へー。何?」
アイス以外に欲しいものがあったのか。…質問した俺の方がその答えに驚いた。
「マスターが作る僕だけのオリジナルの曲です」
きぱっとそう言って、カイトがにっこり笑う。…ううっ、墓穴を掘った。
「気長に待つつもりですから、よろしくお願いしますね」
「…あー、うん」
図面しか知らない、DTM、MIDIって何?…音符も読めない、リコーダーも満足に吹けなかった俺に曲を、詩を書けと言うのか…。…まあ、カイトは歌うために存在するんだし、いずれはとは思っているが…勉強しないと無理だ。
「マスター、眉間に皺寄ってますよ。そんなに難しく考えないで」
「…そうは言っても、な」
「別に楽譜や伴奏がなくても、マスターが歌ってくれれば覚えられますから。それに僕が歌って、マスターが聴く歌なんだから、マスターがいいと思ったら、それで僕もいいんですよ」
本心からそう思って言っていると解るから、性質が悪い。…お前は素直過ぎだ。…ま、そこが可愛いとこなんだけどな。
「……カイトに慰められるとはな…」
…カイトのように素直になれないのが俺なわけで、悪態になってしまった。
「たまにはいいでしょ。…アイス、買ってきますね。マスターもどうですか?」
くすりと笑ったカイトには全てお見通しなのだろう。…しかし、早速、アイスかよ…。
「…ダッツの抹茶」
「じゃあ、僕はリッチミルクにしようかな。…マスター、半分こしませんか?」
「好きにしろ。そのアイス代は俺が出してやるから、散歩がてら買いに行くか」
「え、ホントですか!! マスター、やさしい!」
現金な奴め。浮かれながら玄関に向かい、俺を急かすカイトに苦笑を洩らして、本日、二度目の外出をした。
オワリ
作品名:カイトとマスターの日常小話 作家名:冬故