【テニプリ】温泉に行こう!
備え付けの石鹸皿には真っ黒な塊が一つあるだけ。これが、石鹸か?石鹸ってのは、黒くはねぇだろう…普通…跡部は眉を寄せた。
「炭で造った石鹸だから、黒いんだ。中々使い心地は悪くないぞ」
「……炭…」
躰を洗えるものはこれしかないらしい。躰が真っ黒にならねぇだろうな?…心配しつつ、跡部は溜息を吐くと、さこさこスポンジに擦り付け、泡立て、首を傾けた。
「…黒く…ねぇな…」
立っている泡はふわふわと白い。一体、どういうことだ?
「おい、この石鹸、黒いくせに泡は白いぞ」
「当たり前だ。石鹸だからな」
「………」
未知との遭遇。恐る恐る、スポンジで躰を擦る。
(…お。悪くねぇな)
泡立ちも良いし、肌に馴染む。意外な発見だ。上機嫌に跡部は躰を洗い終えると、外湯へと出た。
「ど真ん中占拠してんじゃねぇよ。端に寄れよ」
悠々、躰を伸ばし湯舟に鼻の先まで浸かって、半ば微睡んでいた手塚を跡部は小突く。仕方なしにスペースを開けた手塚の隣にざぶりと跡部は身を沈ませた。
「…ふぅ」
一息吐いて、空を仰げば、木漏れ日が湯面に反射して眩しい。湯舟からはほんのりと木の香りがする。
「…中々、悪くねぇな」
「そうか」
「…でもよ」
「何だ?」
「…男、二人で来るとこじゃねぇな」
「……そう、だな」
木桶の湯舟は大の男二人が入っていてもまだ余裕があるが、隣を見れば、手塚。…まぁ、それは仕方がない。ぐぅっと躰を伸ばして弛緩した跡部は同じく弛緩し、無防備な顔を晒している手塚を見やった。
「…お前さ、ちゃんと飯食ってんだろうな?」
「何だ?、いきなり…」
「痩せてねぇか?」
「体重は変わらないが」
「ちゃんと、食ってんだろうな?」
手塚は現役を退いてから、健康管理は程々になり、一人暮しということもあってか面倒臭ければ平気で食事を抜く。栄養失調で倒れたことなど一度や二度ではない。その度に面倒かけられるのは自分なので、跡部は週に一度は様子見も兼ねて手塚の部屋に、掃除と洗濯、ご飯を作りに行く。既に習慣になっている。
「ちゃんと食べてる。…リョーマに抱き心地が悪くなったとこの前、言われたからな」
手塚の言葉に跡部は目を見開き、ざらざらと砂を吐く。二人の仲を知らない訳ではないが、他人の性生活など余り聞きたい話ではない。そんなことの為に手塚の身を心配してやるのも馬鹿馬鹿しくなってくる。
「…そーかよ」
作品名:【テニプリ】温泉に行こう! 作家名:冬故