【テニプリ】温泉に行こう!
それに驚き、跡部は目を見開く。それに手塚は目を眇めた。
「風呂に入りに来たんだぞ。服を着たまま、入れるか」
手塚はさっさと裸になると腰に一枚、タオルを巻き、眼鏡を外し、風呂道具を抱えると脱衣所奥の引き戸を開き、中に入っていく。跡部はそれをぽかんと見やる。
(…アイツには恥じらいってもんはねぇのか?)
いくら、見知った仲とは言え、裸を晒すのは抵抗がある。物心つかない子どもではないのだ。色々と不都合もあるだろうが…跡部は思いながら、手塚に倣い、服を脱いで脱衣籠に衣服を放り込むと、覚悟を決めて、がらりと引き戸を開いた。
「…へぇ」
御影石で造られた内風呂の奥、両隣を仕切られ木陰になった場所に大きな木桶になみなみと湯が張られている。
「面白ぇ」
「そうか」
二つあるシャワーの付いた体を洗うスペースのうち一つを占拠した手塚が体を泡まみれにしながら、顔を上げる。眼鏡がなく視界がはっきりしないのか、人相が悪い。その空いた横を陣取り、跡部は手塚を真似て椅子に腰掛けた。
「シャンプー貸せよ」
「勝手に使え」
遠慮なく勝手に使う。泡を流し終え、隣を見やれば手塚はもたもたとまだ躰を洗っていた。背中に手が届かないらしい。
「…貸せよ。流してやる」
あまりのもたもたぷりに呆れて、手を貸す。手塚の躰が硬いのは昔からだが、年々益々、硬くなっているようだ。
「…頼む」
スポンジを渡され、満面なく背中を擦ってやる。何でこんなところまで来て、手塚の世話を焼いてやらないといけないのかと思うとかなり切ない。
「ほらよ」
「ありがとう」
スポンジを返すと、素直な言葉が返ってくる。跡部は肩を竦めた。
「どういたしまして。ところで、コンディショナーはどこだ?」
見回すがシャンプーのボトルしか見当たらない。
「そんなもの、持って来てない」
躰の泡を流し終えた手塚が視線を上げる。跡部は顔を顰めた。
「持って来るだろ。普通」
「シャンプーがあれば充分事足りる。使うなら自分で持ってこい」
手塚はそう言うとさっさっと外風呂の方へと行ってしまった。跡部は仕方なしにコンディショナーを諦め、手塚が使っていたスポンジを手にした。
「おい、ボディソープも石鹸もないぞ」
「あるだろ。鏡の前に」
「…鏡の前?……まさか、この黒いのか?」
作品名:【テニプリ】温泉に行こう! 作家名:冬故