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カイトとマスターの日常小話

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雨降る午後







 ぽつ…。


 窓に当たった音に顔を上げる。それと同時に窓ガラスを流れ落ちていく水滴。


「雨かー」


と、暢気に呟いて、僕は我に返った。


「せ、洗濯物!!」


先を知らせる雨の音に慌てて、庭に走り出る。それと同時に本格的に降り始めた雨に泣きそうになりながら取り込んだ洗濯物は半分は雨に濡れてしまった。
「……もう一回、洗わないと…」
雨に濡れてしまった洗濯物を抱え、溜息を吐くも束の間、マスターの仕事部屋、換気のために窓開いたままだし、僕の部屋の窓も全開だ。涙目になりながら、窓を閉めて回る。風が吹いていなかったから、雨は吹き込んでなくて、床もマスターの本も僕のベッドも濡れずに済んで良かった。ほっと一安心して、溜息を吐く。…身体が冷たい。シャツを引っ張って自分自身を確認すると、前髪から、ぴちょんと滴が鼻先に落ちた。
「…シャワー浴びなきゃ…」
別に濡れたって、僕は風邪は引かない。濡れたら昔は壊れるって思っていたけれど、それは思い込みだったことが解ったから、濡れることに抵抗はないし怖いとも思わない。でも、濡れたままでいるとマスターが嫌そうな顔をする。風邪を引くんじゃないかって心配してくれる。僕をひととして同じように接してくれるのはとても嬉しい。雨に濡れても、それを避ける軒先があり、濡れた身体を拭き、冷えた身体を温めることが出来るのはとても幸せなことだ。そう思いながら、シャワーを軽く浴びて、乾いた服に着替える。和室から見える庭に目をやると紫陽花の青紫の花弁が鮮やかに映った。突然降り出す雨には困るけれど、乾いた大地を潤し、実りをもたらすのはこの季節に降る雨なのだとマスターは言っていた。
「…降らないと困るよね」
でも、折角、外に干した洗濯物まで濡らして欲しくない。無事だった洗濯物を畳みながら、我儘なことを思う。仕分けした洗濯物をそれぞれの場所に仕舞って、この時間になるとふたりで座ってお茶を飲むダイニングの椅子を見やる。
(…そう言えば、マスター、傘持って出かけたかな?)
今日は珍しく、事務所に出勤しないといけないとかで珍しく早く起きてきたマスターは着なくなったスーツにネクタイを締めて、家を空けている。普段のシャツににジーンズってラフな格好のマスターに見慣れてしまった所為か、いつもは下ろしてる前髪を上げ、久しぶりに見るスーツ姿のマスターはとても格好良く見えた。ほんのちょっと前までマスターは会社に勤めてて、その帰りを僕はまだかまだかと時計を見やりながら、待ちわびていたことを思い出す。
(…そんなこともあったなぁ…)
一緒にいる時間は二時間くらいで、マスターは直ぐにシャワーを浴びて寝室に行ってしまう。それを引き止めたいけれど、目の下に隈を作って申し訳なそうな顔をして、おやすみを言ってくれるマスターに構って欲しいなんて、言えるはずがなかった。
(…今の僕は、本当に幸せだ…)
会社勤めを辞めたマスターは在宅で出来る仕事をしている。マスターが仕事をしている間もそれ以外の時間も共有し、共に過ごすことが出来るのは無常の喜びだ。だから、こうして、マスターがいないとぽっかりと胸に穴が空いた様な寂しい気持ちになる。…こんな気持ちになるのは多分、雨の所為だ。
 外はしとしとと雨が降っている。僕は戸締りを確認し、傘立てにやっぱり置いたままの大きめの蝙蝠傘を手にして、駅にマスターを迎えに行くことにした。







 改札口は色んな人々で溢れかえっていた。湿った匂いがする。行き交う人の邪魔にならないよう端っこに寄って、濡れた傘と乾いた傘を手にぼんやりと視線を投げる。ここに来るまでに水溜りと路面に跳ねる滴の所為でジーンズの裾もスニーカーも濡れてしまった。湿り気にいつもは跳ねる髪もしっとりとして頬っぺたに張り付く。それを気にしながら、ふっと改札口に視線を投げると驚いたような顔でこちらを見ているマスターと視線が合った。マスターは改札口から吐き出される人々の間を行き交って僕の前にとやって来た。
「何、やってんだ?カイト」
「何やってんだじゃないでしすよ。迎えに来たんですよ」
マスターの上げた前髪は既に崩れて、前髪が疎らにぱらりと額に落ちている。そしてスーツの肩には雨の名残か染みが広がり、湿った匂いがした。
「迎えに?」
傘を見せるとマスターは面食らったような顔をしてがしがしと頭を掻いた。ぱらぱらと前髪が落ちていつもと同じになってしまった。
「雨降るって、天気予報のお姉さんが言ってたのに、持っていかなかったでしょう。もう濡れてるじゃないですか」
「…あー、バタバタ出てきたから忘れたんだよ。朝、雨降ってなかったし」
「…だろうとは思いましたけど」
手にしていた蝙蝠傘をマスターに差し出すと、マスターはそれを受け取り、わしゃわしゃと僕の頭を撫でた。
「ありがとな」
「どういたしまして…って、頭ぐしゃぐしゃにしないでください!!」
髪の流れを無視して好きな方向をむく毛先。むうっと口を尖らせ、マスターを睨むとマスターは可笑しそうに小さく笑った。
「いや、嬉しかったもんでついな。親父もこんな気分だったのかねぇ」
どこか昔を懐かしむようにそう言ったマスターの顔は優しくて、ぐしゃぐしゃになった髪を梳く指は温かい。
「帰るか」
「はい」
もっと撫でて欲しいとかそう思ったりもしたけれど、子どもではないのだから自重しないとだよね。そう思いながら先を歩き始めたマスターの後を僕は追いかけた。





おわり